湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第18節(2009年7月18日、土曜日)
- とても興味深いエキサイティングマッチだった・・(マリノスvsアルビレックス, 1-1)
- レビュー
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- シュート数がすべてではないけれど、誰の目にも、この引き分けが、マリノスにとって「残念な結果」だったことは明らかだったね。
たしかに前半は、チャンスの量と質で五分だった・・というか、カウンター気味の「忠実な」攻め上がりからチャンスを作り出すアルビレックスの「勝負のツボ」にはまっていたと「も」言えるかもしれない。でも後半は、完全にマリノスがゲームを牛耳った(たしかに何本かはアルビレックスもチャンスを作り出したけれど・・)。
「リーグの前半が終了するまでに勝ち星を五分に持っていきたかった・・でも、その目標達成は叶わなかった・・これまでは(基本的には若いチームではあるけれど・・)ベテランも、敢えて使っていた・・ただ結果が出なかったことで、積極的に若手にもチャンスを与えることにした・・」
木村浩吉監督が、そんなニュアンスのことを言っていた。まあ、この試合では、水沼宏太とか天野貴史などといった若手が先発したし、後半には、長谷川アーリアジャスールも登場し、攻守にわたって存在感を発揮した。
そうね〜・・やっぱり、エネルギーを溜めた(出たいという欲求にあふれた≒フラストレーションに突き動かされる!?)若手が満を持してチャンスを得たら、活躍するよな。そんな(若手の)微妙なエネルギー(意志)を敏感に察知し、ここぞっ!のタイミングでグラウンドに解き放った木村浩吉監督。良い仕事をしている。
そんな木村監督の期待通り、先発した天野貴史は、右サイドで抜群の「意志」を爆発させていたし(素晴らしい突破ドリブルや正確なクロス、また同点シーンではヘッドでのアシストも決めた!)、途中から出てきたアーリアジャスールも、これまた若手の左サイドバック田中祐介とのパスコンビネーションや勇気ある勝負ドリブルで、何度も、アルビレックス守備ブロックのウラに広がる決定的スペースを突いていった(でも、彼が作り出した二度の決定的チャンスは残念ながらゴールにつながらなかった)。
そのように若手がガンガン攻め上がっていくわけだけれど、その状況で、中心的に「前後のバランス」を取っていた(次の守備でのカバーリングをイメージしていた)のは、もちろんベテランの松田直樹。でも積極的にカバーリングに戻っていたのは、松田だけではなく、これまた若手の小椋祥平や山瀬功治など。
でも時間が押し詰まっていくのに合わせて、松田直樹や山瀬功治も、より積極的に攻め上がるようになっていくのですよ。そして逆に(これまた後半から交代出場した)金根煥やアーリアジャスールが全力でディフェンスに就き、実効ある(忠実な)ボール奪取勝負を展開する。
優れた「守備意識」と運動量を絶対的なベースにした縦横無尽のポジションチェンジが、抜群の機能性を魅せつづける・・。最後の時間帯にマリノスが魅せたサッカーは、わたしがイメージする彼ら本来の「ダイナミックサッカー」そのものでした。
それにしてもチャンスを決められないネ、マリノスは。少なくとも3回は、「どうしてゴールにならないの?」と誰もが首をかしげるほど絶対的なチャンスを作り出したのに・・。そのことが、マリノスが魅せつづける優れたサッカー内容に、まったく似つかわしくない「残念な取りこぼし」のバックボーンなのかな!?
要は「決定力」というテーマ。
もちろん、チャンスを決められなかったコトについては、「偶然要素」が90パーセント以上を占めるでしょ。それでも私は、10パーセントは、何らかの「必然要素も」併存していると思っているのです。もちろんその「必然ファクター」は、ケースバイケースで千差万別だけれどネ。
例えば・・オレが決めてやるという「意志の爆発」がない・・とか、しっかりとチャンスをイメージできていない(味方とのイメージシンクロが不十分)とか・・とにかく様々な要素が考え得るけれど、そんな「必然要素」の大きなところは、やはり、生活文化に根ざした「心理・精神的なモノ」に集約されるんだろうね。フムフム・・
ギリギリの状況でシュートを打つという「場数」が絶対的に足りない!? そう・・そういうことです。もう何度も書いているけれど、トレーニングで何度か良いシュートを決めたことで、「ヨシッ!」と練習を切り上げてしまうような姿勢は、プロとしては不十分もいいところなのですよ。プレッシャーのないところで、いくら「良いシュート」を決めたところで、ギリギリの勝負の体感(ホンモノのゴール体感)とは、まったく別物だからね。
もう何度も書いたけれど、尊敬するドイツのスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、全体トレーニングの前に、個別に選手を呼び出して、マンツーマンでシュートトレーニングを課しているシーンを何度も観察したことがあります。
それは、ホントに、もの凄い迫力のトレーニングだったんだよ。どんどんと選手を追い込むヴァイスヴァイラー。そこでは、ギリギリの緊張感にあふれた「異様な雰囲気」が支配していた。そんな雰囲気を作り出せることもまた、ヴァイスヴァイラーが優れたコーチであることの証左なんだけれど、こちらは、見終わったときには汗だくになっていたことを覚えていますよ。
そのときのことをヴァイスヴァイラーに聞いたことがある。
「オマエは、コーチの本質的な仕事がどのようなモノであるかを分かっていない・・オレ達の仕事は、瞬間的に、選手たちから恨まれたり憎まれたりすることなんだゾ(=コーチの本質的な仕事は、人間の弱さとの対峙!)・・そして、そのネガティブな感情が、オマエの本質的な人間性によって、不信感として雪だるま式に大きくなってしまったり、逆に、時間の経過とともに、コーチに対する深い信頼感を醸成したりする・・そう、最後は、オマエの人間性が問われるということだ・・」
そのとき彼は、そんなニュアンスのことを話してくれた。フムフム・・
ところで「金根煥」。右サイドの天野貴史から、何度も、良いクロスが送り込まれたけれど、結局彼は、まったくボールに触れなかった。
いつだったか、木村浩吉監督が、「金根煥を入れたとしても、それは必ずしもパワープレーを意味するわけではないんですよ・・」と言ったことがある。その言葉を聞いたとき、私は、「だからマリノスは、取りこぼしが多いんだよ・・勝負を懸けた時間帯では、どんなに泥臭くても、とにかくゴールを決めるという強い意志をもたなければならないんだゼ・・そう、吹っ切れて、勝負に徹することも必要なんだよ・・」なんて思っていた。
木村浩吉監督は、金根煥を使うときは、選手たちに、もっと「金根煥という武器の意味」を明確にイメージさせなければいけないと思う。そう・・高さ。
この試合でも、天野貴史が余裕をもってクロスを送り込める状況なのに、金根煥は、ファーサイドのゾーンで、足を止めて「待っている」だけ。そして、良いクロスボールなのに、ことごとく、アルビレックス守備にはね返されていた。
彼は、もっと動いてクロスを受けなければならないし、クロスを送り込む方だって、金根煥のセンターゾーンでの動きを、明確にイメージ出来なければならない。そう、イメージシンクロ。
とにかく、勝負を懸けたエマージェンシーなんだから、泥臭く「勝負に徹する」というマインドも「たまには」必要だと思っていた筆者なのですよ。
最後に、アルビレックスについても一言。
彼らは、とても粘り強い(鈴木淳監督の弁)サッカーを魅せていた。その「ねばり強さ」について、鈴木淳監督に聞いてみた。
「もちろん守備に関するテーマであることが多いわけだが・・まあ、耐えるところと、積極的に仕掛けていくところのメリハリをしっかりとイメージするということだろうか・・」
アルビレックスの守備は、とても忠実です。特に、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイス&チェックとか、ボールがないところでのマーキング等は、特筆モノです。
そんな組織的な(粘り強い!?)ディフェンスがうまく機能しているからこそ、選手たちは、どこでボールを奪い返せるのか、より具体的にイメージできる・・だからこそ、次の(カウンター気味の)攻撃も、より早い段階でイメージし、準備を整えることが出来る(タイミングの良い押し上げ=勝負所に、十分な人数をかけていける!)・・そして、だからこそ(個のドリブル勝負を前面に押し出す)カウンター攻撃の実効レベルがとても高い・・。フムフム・・
ただ、この試合では、そんなカウンター攻撃の「実効レベル」を大きく左右する「個のパフォーマー」千代反田充とマルシオ・リシャルデスが出場停止だった。そのことは(鈴木淳監督自身も言っていたように!)、彼らにとって、とても大きなマイナス要素だったということだね。
とにかく、アルビレックスの強さのバックボーンは、そんな「サッカーのやり方」のイメージが、チーム全体に深く浸透しているだけではなく、選手たちが(勇気に支えられた強烈な意志をバックに)忠実に、そしてクレバーに実行しつづけているところにあるのですよ。
要は、アルビレックスでは、チーム戦術の浸透度(理解度)や徹底度がとても高いということなのですが、どんなチーム戦術でも、徹底すれば、実効レベルはおのずと高くなるモノなのです。その意味では、アルビレックス「も」とても興味深いチームではあります。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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