湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第23節(2009年8月23日、日曜日)
- フロンターレ完勝のバックボーンに、牛若丸あり・・(FRvs山形、2-0)
- レビュー
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- 「中盤でミスが多かった・・ボールを奪い返して、さて攻めようかというタイミングで、ボールホルダーが、しっかりとボールを持てないし、周りも見えていない・・そのことを、フロンターレ守備に見透かされ、すぐに取り囲まれてボールを奪い返されてしまう・・苦しいなか、一点は取るつもりで選手たちを送り出したが、うまくいかなかった・・とにかく、完敗です・・」
- 小林伸二監督が、冷静に分析していた。その発言のなかでは、ボールホルダーがしっかりとボールをキープできない(周りも見えていない!?)というクダリが興味深い。もちろん「その現象」は、数的に優位なカタチを作り出せなかったからに他ならない。
要は、運動量が足りなかったということに尽きる。ボールを奪い返したら、まず「蜂の一刺しカウンター」を狙い、ダメだったら、全体的に、素早く、そして広く押し上げながら(要は、うまくスペースを活用しながら)局面での数的優位な状況を演出しつづけるような効果的な組織プレーを繰り出していかなければ、コトがうまく運ぶはずがないということです。
山形の選手たちのプレーぷりを観ていて(特に組み立てプロセスに入らざるを得ないような遅攻になったケースでは!)・・・「どうせボールを失っちゃうんだから、サポートに急行してもムダになるだけさ・・」なんていう消極マインドが蔓延していることを感じた。
そして、足許への安全パスを『無為に』つなぐだけの山形・・っちゅう体たらくになってしまう。もちろん、フロンターレ守備ブロックの「眼前ゾーン」での、ミエミエのボールの動き。そんなだから、すぐに「次のパスレシーバー」が狙われてボールを失ってしまうのも道理じゃありませんか。
そんなサッカーが後半もつづいたから、観ているこちらはフラストレーションが溜まりつづけましたよ。それに(以前は、そのマンオリエンテッド守備が魅せつづける忠実な粘りプレーに感動したこともあった!)山形のディフェンスが、このゲームでは、ウラの決定的スペースを簡単に攻略されてしまうんだからね・・。
そのことについて、フロンターレの関塚隆監督が、「山形の粘り強いディフェンスを、しっかりと『はがす』ことが出来ていたと思う・・」とコメントしていた。フムフム・・
要は、マンオリエンテッド守備(互いのポジションのバランスを取りながらも、比較的早めに、人を見るマンオリエンテッド守備へ移行していくような守備のやり方!?)を展開する山形のディフェンスブロックを(その忠実なマンマーカーを)うまく「引き出す」ことでスペースを作り出し、そこへ二人目、三人目の「サポートフリーランニング」が飛び出していくことで、山形の守備ブロックを崩していったということでしょう。
タイトに(厳しく)マークされている前戦への正確なタテパスを「起点」に、そこで「タメ」を演出しながら、そのパスレシーバーの「戻り気味の動き」とタテパスによって出来たスペースを、二人目、三人目が効果的に突いていった(もちろん、そこへしっかりとボールを動かせた!)っちゅうニュアンスのコメントだったということです。
ということで、そのプロセスで、もっとも重要だったのが、中央ゾーンへの仕掛けプロセスだけではなく、サイドゾーンへの展開プロセスも含めた状況で繰り出された「正確なクサビのパス」。それによって、前戦で効果的なタメが演出され、周りが、うまくスペースを突いていけた。
私は、山形の粘り強いディフェンスブロックを効果的に崩していけたことには、もう一つの重要なポイントがあったと思っています。それは、「牛若丸」の基本ポジショニング・・。
あっと・・「牛若丸」って、中村憲剛のことですよ。私にとって、大柄な外国人選手(弁慶!?)とも(相手のパワーをうまく逆手にとって!!)互角以上に渡りあってしまう中村憲剛は、まさに牛若丸そのものなのですよ。あははっ・・
この試合での牛若丸は、かなり明確に「中盤のアンカー」的なポジションを占めていた。要は、下がり気味の守備的ハーフの位置に、かなり重点を置いて「留まりつづけた」ということです(その代わりに、谷口博之が、攻守にわたって縦横無尽に動きつづけた!)。このことは、この試合では、とても重要な意味を持っていた。
牛若丸の、守備での忠実なプレーは言うまでもないけれど、でもこの試合での山形が展開した攻撃では、ケンゴが、ギリギリの汗かき守備ブレーを要求されることは少なかったよね。そのことは、関塚隆監督も、明確にイメージしていたと思う。
そして、下がり気味のポジションだからこそ、前を向いて、フリーでボールを持てるシーンが続出する。そして、牛若丸の足から、前述した「仕掛けのタテパスやサイドゾーンへの展開パス」だけじゃなく、最初から、山形ディフェンスラインのウラに広がる決定的スペースを狙った「勝負のロングパス」や「決定的な(中距離)スルーパス」なども、どんどん繰り出されていく。
もちろんパスレシーバーも、そんな牛若丸からの勝負タテパスをイメージし(特にジュニーニョ!)後ろ髪を引かれることなく(要は、最初から全力ダッシュで!)どんどん決定的スペースへ抜け出していくのですよ。
いったい何本あっただろうか、牛若丸からの、重要なコノテーション(言外に含蓄される意味と強烈な意志&イメージ)を内包した決定的なタテパスが送り込まれたシーンが・・
もちろん山形も、いつまでも、『後方のゲーム&チャンスメイカー』を自由にやらせておくわけがない。そして、牛若丸を「抑えようと」山形の中盤が、少し前へ上がっていくことで、逆に山形の中盤ゾーンが「開いて」いくわけです。そう・・関塚隆監督がつかった「ディフェンスを引きはがす現象」。フムフム・・
とにかく、この試合での牛若丸は、鳥肌が立つくらい素敵なプレーを魅せつづけました。華麗なボールコントロールやタテへの仕掛け(クサビ)パス、サイドへの創造的な展開パスだけではなく、流れるような「シンプルタイミング」から繰り出される決定的なタテパスの数々。心のなかで、何度も「ブラ〜ボッ!」って叫んでいました。そう、イビツァ・オシムさんに代わって・・(オシムさんだったら、何度もブラ〜ボッって賞賛したに違いないからネ)。
もう一つ、フロンターレには、攻撃陣のメンバー構成という興味深いテーマもある。
ジュニーニョとチョン・テセの最前線コンビに、レナチーニョとビットール・ジュニオールを絡ませるような、個のチカラ(ドリブル突破力やタメからのコンビネーション構成力など)を前面に押し出した構成・・逆に、黒津勝、田坂祐介、山岸智といった組織プレイヤーをバランスよく配置するような構成・・などなど。まあ、他のチームにとっては、羨ましい限りではあります。
とはいっても、関塚隆監督にとっては、悩ましいテーマであるに違いない。仕掛けイメージは、やはり「組織」と「個」がハイレベルにバランスするのが理想だからね。
一度でも「個」が成果を出してしまったら、チームのイメージが、そのベクトルに引き寄せられ「過ぎて」しまう・・そして相手ディフェンスの(要は相手のゲーム戦術の)思うツボにはまってしまう・・逆に、「組織」を前面に押し出し「過ぎて」も(特に、それで成果が上がってしまった場合)肝心なところで「個の勝負」が出てこなくなってしまうという危険性が高まることもある(まあ、ジュニーニョとチョン・テセだったら大丈夫もしれないけれど・・)。
とにかくフロンターレには、アントラーズの牙城(がじょう)を脅かす急先鋒になってもらわなくちゃ困るからね。あっと・・まだ彼らには、ACLやナビスコカップもあったっけ・・。こりゃ、大変だ。とにかく、関塚隆監督のウデに期待しましょう。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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