湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第14節(2009年6月21日、日曜日)

 

2009_「J1」_第14節・・マリノス完勝!・・また、レッズの極端なベースダウンというテーマ・・(マリノスvsレッズ, 2-0)・・(2009年6月21日、日曜日)

 

レビュー
 
 「何故プレーのリズムが(あれほど急激に!?)落ち込んでしまったのか・・これから落ち着いて分析したい・・」

 フォルカー・フィンケ監督にしては珍しく、こちらにも、落ち込んだネガティブマインドが放散されてくるような重苦しい雰囲気のなかのコメントだった。

 とはいっても、トゥーリオが出場したことへの(出場させない選択肢もあったのではないか?・・という)質問に対してコメントを出した後で、「もしこの試合でトゥーリオがプレーしなかったら、まさに真逆の質問が飛んできたはずだよな〜・・」と、記者会見場の雰囲気を和(なご)ませる余裕も魅せていた。

 そんな、長い年月と体感(経験)を積み重ねることで「しか」身につけることが出来ない、ネガティブな心理状態を超越してしまう(笑いでネガティブ心理を包み込んでしまうような)ユーモアに(わたしも留学当時に体感しつづけた)ドイツの文化背景の深さと広さを思い出していた筆者でした。でもまあ「このケース」では、フォルカー・フィンケ独自の「センス」だったという方が正しいだろうから、ここでは、彼の優れたインテリジェンスとパーソナリティーにも舌鼓を打っていた・・っちゅうニュアンスですかね。

 あっと・・本題。レッズに(その内部的な・・または、物理的、心理・精神的メカニズムに!?)起きた、思いがけなく急激なペースダウン(プレーリズムの減退)というテーマ。その『物理的なバックグラウンド』は明白です。それは、攻守にわたる運動量が落ちたということ。

 そして、全体的に、前後のラインが「間延び」しはじめたことで(中盤でのスペースが広がってしまったことで)、効果的なチェイス&チェックや協力プレスの機能性がダウンした(要は、仲間との組織プレーイメージが有機的に連鎖しなくなった!)だけではなく、攻撃でも、後方からのサポートが遅れ気味になることで、数的に優位な状況を作り難くなった。

 前半の立ち上がり30分では、両サイドバック(山田暢久と細貝萌)や両サイドハーフ(山田直輝と原口元気)そして両ディフェンシブハーフ(鈴木啓太と阿部勇樹)の6人が縦横無尽のポジションチェンジを繰り返すことでダイナミックなプレーの流れを作り出し、その流れに、最前線からはエジミウソンと高原直泰、そして最後尾からはトゥーリオが、それこそ後ろ髪を引かれることなく積極的に「溶け込んで」いった。

 木村浩吉監督が言うように、そのときのレッズは、攻守にわたるダイナミズム(有機的に連鎖しつづけるプレーイメージ)が爆発していたのですよ。でも・・

 それに関連するけれど、マリノスの木村浩吉監督が、記者会見の冒頭で、こんなことを言った。

 「これまでのレッズの試合ビデオを観ながら、例えばフロンターレ戦でのレッズは、リードされていたにもかかわらず、最後の20分間には確実に動きが止まり気味になるねと分析していた・・(その分析をベースに)そこまで何とか凌(しの)いで、最後に攻勢をかけようということでチームの意思を統一させた・・」

 そこで、木村浩吉監督に聞いてみた。「レッズの急激なベースダウンだけれど、木村さんが言っていたゲーム終盤の20分よりもかなり前の段階で起きていたと思う・・前半の30分すぎとか、後半は立ち上がりからとか・・それは、マリノスのサッカーが(特にディフェンスの機能性が)素晴らしかったからだろうか、それとも、レッズのなかの問題だったのだろうか・・?」

 「たしかに我々の、中盤から前戦にかけてのプレスがよく機能したということもあったと思う・・それをベースにして、我々も押し返せるようになったわけだから・・運動量的には、マリノスには問題ないと確信しているしネ・・相手チームの分析は(あまり)やりたくないが、もしかしたらレッズは、最初から『行き過ぎる』のではないか・・」

 そして、こんなフレーズも付け加えた。「レッズが魅せた、前半30分までのようなサッカーをゲーム全体でつづけられたら、どんなチームもかなわないだろうネ・・」

 フムフム・・。まあ、そういうことだね。とはいっても、完全にレッズがイニシアチブを握った立ち上がりの30分間にしても、決定的チャンスという視点では、物足りなさばかりが残ったことも確かな事実だった。

 要は、あれだけゲームを支配しているのだから、もっとマリノス守備ブロックのウラに広がる「決定的スペース」を攻略できてもよかったのではないか・・ということだけれど、それについては、やはり、木村浩吉監督がイメージを作り上げた「積極アクションが有機的に連鎖しつづける(忠実な汗かきを大原則とする!?)創造的なディフェンス」にも拍手を贈らなければならないと思う。

 とはいっても、レッズの仕掛けプロセス(イメージ)に問題がなかったとは言えないことも確かな事実。

 ・・全体的にはゲームを支配していながら、うまく決定的スペースを突いていけない・・高度な組織パスプレーで(パス&ムーブを基盤にした人の動きと、シンプルなタイミングのボールの動きによって)素早く連動しつづける大きな組織プレーを演出しても、結局は、忠実で粘り強いマリノス守備(特に忠実な読みベースのマーキングが秀逸!)のバランスを崩していけない・・だからスペースも攻略できない・・

 ・・そのように、たしかにマリノスの守備ブロックは強力だったけれど、それに挑んでいったレッズが、うまくチャンスを作り出せなかったということの背景に、ポゼッションを意識して(意識し過ぎて!?)ボールを動かすこと「ばかり」に気を遣いすぎ、攻撃本来の「目的」を喪失していたのかもしれないという見方もある・・そう、シュートを打つという仕掛けの目的イメージが希薄になっていたかもしれないということ・・

 私は、ドリブルシュートやタメといった個人勝負を、もっと積極的にミックスしていくだけではなく、組織パスによる最終勝負シーンを引き出す「パスを呼び込む、タテへの決定的フリーランニングも」もっと積極的に織り交ぜていかなければならないと感じていたのですよ。

 より積極的に(強い意志で)シュートへ持ち込んでいこうとする「泥臭い(忠実な)勝負マインド」なんていうふうに表現できるかもネ。さて・・

 最後になったけれど(ハナシが前後してしまうけれど)レッズのプレーの「勢い」が急激にダウンしたという現象について。

 前述したように、その背景に、レッズの強力な攻撃を『凌ごう』という意識で強固にまとまったマリノス守備があったのは確かだけれど(そのことでレッズは、人とボールがうまく動かなくなり、徐々に全体的な動きのダイナミズムも停滞気味になっていった・・そして、それを再び活性化することが出来なくなった!?)、それにも増して、攻守にわたって極限の運動量が求められるコンビネーションサッカーが、自然環境によって、イメージするようにうまく機能しなくなるという可能性も潜んでいると思っています。

 要は、日本の『蒸し暑い夏』。そこでは、両チームの全体的な運動量が低下するなかでも、少なくとも相手よりも多く走ることで、出来る限り多く、攻守にわたって「数的に優位な状況」を作りつづけるというのが現実的なテーマになるわけです。

 相手よりも、常に、少しでも多く走ることで・・というのが大事なポイントなのだけれど、それに対する「意志」を高いレベルで維持することは難しい。特に日本の場合、「走る量をクレバーにコントロール」しながら効果的なプレーを展開する・・などといったイメージ作りをした場合、往々にして、選手のマインドが「大きく消極ベクトル」に振れてしまうことがあるということです。

 わたしも何度も経験がある。そこでは「自分の弱さとの極限の闘い」が求められるわけだけれど、ほとんどの選手が、その闘いに敗れ(安易に妥協してしまい!?)プレーが縮こまってしまったり、アリバイプレーに奔ったりするのですよ。

 だからこそ、そんな(心理・精神的な)前提をもって、選手にアプローチしていかなければならないのです。

 常に、相手よりも少しでも多く(高い質も維持しながら)走ることで、出来る限り多く、攻守にわたって、数的に優位な状況を作り出しつづける(そのための仕事を探しつづける)・・という『自分の内なる闘いに対する』イメージの徹底。

 そして最後は「優れたバランス感覚」という表現に行き着く。バランスの取れた「動き」の量と質・・。

 とはいっても、最初は、あくまでも自分の限界まで「まず走る」という意識が絶対的なスタートラインになります(デッドラインを繰り返し乗り越えていく・・という極限のコンディショントレーニング!)。

 もっと言えば、自ら、日本の夏における「自分の限界」を体感しようとする前向きな姿勢・・ってか!? とにかく、はじめから「バランス」を意識してしまったら、確実に「後ろ向きの心理」になってしまうからネ。

 そんな「前向きの順応プロセス」がうまく機能すれば、それぞれの試合における「局面勝負シーン」での動きの量と質で、相手を凌駕できるようになるはずです。そして全体的な動きの量は(大幅に!?)落ちているにもかかわらず、「あのチームは、日本の夏でも動きの量と質が落ちない・・」などと、周りを『優良誤認』させられるまでになる。フムフム・・

 とにかく、イビツァ・オシムさんも含め、厳しい「日本の夏」をも超越してしまうような(環境に応じて、動きの量と質を『そこでの限界値領域にコントロール』できるような!)ダイナミックな組織サッカーを体現しようとするプロコーチは、様々な困難を乗り越えていかなければならないのですよ。

 この視点でも、フォルカー・フィンケの仕事ぶりに対する興味が尽きません。

 最後になりましたが、わたしがこれまで言いつづけていたように、マリノスは「本物」になったよね。この試合で「も」彼らの本物の強さがいかんなく発揮されたと思いますよ。

 アルビレックス、レッズ、フロンターレ、サンフレッチェ、ガンバ、エスパルス、そしてマリノス等々。とにかく彼らには、リーグを盛り上げることに対する使命感を持って欲しい熱望しますよ。彼らにとって、このままアントラーズにブッ千切られてしまうことは、屈辱以外の何ものでもないはずだからネ。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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