湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2009年8月15日、土曜日)

 

実質的なチャンスメイクの量と質というテーマ・・(GAvsR、1-0)

 

レビュー
 
 まさに「どちらに転んでもおかしくない」というギリギリの勝負になった最後の時間帯。テレビの前で、手に汗にぎっていた。だから、試合後にガンバが喜びを炸裂させたのも、よく分かる。

 たしかに(最前線での決定的な動きを観察したいから!!)カメラをもうちょっと「引いてくれ〜っ!!」という文句が口をつく場面もあったけれど、ゲーム総体としては、とてもハイレベルなエキサイティングマッチを心から楽しんでいた筆者でした。

 拮抗したゲーム・・!?

 たしかに、全体的なシュート数だけではなく、中盤での(攻守にわたる優れた組織プレーを基盤にした!)ボールポゼッションでもレッズに軍配があがるけれど、遠藤ヤットを中心にした効果的な『仕掛けの流れ』からの『実質的』な決定的チャンス(シュート)の量と質を考えれば、ガンバの勝利は、ある意味、順当だったと言えないこともないよね。

 レアンドロのヘディングや、遠藤ヤットからの「決定的サイドチェンジ・クロス」からのシュート、はたまた勝負ドリブルで抜け出したシュート、また遠藤ヤットが魅せた、まさに「チャンスのを嗅ぎ分ける」といった、バックパスからのダイレクトシュート、交替した佐々木勇人が放った二本の惜しいミドルシュートなどなど、決定的なカタチでは、明確にガンバが上回っていたとすることに躊躇しないわけです。

 ということで、このコラムでは、「実質的なチャンスメイクの量と質」というのが中心テーマになりますかネ。

 両チームの攻撃の流れを観ていて、とても明確に「差」が感じられたのが、ココゾッ!のチャンスになったときの、人とボールの動きの「急激なテンポアップとその内容」。その視点では、明らかにガンバに一日以上の長があった。

 レッズの場合は、効果的なボール奪取から(中盤の組み立てプロセスでは)しっかりとボールは動きつづけるけれど、素早くバランスを回復したガンバ守備ブロックによって人の動きが抑制され、足許パスが多くなってしまうことで、シュートへ至る最終勝負プロセスでは、どちらかといったら「個の勝負」が前面に押し出され過ぎてしまうのですよ(とはいっても、このゲームでも原口元気のドリブルシュートや、ドリブル突破からの決定的クロスは存在感を発揮したけれど・・)。

 そんなだから(レッズが全体的に押し上げていることもあって!)狙いすましたインターセプトやトラップの瞬間を狙ったアタックによるボール奪取からのカウンターでチャンスを作り出されてしまうといったピンチシーンも多かった(それにしてもガンバは、レアンドロとルーカスの二人だけで、何度もカウンターを実質チャンスに結びつけていた・・ホント、すごいね!)。

 対するガンバの攻撃。とにかく、仕掛けチャンスの流れを「嗅ぎ分け」て、「嵩(かさ)に掛かって押し上げていく」戦術的なイメージのシンクロレベルが素晴らしい。まあ、中盤での仕掛けの(その流れの)構成力とでも表現できるかな。その中心人物は、もちろん遠藤ヤット。

 中盤での落ち着いた(クールな!)ボールキープから、安全な横パスを出すと見せ掛け、急激にターンして勝負の「仕掛けタテパス」を最前線のルーカスやレアンドロへ送り込んだり、逆サイドでフリーになっている味方へ(クールな!)決定的サイドチェンジクロスを放ったり・・。

 また、相手を「呼び込む」タメのキープから、その鼻先で、チョンッ!というスペースパスを出し、アタックを仕掛けてきた相手ディフェンダーを置き去りにしてしまう。そう・・、ガンバの場合は、組織パスプレーによって(人とボールの動きの効果的なコラボレーションによって)しっかりとスペースを活用していたのですよ。

 もちろんレッズも、組織パス(コンビネーション)プレーから、決定的スペースを突いていくというイメージは持っている。でも、「最終勝負プロセス」では、個のドリブル勝負ばかりが前面に押し出され過ぎているように感じる。だから、相手ディフェンスにとっても、抑えやすい。

 いつも書いている通り、決定的スペースを突いていくプロセスには二種類ある。パス・コンビネーション(この場合は、ボールホルダーと、ボールがないところの動きが明確にシンクロしなければならない!)と、ドリブル勝負。本当は、この二つが「うまくバランス」することが望まれるわけです。でも「いまの」レッズの場合は、どうも「個の勝負」ばかりが目立ってしまう・・だから相手ディフェンスも対処しやすい・・

 決定的シーンでの「コンビネーションの質」だけれど・・、たしかにガンバに一日の長があると思いますよ。要は、決定的コンビネーションのイメージを、味方同士でしっかりとシェアできているということです。

 ・・あの状況だったら、かならず最後は、ダイレクトで、このスペースにパスがくるはずだ・・といった有機的なコンビネーションイメージが、しっかりと浸透しているということです。だから、決定的なカタチになりそうな「臭い」がしただけで動き出せるし、そこへ至るまでのボールの動きに「よどみがない」。だからこそ、決定的な『ボールがないところでの動きの勢い』にもレベルを超えた力強さがある。 そして、そのように組織的な仕掛けがうまく機能するからこそ、レアンドロやルーカス、はたまた二川といった「個の勝負師のチカラ」が活きてくる・・。

要は、ガンバの「最終勝負イメージ」では、組織と個がうまくバランスしているのですよ。カウンターシーンでも、レアンドロが最前線でタテパスを受けてキープすることで最終勝負の起点ができたシーン(タメの演出!)で、周りの味方がしっかりと最終勝負のフリーランニング(パスレシーブの動き)を仕掛けていくのですよ。フムフム・・

どうだろうね・・レッズが点を取れないという現象。もちろんツキに見放されているという側面もあるけれど、『チャンスメイクの内容』という視点では、やはり課題が見え隠れする。

 中盤でのドミネーション(効果的なボール奪取と、人とボールの動きをベースにしたボール支配)では、たしかにレッズはリーグ随一でしょう。でも、相手がしっかりと守備ブロックを固めるというゲーム戦術で試合に臨んでくることで(さまざまな意味を内包する『動き』を抑制されてしまうことで!?) 最終勝負プロセスの「内容」には大いなる課題が見えてくる。

 ・・最終勝負プロセスでは、スロースロークイック(タメ&急激なテンポアップ)といった仕掛けリズムの変化を挿入していかなければ(特に、蒸し暑い日本の夏においては!)・・もっと勇気をもって勝負のタテパスに挑戦していかなければ・・二人目だけではなく、三人目、四人目のフリーランニングも必要・・もっと、中央突破コンビネーションとサイドからのクロス攻撃、(パックパスからの!?)ミドルシュート、はたまた強引なドリブルシュートなど、最終勝負プロセスに変化を演出していかなければ・・等々・・

 まあ、そんなこと、言われるまでもないわけだけれど、あれだけ中盤では、攻守にわたって良いサッカーを展開できているのだから、ちょっと「稚拙」な最終勝負プロセスが残念だよね。

 ここでも、また、イメージトレーニングの重要性を再認識したいですね。実際のトレーニング「だけ」では、イメージの「構築&浸透」のプロセスに物理的な限界があることは火を見るよりも明らかだからネ。だからこそ、クレバーに編集されたビデオを繰り返し見せることで、最終勝負プロセスの「優れた変化」に対するイメージを効率的に浸透させるのですよ。さて・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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