湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2009年5月16日、土曜日)

 

レッズがイニシアチブを握ったハイレベルな対峙・・両チームの素晴らしい守備に目を奪われた・・(レッズvsガンバ, 0-0)

 

レビュー
 
 「この試合ではポゼッションがままならなかった・・まあ、二試合分のディフェンスをさせられたと言っても過言じゃないね・・それでも、守備の部分で『このレッズ(その攻撃)』をしのぎ切れたというのは(そんな思いは)ある」

 「あの」ガンバ西野朗監督の口から、こんな謙虚なコメントが出た。フムフム・・

 たしかに前半では、タテへの一発カウンターで決定的チャンスを作り出したり、レアンドロが仕掛けた勝負ドリブルからの(レッズファンが一瞬息を止めた!?)決定的シュートなど、何度かチャンスを作り出しはしたけれど、全体的に見れば(レッズ監督フォルカー・フィンケが言っていたように)ゲームの全体的なドミネーション(支配)やシュートチャンスの量と質、またシュート数でも、レッズがガンバを凌駕したことは確かな事実だった。

 同じような志向ベクトルにあるハイレベルな両チームが、同じようなアプローチ(自分たちのチーム戦術を貫き通すという姿勢!)でゲームに臨んだ・・だから、素晴らしくハイレベルな勝負マッチになるのも道理だった・・ただ結局は、全体的なサッカー内容で、レッズがガンバを凌駕した・・でも・・ってな感じですかネ。この「でも・・」のニュアンスについては、後述です。

 そんな背景があったから、すかさず西野監督に質問を投げかけた。「いま西野さんは、『このレッズ』をしのぎ切れたなんていう(レッズに対する畏敬の念を込めた!?)発言をされたけれど、昨年のレッズと比べて、どこが良くなったと思うか?」

 そんな質問に、西野監督は、開口一番こんなことを言うのですよ。「たしかに上手くはなったと思うヨ・・ただし、強さは感じなかったネ・・」

 そうそう、そうこなくっちゃ西野朗じゃない。彼が言いたかったことは、多分こんな感じ。

 ・・ポゼッションでは優位に立たれ全体的にゲームを支配されたし、仕掛けのプロセスでもスマートでハイレベルなモノを魅せつけられた・・それでもレッズには、オレたちの守備ブロックを崩し切るところまで行けるだけの強さまでは備わっていないネ・・たしかに良くはなっているけれどナ・・

 そして、話し好きの西野さんは、やはり最後は、レッズの若手の成長を、サッカー内容が躍進しているキーポイントに挙げていた。まあ、そういうことだけれど、前述した「でも・・」には、そんな躍進しているレッズとはいっても、結局はガンバの守備ブロックを崩し切るところまでは行けなかった・・という意味合いを込めたというわけです。

 ・・たしかにゲームを支配はしている・・でも、人とボールが動きつづけるコンビネーションでは、どうしても決定的スペースを攻略できない・・また、原口元気やエジミウソン、はたまた山田兄弟(暢久と直輝)や細貝萌といった強者が繰り出す勝負ドリブルも、ガンバ守備ブロックを深く「えぐる」ところまでは行けない・・

 ・・ということで、このゲームの背景には、両チームの強力な守備ブロックの対峙という側面もあった・・とにかく、両チームともに、チェイス&チェックは当たり前として、そこでの協力プレスや次のインターセプト(相手トラップの瞬間を狙ったアタック)だけではなく、ボールがないところでの忠実ディフェンスプレーでも素晴らしい「意志」を披露しつづけた・・

 実はわたしは、両チームが繰り広げつづけた、忠実でダイナミック、そてクリエイティブな守備プレーが(相手からボールを奪い返すイメージが)有機的に連鎖しつづけるプロセスに、もっとも大きな舌鼓を打っていたのですよ。フムフム・・

 あっと・・レッズの勝負ドリブル。そのポイントで忘れてならないのが、セルヒオ・エスクデロ。

 この試合でのセルヒオ・エスクデロは、ようやく持ち味を発揮しはじめた(持てる才能を効果的に表現できるようになった)という好印象を残しました。やはり彼が繰り出す超速の勝負ドリブルは、ツボにはまればもの凄い威力を発揮する。何度か、右サイドで、これまたガンバのユース上がりの伸び盛り、20歳の左サイドバック下平匠を置き去りにし、鋭いクロスボールを返していた。

 セルヒオ「ついで」に、彼の「好印象」のバックボーンを簡単にまとめてみましょう。

 全体的な(攻守にわたる)運動量がアップしたことは言うまでもないけれど、そこでの「走り方やアクション内容」にも変化が感じられはじめたのですよ。要は、攻撃でも守備でも、全力スプリントやリスキーな勝負ドリブルを仕掛けていく「シーン」にメリハリがつきはじめているということです。

 全力スプリントは、具体的な達成イメージがなければ出てきません。要は、積極的な意志がなければ全力スプリントなど出てこないということです。これまでのセルヒオは、足を止めた様子見か、「後追い」の全力スプリントばかりだったからネ。

 分かり難いけれど、とにかく、必要なときに(目立たないところでも)しっかりと全力スプリントでボール奪取勝負を仕掛けたり(効果的に守備に入ったり)攻撃でもしっかりとスペースへのスプリントをするようになったということです。

 たぶん「そこ」でも、山田直輝という「レベルを超えた刺激」が大きな効果を発揮したことでしょう。2歳年下のユース上がりに、チーム内のヒエラルキーでも置いていかれた。それで悔しくなかったら、もうプロなんて辞めた方がいいよ。

 ということで(!?)攻守にわたる汗かきプレーの量と質が明確にアップしはじめている、天賦の才に恵まれたセルヒオ。もちろん『まだまだ』であることは言うまでもないけれど、それでも『天才の覚醒』は、いつ見てもいいものだし、良くなっていく「感じ」さえあれば、要は、レッズのステーキホルダー(ファンも含む利害関係者)が光を放つ希望を持つことさえできれば、それだけで(プロサッカーにおいて)大変な価値を生み出しているということになるわけだからね。

 だからこそ敢えて書く。・・セルヒオ・エスクデロは、攻守にわたって、今の「二倍走る」ことをイメージしてプレーしなければならない・・それも、全力スプリントと移動の走り(一般的な動き)のメリハリを明確につけながら・・そんな「強い意志」さえあれば、彼にはバラ色の未来が約束される・・

 セルヒオ・エスクデロが効果的に「ブレイク・スルー」を果たすかどうかに「も」フォルカー・フィンケのプロコーチとしてのウデが見えてくる・・。テレビ討論会(レッズナビやGGR)でも、私のコラムでも、そのことを言ったり書いたりしてきた。フムフム・・

 さて、次のアルディージャ戦では、山田直輝が、イエロー累積で出場停止になる。フォルカー・フィンケ監督は、「彼はとても大切な選手・・その山田直輝がいないし、田中達也、ポンテ、梅崎司という主力組もまだ復帰の目処が立っていない・・難しい課題だが、何とか対処するしかない・・」と気を引き締めていた。

 最後になりましたが、記者会見後の「英語での囲み取材」でも、もちろん英語で、フォルカー・フィンケにこんなことを聞いた。「レッズのファンは、サッカーの理解という視点でも素晴らしいと思うが・・本場ドイツのファンと比べても遜色ないでしょ?」

 「まさに、そういうことだ・・この試合は引き分けてしまったが、ファンの皆さんは、内容には満足してくれたはずだ・・試合後のリアクションを見れば、そのことが明確に感じられた・・彼らはしっかりとサッカーの内容を観ているし、自分なりに評価できるだけの目を持っていると思う・・そんなファンを前にしたら、彼らのためにも頑張ろうという気力が生まれてくるし、それこそがオレのモティベーションにもなる・・この一体感・・いいネ・・」

 そして、雨が降り出す前に帰宅しようと、駐車場に駐めてあったオートバイへ急いでいたとき、レッズのユニフォームを着たファミリーの方々に呼び止められた。関係者の駐車場だから、レッズ関係の方たちだろうか・・。

 「湯浅さん・・写真いいですか?」

 「もちろんです・・シャッター押せばいいんでしょ・・そのカメラはオートですか?」

 「エッ??・・湯浅さんと写真を撮りたいんですけれど・・」

 「エッ・・アッ、そうか・・」「いまのリアクション、決してアロガントな(思い上がった)ジョークじゃないですよ・・ホントに、皆さんに、集合写真のシャッターを切って欲しいと頼まれたと思ったんですよ・・あははっ」

 そしたら、その会話を聞いていた(ファミリーメンバーの!?)サッカー小僧が、「あっ・・いまの、スゲ〜〜、笑える・・」だってサ。あははっ・・

 彼らにも、フォルカー・フィンケの最後の言葉をお話ししましたよ。感激していたよネ。そして彼らと最後に交わした挨拶は、例によって、「では・・お互いに、とことんサッカーを楽しみましょうネ・・」

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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