湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第16節(2009年7月5日、日曜日)
- さまざまな思いがアタマを駆けめぐる、高質なエキサイティングマッチだった・・(フロンターレvsアントラーズ, 1-1)
- レビュー
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- 「レフェリングに対する質問がかなったから、こちらからコメントさせてもらう」
試合後の監督記者会見。ひとしきり質問に答えたアントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督が、最後にそう切り出した。そして・・
・・内田が一発でレッドカードをもらったシーン・・彼にとっては生まれて初めての退場処分ということになった・・彼自身は、更衣室のなかで(わたしの質問に答えて)本当は手ではなく腹に当たったと涙を流しながら言っていた・・もし本当にハンドだったら、フロンターレの選手が黙っていない・・血相を変えて抗議したに違いない・・でも彼らは、レフェリーがレッドカードを出したのを見て逆にビックリしていた・・
・・たしかに、いまのリーグ状況では、アントラーズの勢いが止まった方が(リーグが面白くなると言う意味で!?)メディアにとっては都合がよいだろう・・
オズワルド・オリヴェイラ監督は、そんなニュアンスのことを言っていた。まあ、言わんとするところは、アントラーズが負けた方がリーグが面白くなるから(意図したわけではなく、意識として!?)アントラーズに厳しいホイッスルを吹く傾向があるのではないか・・ということだったんだろうね。
たしかに、前半の西村雄一レフェリーの笛は、ちょっとアントラーズに厳しいモノだったという感覚はありましたネ。でも逆に後半は、フロンターレに対して少し厳しいモノへと傾向が変わったという印象が残った。西村雄一レフェリーが、前半の「レフェリング・ニュアンスに対する確信が揺らぎはじめたこと」で、それをリカバーするために、後半は「前半とは逆の意識」に偏っていった!? さて・・
でも、まあ、リーグを面白くするために(意図的に)アントラーズに対して厳しい笛を吹いた・・ということは、ないと思いますよ。
まあ、西村雄一レフェリーにしても、日頃の酒の席などで「今度アントラーズの試合を仕切るんだろ・・あのままアントラーズに首位を独走されちゃったらリーグがつまらなくなっちゃうよな〜〜・・」などと友人のサッカー仲間たちと話し合うなかで、ちょっとは(深層心理に)『ある感覚や意識』が残っていたという可能性は誰も否定できないだろうけれどね。
とにかく、オズワルド・オリヴェイラ監督は、公の場で、そんな問題提議をすることによって、レフェリーの「深層の感覚や意識」に対して、うまくメディアを活用しながら間接的に働きかけようとしているということだろうね。プロ監督として、ごく普通の、外的な環境に対する「心理的アプローチ」ということです。策士、オズワルド・・
まあ「それ」というのも、アントラーズが強すぎるからに他ならないわけですよ。彼らは、本当に強い、強すぎる。攻守にわたり、一つのユニットとして極限の機能性を魅せつづけるのだからね。ということで、オズワルド・オリヴェイラ監督に、そのテーマについて聞いてみた。
「いまのアントラーズは、本当に強いと思う・・特にディフェンスが素晴らしい・・これまでの失点数でも、ダントツの成績を残している・・その背景要因についてコメントいただけませんか?」
・・我々の守備では、最前線からプレーが連動する・・まず前戦から(相手ボールホルダーや次のパスレシーバーを!?)追い込み、パスコースを限定する・・だから、次の味方が、有利にボール奪取勝負を展開できる・・要は、我々の守備は、チームワークとして連動しつづけているということだ・・
・・ただ、そんな連動性は、一朝一夕に作り上げられるモノではない・・2-3年間前は、様々な課題が山積みだった・・それを一つひとつコツコツと改善していった・・そして、守備のやり方がチームコンセプトとして確立した・・そこでは、互いの長所や短所を分かり合っている(長い間いっしょにプレーしている)選手たちが、コミュニケーションを取りながら強力しつづけたというアドバンテージもあった・・
・・彼らは、感覚的な理解を共有することで、互いに話し合い、指摘し合うことでプレーの内容を高めていった・・ときには、私が、選手たちの取り決めたことを(守備のプレー連鎖イメージを!?)追認することだってあった・・
フムフム・・。この発言のなかで、もっとも重要なポイントだったのが、選手たちのなかで理解を深める直接コミュニケーションがあり、そこで導き出されたやり方を、監督が「追認」するケースもあった・・というクダリ。
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- 要は、オズワルド・オリヴェイラ監督もまた、選手たちの自己主張(=主体的に考える姿勢)の発展を最優先にチーム作りをしたということです。だからこそ、あれほど素晴らしい「コンビネーション」が確立した。
もちろん、選手たちによる「主体的なイメージ作りプロセス」は、守備だけではなく、攻撃でも存分に活きてくる。
この試合で私がメモした内容には、何度も「ユニット」という言葉が出てきます。要は、シンプルな組織パスプレーを積み重ねるなかで、ボールがないところでの人の動きが、正確に、そして効果的に「連動」しつづけているということです。例えば、こんな感じ・・
・・最前線のマルキーニョスに、グラウンダーのタテパスが送り込まれる・・戻り気味に、そのパスを受けるフリをしたマルキーニョスは、そのままボールをまたいでパスを流す・・そしてそのボールが、マルキーニョスが動くことで背後に出来たスペースへ入り込んでいた興梠慎三に、ピタリと合う・・そして、最終勝負の起点(スペースである程度フリーでボールを持つ選手)が演出される・・
また彼らは、マルキーニョスが「個のドリブル勝負」を仕掛けていくタイミングと状況も、本当によく理解していると思いますよ。だから、マルキーニョスが勝負ドリブルをはじめても、足を止めることなく「次の勝負スペース」を狙いつづけるのです。
個人プレーと組織プレーが(そのイメージが)素晴らしくハイレベルにシンクロ(同期)しつづけるアントラーズの攻撃。それは、明らかに、フロンターレの攻撃コンテンツ(内容)に対して一日の長があると感じました。
とはいっても、チャンスの量と質という視点では、アントラーズとフロンターレは互角だった。要は、攻撃の「タイプ」に、若干の差異があるということだろうね。
より組織コンビネーションに長けているアントラーズ(だからこそ、たまに繰り出すマルキーニョスの爆発的なドリブル勝負が殊の外ハイレベルな効果を発揮する!?)に対して、より個の勝負を前面に押し出しながら仕掛けていくフロンターレということか。
以前、関塚監督に対して、こんなことを聞いたことがある。「フロンターレの攻撃陣は、個の才能に長けた選手を多く抱えている・・だから、仕掛けでは、個人勝負を前面に押し出す傾向が強いと思う・・ということで、出場停止やケガなどで、その個の才能が欠けたときに、組織プレーで、イメージ的な(連動性の)問題が生じるという印象があるのだが・・」
それに対して関塚監督が、例によって誠実に答えてくれた。「いや・・わたしは、そんなことはないと思っている・・我々も十分に組織プレーを意識し、実践できていると思っている・・云々」
たしかにフロンターレは、サイドゾーンで個の勝負を仕掛け、そこから鋭いクロスを送り込むことで危険なシーンを演出するのが得意だよね。もしかしたら、彼らが個の勝負を前面に出し「過ぎる」という印象は、以前のジュニーニョやチョン・テセの爆発的なドリブル勝負&シュートが、あまりにも強く印象に残っているせいなのだろうか?? さて・・
とにかく、様々な思いがアタマを駆けめぐりつづけるほど高質なエキサイティングマッチではありました。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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