湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第17節(2009年7月12日、日曜日)

 

ブレイクスルー真っ只なかの城福FCと、組織プレーのマインドに欠けたグランパス・・(FC東京vsグランパス, 3-0)

 

レビュー
 
 オレのチームには『ピクシー』がいない・・

 FC東京が完勝したゲームの記者会見で、グランパスのストイコビッチ監督が、私の質問に答えて、そんなニュアンスのことを言った。もちろん、実際の表現はまったく違ったモノだったけれどネ・・あははっ。

 「昨シーズンのグランパスは、素晴らしい組織的守備をベースに、攻撃となったら、徹底的にサイドから仕掛け、センターのヨーンセンへ効果的なクロスを供給することで素晴らしい成果を残した・・ただ今シーズンは、特に攻めのやり方に関して、そのイメージがうまく定まっていないように感じるが・・」

 そんな私の質問に対し、ストイコビッチ監督が、真摯に応えてくれたというわけです。

 「たしかに、いまのグランパスには、コレクティブにプレーする(組織プレーに対する)マインドが欠けている・・前節のガンバ戦では、うまく機能していたという印象はあったのだが・・それでもこの試合では、選手たちが、自分たちのアイデアをうまくグラウンド上に表現できていなかった・・彼らは、セルフィッシュ(自分勝手)にプレーした・・サッカーでは、コレクティブにプレーすることがもっとも大切なことなのに・・彼らは、男として、何かを達成しようとする(主体的な)姿勢に欠けていたのかもしれない・・これから色々な分析をするわけだが、その結果として、何らかの、首尾一貫した対処を行わなければならなくなるかもしれない・・」

 わたしは、ヨーロッパの友人達(プロコーチ連中)と、選手としてのドラガン・ストイコビッチについて、何度も語り合ったことがあります。そのなかで、例えばクリストフ・ダウムは(彼については「このコラム」を参照してください)彼についてこんなことを言ったことがある。

 「たぶんピクシーは、攻守にわたるコレクティブな(組織的な)ダーティーワークも十分にこなせる、数少ない『天才プレイヤー』じゃないか・・」

 まさに、おっしゃる通り。現役時代の彼は、天才にだけ許される「ヒラメキプレーの喜び」を観客に与えてくれただけじゃなく、最前線からの忠実チェイス&チェックや汗かきマーキング、また攻撃でも、味方にスペースを作ったり、パスコースを作るための忠実なフリーランニング(クリエイティブなムダ走り)といったチームプレーも忠実にこなしていたのですよ。そんな忠実な汗かきプレーにも精進していたからこそ味方から(良いカタチで)ボールが集められ、だからこそ天賦の才を存分に発揮することができた。

 そして、だからこそ彼は、歴史に残るスーパースターとして世界からレスペクトされているわけです。

 この試合でのグランパスの出来は、本当に良くなかった。いや・・良くなる気配は何度かはあった。でも、忠実な「汗かき組織プレー」が十分ではなかったことで、そんなポジティブな流れを維持したり加速させたり出来なかった。何度、全員が足を止めて足許パスを「待っている」状態を目撃したことか。

 たしかに、そんな「心理的な悪魔のサイクル」を断ち切れるだけのリーダーがいなかったということもあるし、(ピクシーが言うように)自分勝手なプレーに終始していたプレイヤーもいた。まあ、そんなだから(昨シーズンは素晴らしく機能していた!)組織と個がうまくバランスしたチームプレーの一貫性が失われてしまうのも道理といったところでした。

 そんなグランパスに対して、FC東京の勢いは止まらない。

 特にディフェンスが素晴らしい。要は、一人ひとりの「守備意識」に対する相互信頼が高まっているということだけれど、だからこそ、次の攻撃でも、吹っ切れた押し上げが効果的なサポートの輪を作りだし、局面での数的に優位な状況を、頻繁に作り出せていた。

 特に、サイドゾーンでの、グランパスの仕掛けの流れに対する「効果的な抑え」は目立っていたね。要は、両サイドバックと両サイドハーフによる「守備での協力作業」がグランパスのサイドからの仕掛けプロセスを完璧に抑え込んだということです。

 右サイドでは徳永悠平と石川直宏(ポジションチェンジしたときは羽生直剛)。また左サイドでは、長友佑都と羽生直剛(ポジションチェンジしたときは石川直宏)。この二つのペアが、グランパスのサイドからの仕掛けの芽をことごとく摘み取っていたのです。

 それだけじゃなく、「クールで枯れた実効プレー」を魅せつづける梶山陽平と、基本的には「アンカー役」の米本拓司による守備的ハーフコンビも、前後左右にポジションをチェンジしつづけるなかで、交替に(そして効果的に相手ディフェンスの視界から消えながら!)最前線に「忽然と顔を出してくる」のですよ。

 その攻撃参加は、ホントに効果的だったね。特にカウンター場面での、米本や梶山のオーバーラップは素晴らしい実効がともなっていた。あっと・・たまには、最後尾のブルーノ・クアドロスも(カウンター場面で)最前線まで飛び出していったよな〜〜。

 そんなシーンを見ながら、FC東京では(前述したように!)互いの守備意識に対して深い相互信頼が浸透しているよな・・なんて思っていたわけです。

 ところで城福浩監督。わたしの質問に応えて、こんな興味深いコメントを出してくれた。

 「チームが良くなっていったプロセスを一言で表現できるようなキーワードですか?・・そうですね・・責任ある開き直り・・でしょうかね・・」

 責任ある開き直り(?城福浩)。フムフム、良い表現だね。それには、私が作り出した「クリエイティブなムダ走り」とか「高い守備意識をベースにしたリスクチャレンジ」とか「クリエイティブな(戦術的な)ルール破り」といった表現にも通じるバックボーンがありそうな感じだね。

 要は(次のディフェンスに全力で戻ることへの強烈なイメージを大前提にした!)吹っ切れたリスクチャレンジがないところには、決して進歩もない・・ということでしょう。

 また城福監督は、こんなニュアンスのことも言っていた。「結果が出ていなかったときでも、リーグでの勝ち点を五分に戻せたら、必ず、そこから大きく上昇できるチームになれると確信していた・・」

 そして極めつけは、この表現でしたね。

 「今日のゲームでの最大の進歩(進歩が現れていた現象!)は、勝ったにもかかわらず、誰しも、もっとやれたのに・・という思いを抱いていたことだったと思う・・進歩するためには、決して(安易に)満足してはならないということです・・我々は、相手に合わせるのではなく、あくまでも自分たちが基軸になったサッカーを展開したいと思っているのですよ」

 城福浩監督に拍手しちゃおう・・パチパチパチッッッッ・・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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