湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第17節(2009年7月11日、土曜日)
- 相変わらず高質なサンフレッチェの組織サッカーと、レッズの勝負を懸けたパワーサッカー・・(レッズvsサンフレッチェ, 2-1)
- レビュー
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- たしかにレッズは、勝負強く「も」なっているよな・・。あれだけの絶体絶命ピンチをしのぎ切り、後半にはPKを外したにもかかわらず、最後は、ここぞのセットプレーから決勝ゴールをブチ込んでしまうんだから・・。
それにしても、例によってサンフレッチェは強かった。(表向き通訳、実質コーチの杉浦大輔さんに対するフェアな高評価も含め)彼らの強さのエッセンスについて書いた以前のコラムを読み返そうかなとも思ったけれど、ここは、今日このゲームから感じ取ったテーマ(キーワード)でサンフレッチェの強さを表現する方がいいかもしれないね。
それには、サンフレッチェのサッカーが、この試合でのレッズのサッカー内容とかなり対照的なモノだったからという背景もありますかね。本当はレッズがやりたい(これまではうまく機能することの方が多かった)サッカーを、完璧にお株を奪うように、サンフレッチェがうまく表現してしまった!?
さて、サンフレッチェ。この試合から読み取ったもっとも重要なキーワードは、素晴らしい「人とボールの動きのリズム」ということかな。とにかく彼らは、シンプルなタイミングでボールを動かしつづけるのですよ。そこでは、レッズ選手との「フィジカルな接触」がほとんど出てこないほど活発に人とボールが動きつづけます。
そのバックボーンは、言わずと知れた「優れたイメージ・シンクロ」。それは簡単なことじゃないけれど、ペトロヴィッチ監督は、選手たちのプレーイメージを「あのような素晴らしいハイレベルまで」シンクロさせるために大変なエネルギーを傾注したに違いありません。本当に彼は良い仕事をしている(もちろん現場パートナーとしての杉浦大輔さんの優れた仕事含めてネ)。
そしてサンフレッチェ選手たちは、例外なく、次、その次の「グラウンド上の現象」を明確にイメージしながら、主体的に動きつづける。
だから、考えることなく(!?)パス&ムーブや、ボールがないところでのフリーランニングによって、スッ、スッと、次のスペースへ入っていけるのも道理。そして「そこ」へ、ものすごく高い確率で(それも、ほとんどダイレクトパスの素早いタイミングで!!)ボールが回されてくる。フムフム・・
- また、そんなショート&ショートの(人と)ボールのスマートな「動き」によってレッズ守備の視線と意識を「引きつけ」、そして最後は逆サイドでまったくフリーになっている味方や、ウラのスペースへ抜け出す味方へ、まさに同じリズムでボールを動かしてしまう(佐藤寿人が魅せつづけた素晴らしい飛び出しには鳥肌が立った!・・同時に、レッズ守備のボールウォッチャーぶりにもため息が出た!)。
どうでしょうかね、うまく表現できただろうか。最後の瞬間における、忠実な「ちょっとした人の動き」と、それを察知する(最初からイメージしている!?)ボールホルダーとの「えも言われぬ」イメージシンクロ・コンビネーション。ホントに素晴らしかった。
そんな素晴らしくスマートな組織サッカーを魅せつづけたサンフレッチェに対して、この試合でレッズが展開したのは、チカラ任せの個人勝負をゴリ押しする「強引サッカー」でした。
この試合でのレッズの「ゴリ押しサッカー」は、決定的スペースをスマートに突いていこうとするのではなく、サンフレッチェ守備ブロックに対し、パワーとスピード(それと個人の天賦の才!)を前面に押し出して強引な突破を仕掛けていくようなモノだったのです。
そんなレッズの強引な仕掛けは、サンフレッチェ守備ブロックの眼前で繰り広げられるわけだからね、しっかりと組織されたサンフレッチェ守備ブロックが(まあ何度かは危ない場面はあったにしても)そのほとんどを苦もなくはね返してしまうのも道理・・ってな展開になっていったのです。
それに対してサンフレッチェの仕掛けは、とても危険な臭いを放ちつづけていた。彼らの(多くのケースではカウンター気味の)仕掛けがスタートしたら、最後はフリーな選手にボールが(スマートに!)回されてレッズ守備が大ピンチに陥ってしまう・・というイメージが自然と脳裏に描かれるのですよ。それほどサンフレッチェの仕掛けには、素晴らしい実効コンテンツが詰め込まれていたのです。
もちろんレッズも、しっかりとメンバーが揃えば、サンフレッチェに優るとも劣らない組織コンビネーションを魅せるよ。でもこのゲームでは、山田直輝と細貝萌という中盤の「動きのジェネレーター」が不在だったことが、殊の外、大きな意味合いを持っていた。
たしかに(この試合では守備的ハーフに戻ってきた)阿部勇樹も悪くはなかったし、ポンテが戻ってきたことで、仕掛けのコアも揃った。でも、やはり、攻守にわたる「汗かきの動き」が絶対的に不足していることは誰の目にも明らかだったと思う。
とはいっても、フォルカー・フィンケが言うように、たしかに最後の30分間のレッズの仕掛けには、レベルを超えた迫力があった。
ポンテを少し下げることで後方に仕掛けの起点を作り、その起点が、原口元気、セルヒオ・エスクデロ、エジミウソン、高原直泰といった「強引な」ストライカーたちを操る。もちろん、そこにトゥーリオも上がってくるから、その迫力は推して知るべし。そこでは、まさに、レベルを超えたパワープレーが展開された。
そして徐々に、「ブツ切りのように散乱」していた個人勝負プレーに「組織的なまとまり」が出てくるのです。
パス&ムーブや、迫力ある勝負ドリブルを仕掛けていくなかで、たまに「チョンッ!」というラストスルーパスが出てきたりする(まあ、そのほとんどが、忠実なマークを魅せるサンフレッチェ守備ブロックに阻止されてしまうわけだけれど・・)。
ちょっと書いていることが矛盾するようだけれど、わたしは、スマートな組織コンビネーションを標榜するフォルカー・フィンケが繰り出した(わたしは、彼が意図して仕掛けたと思っていますよ!)勝負を懸けたパワーサッカーを観察しながら、彼の新しい側面(勝負師マインド!?)を見たような気がしたモノです。
次の水曜日も、埼玉スタジアム(ナビスコ準々決勝レッズ対エスパルス)に馳せ参じる予定です。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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