湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第20節(2009年8月3日、月曜日)

 

帰国後にビデオで観戦した二試合のインプレッションだけ・・(SAvsA & RvsSP)

 

レビュー
 
 どうも皆さん、ご無沙汰しました。本日の朝方、帰国しました。

 フライトのなかでは一睡もできなかったことで、また時差ボケで、まだアタマがフラフラなのですが、どうも気になる。ということで、友人が収録しておいてくれた「J」の第20節、サンフレッチェ対アントラーズ、レッズ対エスパルス戦を(ビデオ観戦ということで!)ポイントを絞り込んで簡単にまとめることにしました。

 ビデオを観ているうちに(ゲーム内容が興味深かったから)創作意欲がかき立てられたということですかネ。ということで、まず、サンフレッチェ対アントラーズ戦から。

 たしかにサンフレッチェが、アントラーズのリーグ連勝記録をストップしたけれど、相変わらずアントラーズは勝負強いサッカーを展開しているよね。そんな彼らの強さのバックボーンは、何といっても、攻守のやり方(チーム戦術)に対する理解が、チームに、ものすごく深いレベルまで浸透していることだと思う。

 だからこそ、オズワルド・オリヴェイラ監督の、忍耐ベースの継続ワーク(継続こそチカラなり!)に対して拍手をおくらなければならないと思うのですよ。まあ(観てないけど!)ナビスコのフロンターレ戦とか、このゲームとか、このところ結果が出てないゲームが続いているから、あまり大袈裟な拍手は控えるけれどネ・・

 たしかにアントラーズのチーム戦術に対する「共有理解」は深い。とはいっても、やはり、各ゲームで「振幅」が大きく変化してしまうチーム戦術の実効レベル(要はチームの調子!?)によって、結果に違いが出てくるのは仕方ないことだよね。アントラーズの場合は、調子のブレの振幅がとても小さいし、それが彼らの勝負強さの絶対的ベースではあるんだ(あったんだ!?)けれどネ・・

 ということで「強いアントラーズ」というテーマ。その絶対的ベースは、何といっても、忠実な組織ディフェンスにあり。

 サンフレッチェが展開する、次のパスプレーに対するイメージが明確に「共有」されているからこその、ボールの動きのリズムがシンプルで素早いコンビネーションの「積み重ね」に対し、アントラーズ守備は、決して集中し「過ぎる」ことなく、ポジションのバランスを上手く取ることで、ウラのスペースを攻略されないようにするのですよ(まあ何度かは、振り回されるシーンもあったけれどネ)。

 要は、ボール奪取のために協力プレスを掛け「過ぎ」たら、確実にサンフレッチェにポンポンポ〜ンとボールを動かされて、何人かのプレッシングを掛けた選手が置き去りにされ、ウラの決定的スペースを使われてしまうということです。アントラーズは、行き「過ぎず」、でも待ち「過ぎる」こともなく・・というバランスの取れた守備イメージで徹底されていたよね。

 それでも、まさに「ワンチャンス」のスルーパスを決めちゃうんだから、サンフレッチェの(イメージシンクロ組織コンビネーションの)底力には本当に素晴らしいモノがある。

 ところで、この決勝ゴールのシーン。それを決めた佐藤寿人がスルーパスを受けたとき、右サイドの内田篤人が「ちょっと眠っていた」のかもしれないね。そんな一瞬の集中切れが、勝負を決めてしまう・・それも相手が「世界」の場合は、そのケース頻度は推して知るべし・・。来年のワールドカップに臨む内田篤人にとってこの試合は、とても大切な学習機会になった(学習機会にしなければならない!)ということだね。

 ちょっと逸れたけれど、ハナシを「強いアントラーズ」というテーマに戻しましょう。次はオフェンス。

 小笠原満男が中心になったロングパスや大きなサイドチェンジで前戦に起点をつくり、そこから素早く最終勝負を仕掛けていく。また組み立てでは、相手(中盤&最終)ラインの下がり具合に合わせて調整しながら全体的に押し上げながら、最終勝負の「爆発」を狙う。

 その「爆発」だけれど、(中盤でフリーになった選手からの・・野沢や本山など)シンプルなタイミングの勝負ミドルパス(クロス)や組織コンビネーションもあるけれど、やはりマルキーニョスや興梠慎三などに代表される「効果的な個の勝負」が特徴的だよね。

 またアントラーズの場合は、ポジショニングのバランスという視点もある。

 相変わらず守備でも大きくチームに貢献しつづける(素晴らしい守備意識の)両サイドハーフ(本山雅志と野沢拓也)が、サイドを入れ替えながら、両サイドバックと協力してサイドゾーンを支配する。もちろんそこに、マルキーニョスや興梠も参加してくることもある。だからこそ、サイドバックとのタテのポジションチェンジの基盤になるカバーリングもうまく機能するし、サイドからの、変化ある仕掛けがうまく機能する(組織コンビネーション&勝負ドリブル!)。

 でも、そんな、仕掛け(最終勝負)イメージが高い次元で「共有」されたハイレベルな仕掛けが、この試合では、サンフレッチェにうまく抑え込まれてしまった。

 それにしてもサンフレッチェは、とても「粘り強いサッカー」を展開した。

 彼らの場合は、攻撃での(人数が必要だからこそ!)組織コンビネーションのリズムを損なうことなく、この試合のような「ねばり強い」ディフェンスが安定してくれば、確実にリーグ優勝を狙えるチームになるよネ。

 とはいっても、この試合では、アントラーズ守備ブロックが、彼らの人とボールの「動きのリズム」をしっかりと学習して(着実なイメージトレーニングを積み重ねた!?)ゲームに臨んでいたから、サンフレッチェも、ボールは動くけれど、うまくスペースを突くというところまでいけなかったよね。まあ、期待は来シーズンかな・・

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 さて次は、レッズ対エスパルス。

 もちろん、わたしが渡独してからレッズが連敗していたことは知っていた。またネットで、グランパスに負けた後に山田直輝が、こんなニュアンスのコメントを出していたと聞いた。・・もっと落ち着いて(人数が揃うのを待って)タテへ勝負していかなければならなかったけれど、どうもタテへの仕掛けを急ぎすぎたという印象が残っている・・

 想像するに・・非常に蒸し暑いなかでのゲームで、全体的な運動量が落ちているにもかかわらず、いつもの「リズム」でタテへ仕掛けていこうとし「過ぎて」いたことで、仕掛けプロセスで十分な人数を揃えられなかった・・だから前戦が孤立し、イージーにボールを失って効果的なカウンターを喰らった・・そんなネガティブな展開がつづくなかで、選手の「意志」も減退し、ブレーイメージがバラバラになった・・そして、人とボールの動きが停滞する心理的な悪魔のサイクルに陥った・・さて!?

 ただし、この20節のエスパルス戦は、雨が降り、比較的涼しい気候での試合になったから「蒸し暑さとの闘い」にはならなかった。

 この試合でのレッズは、全体としては、何度か、良い流れのコンビネーションを魅せるなど、決して悪い内容ではなかったと思う。それでも、サンフレッチェ戦でのアントラーズ守備と同様に、エスパルスが、「ボール」に対して協力プレッシングを仕掛けてくるのではなく、人数を掛け、あくまでもしっかりと「人を見る」忠実なディフェンスに徹していたこともあって、最終勝負では、どうしても、良いカタチでシュートを打つところまでいけなかった。

 ということでレッズは、(レッズが、タテの人数バランスをうまく攻撃的に調整できないこともあって!?)組織的にも、個人勝負でも、エスパルス守備ブロックを十分に崩し切れず(ウラの決定的スペースを攻略できず)逆に、中途半端なところでボールを奪われ、エスパルスが繰り出す、力強いカウンター気味の効果的な仕掛けを浴びてしまうというシーンが目立っていた。

 そこでは、一発ロングパス勝負も含め、ヨンセンと岡崎慎司の「あうんのコンビネーション」が殊のほか効いていた。要は、ヨンセンが、アタマでボールを「流し」、その先の決定的スペースに岡崎慎司が走り込んでいるというイメージ。また、アタマだけじゃなく、前半には、ヨンセンの足から、素晴らしいスルーパスも飛び出した。フムフム・・

 たしかにレッズは(前述したように)人数を掛けたエスパルス守備ブロックを(マン・オリエンテッドな忠実守備を)簡単に崩せない苦しい展開のなかでも、何度かはチャンスを作り出した。それでも、決定的スペースを(ドリブル勝負でも、コンビネーションでも!)完璧に攻略したシーンはほとんどなかった。

 だからこそ、アーリークロスや中距離シュートなど、もっと仕掛けに変化をつけなければならなかったと思う。特に、守備を厚くしているエスパルスなのだから、守備ブロックを「引き出す」という意味でも、中距離シュートは有効だよね。たしかに、原口元気(彼の場合はドリブルシュート)や鈴木啓太(バックパスからのシュート)、エジミウソンや高原直泰もトライしていたけれど・・まだまだ、エスパルス守備ブロックのイメージを「混乱させる」までには至らなかった。

 たしかに全体的としては、サッカーの内容が悪いというわけではないと思いますよ。でもネ・・。っかり観ていると「こんなシーン」も目に付くのですよ。

 守備では、最終勝負シーンで様子見になっちゃったり(要は、究極のピンチで相手シュートを阻止するために瞬発アクションが出なかったり・・トゥーリオだったら絶対に『行く』のに・・といったシーン)、攻撃では、ここで決定的なウラスペースへ爆発フリーランをスタートだ!っていう状況なのに、これまた様子見で(味方ボールホルダーと勝負イメージを共有できずに!)足を止めてしまったり・・

 レッズのコンビネーションサッカーも、まだまだ道半ばということだね。その視点じゃ(コンビネーション勝負のイメージの共有レベルという視点では)明らかに、サンフレッチェとは「有意差」がある。何といっても、サンフレッチェでは、ボールがないところでの動きの量と質が、素晴らしいからね。そこにこそ、「勝負イメージの共有」というテーマの本質があるというわけです。

 これからフォルカー・フィンケが、どのようにチームを立て直していくのか・・いや、サッカーの内容自体は良い方向へ進んでいるのだから(もちろん上記した「小さな大事なところ」での勝負イメージ改善テーマはあるにしても・・)、立て直すというのではなく、蒸し暑い気候という悪条件のなかで、これまでのベクトルを(戦術的なイメージ基盤を)どのように維持・強化していくのかというプロセスに、とても興味を惹かれます。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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