湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第26節(2009年9月20日、日曜日)
- とてもエキサイティングな勝負マッチ・・いくつか興味深いポイントがあった・・(RSvsSA, 1-1)
- レビュー
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- 今日は、テレビ埼玉の「レッズナビ・TV」に出演したことで、アップが遅くなってしまいました。それにしても、レイソル対サンフレッチェ戦は、とてもエキサイティングで面白い勝負マッチでした。
一方(サンフレッチェ)にとっては優勝戦線に生き残るための戦いであり、もう一方(レイソル)は「降格リーグ」のサバイバル戦線まっ只なか・・っちゅう具合。ゲームが白熱してくるのも当然の成り行きでした。結局は「1対1の痛み分け」ということになったけれど、両チームが作り出したチャンスの量と質という視点でも、とてもフェアな結果だったと思いますよ。
さて、この試合からピックアップするポイントですが、サンフレッチェでは、誰もが賞賛を惜しまない組織コンビネーション・サッカーに対する「より」深い考察と、運動量が求められるコンビネーションサッカーだからこその、気候的な条件を乗り越えていくための方策・・ってなテーマですかね。
またレイソルでは、何といっても、ネルシーニョになってからの手堅いサッカーというポイントと、フランサという天才の有効活用、そして若き才能、大津祐樹に、いかにチャレンジング魂を植え付けていくのかというテーマなどがピックアップできそうです。さて・・
まずサンフレッチェの組織コンビネーション・サッカー。
今日の記者会見で、はじめて、ペトロヴィッチ監督が、この表現(コンビネーションサッカー)を使うのを聞いた。いや・・これまでに何度も(通訳兼コーチの!?)杉浦大輔さんが、この表現を使っていたのに私が聞き逃していたのかもしれない。まあ、そういうことなんでしょうね・・。
とにかく、ペトロヴィッチ監督が、コンビネーションサッカーという表現を使うのを聞いて、ナルホド・・と、とてもスムーズにイメージが湧いてきた。その記者会見の後に、ペトロヴィッチと立ち話しをしたのだけれど、そこで、「サンフレッチェのサッカーを表現するキーワードの一つとして、ダイレクトパスというのがあると思うんだよ・・」という私の言葉に、彼が大きく頷(うなづ)いていたっけ。
そう・・ダイレクトパス。多分「それ」は、彼らのコンビネーションが、本当の意味で効果的に動き出したときの、とても大事なキーポイントなんだろうね。
例えば、落ち着いた状況から、前戦へのタテパスが飛ぶという状況。パスを受ける前戦プレイヤーは、相手のハードマークに遭っている。ただ彼は、正確に足許へ飛んできた鋭いパスを、「チョンッ!」と、方向を「軽く」変えるように「流す」のです。そのほとんどが、(より相手ゴールに近い)背後のスペースに入ってきていた味方へピタリと収まる。
仕掛けのタテパスを「チョンッ!と流す」ことで、より有利な攻撃の起点を作り出すというイメージが浸透している。そして、その起点プレイヤーが、再びダイレクトでスルーパスを送り込んだりする。もちろん、そのパスの先にあるスペースには、忠実に味方が走り込んでいる・・という具合。
そんなサッカーを観ながら、考えていた。
・・サンフレッチェが展開するコンビネーションサッカーでは、「本格的にアクション」がはじまったら、ホントに人とボールの動きがスムーズに連動しつづける・・そこでは、もちろんパス&ムーブが、とても重要な意味を持ってくる・・パスを出して、次のスペースへスタートする選手は、「ツー」のタイミングでリターンパスをもらえなくても、動きを止めることなく、決定的スペースまで動きつづけるのが常・・その意味で、サンフレッチェ選手は、「忠実さ」を絵に描いたようなプレーをする・・フムフム・・
また最終勝負シーンでも、そんなダイレクト・コンビネーションが(相手ゴール前ゾーンでも)繰り広げられる。トン、トン、チョン、ト〜〜ン・・ってなリズム。相手ディフェンダーは、そんな素早くスムーズなボールの動きに意識と視線を吸い寄せられ、見事にボールウォッチャーに変身してしまうのですよ。フ〜〜・・
サンフレッチェは、何度も、この「ダイレクト・コンビネーション」によってレイソル守備ブロックの動きを止め、決定的チャンスを作り出していた。このダイレクト・コンビネーションについても、本当によくトレーニングされていると思います。
最後の最後まで、組織コンビネーションで相手守備ブロックを崩すというイメージのサンフレッチェ(ダイレクトパスをつなぎながら、最後はダイレクトシュートをブチかますというイメージ!?)。もちろん、たまには、柏木陽介とか、服部公太といったところが、勝負ドリブルを繰り出したりするけれど、あくまでも「それ」は、最終的な組織コンビネーションを効果的にフィニッシュするための連動性の調整ファクション(機能)ということになるでしょうね。
トレーニングと言えば、ペトロヴィッチ監督に、こんな質問も投げかけてみた。「日本の夏はとても厳しい・・この試合でも、サンフレッチェが、落ち着くタイミングと、激しい人とボールの動きがスタートする「テンポアップ」のタイミングを、うまく使い分けていたという印象があるのだが・・そんな静と動のメリハリこそが、成功のキーファクターだと思うが・・?」
「まさに、そういうことだ・・我々は、ペースをダウンして落ち着くところと、勝負を仕掛けていく激しい動きを出すところを、明確にコントロールしようとしている・・要は、プレーのテンポのコントロールということだが、激しい動きが必要な優れたコンビネーションは(特に、蒸し暑い日本の夏では!?)90分間つづけることなどできない・・テンポを落とすところと、急激にテンポをアップさせて効果的なコンビネーションを仕掛けてくところを明確に使い分けられなければならない・・我々は、そのイメージに基づいたトレーニングも、積み重ねているんだ・・」
ノリノリのペトロヴィッチ監督は、日本代表についても、こんなコメントをしていた。「例えばオランダ戦での日本代表だけれど、彼らが前半に展開したサッカーは、世界中に、日本サッカーの素晴らしさをアピールしたと思う・・でも最後には、何点もブチ込まれて負けてしまった・・誰もが、あのサッカーを90分間つづけるのは無理だと考えていたんだよ・・」
・・フムフム・・もちろん「日本の夏」を乗り切るためには、ペトロヴィッチが言う「メリハリのあるテンポコントロール」が必須だよな・・でも・・ここがとても大切なポイントなのだけれど・・チームに対しては、とにかく「まず」最高テンポのダイナミック組織コンビネーションサッカーを90分間やり通すという考え方を貫かなければならないと思う・・
・・その方針に基づいて、チームのコンビネーションサッカー内容を「最高の限界レベル」まで高揚させる・・そして「そこ」から、必要に応じて、様々に、戦術的な妥協をしていく・・その現象面は、落ち着きと(チーム全員のイメージが明確にシンクロした!)激烈な仕掛けが、メリハリよく分散しているサッカーとでも表現できるだろうか・・まず限界まで持っていき(限界までいくことの意思表明!)そこから現実に即した「戦術的な妥協」をする・・そんな発展プロセスが現実的だと思う・・
例えば、限界レベルまでプレーコンテンツが高まっていない段階で、もし一度、「リスクには全力でチャレンジしなければならない・・それでも、蛮勇はダメ・・」なんていう表現をしたら、その時点で、チームのモラルは地に落ちちゃうだろうね。「逃げ込む場所」を提供したら、様々な言い訳を駆使しながら、そこに居座ってしまうのが常だから・・。
もちろん、長年、同じ戦術コンセプトを深く浸透させてきたサンフレッチェでは、抜群のダイナミズムを誇るディフェンス(ボール奪取勝負)も含め、組織コンビネーションサッカーが最高レベルで機能するからこそ、自ら(言い訳マインドなどとは無縁の主体性をもって!)テンポを落とすことができるでしょう。それこそまさに本物のテンポコントロールサッカー。だからこそ、守備も安定し、勝負強くもなった(この試合で、9試合つづけて負けなしだってサ)。
とにかく、人とボールが極限まで動きつづける組織コンビネーションサッカーでは、様々な「錯綜した意味」を内包する「テンポ・コントロール」が大事な意味を持ってくるのは確かな事実なのですよ。その視点でも、ペトロヴィッチだけではなく、レッズのフォルカー・フィンケのマネージメントにも大いなる興味が湧いてくるじゃありませんか。
さて次は、新任のネルシーニョ監督に率いられ、これまた興味深い発展プロセスを辿(たど)りつつある柏レイソル。守備にしても攻撃にしても、成長していることは確かな事実です(記者会見でのネルシーニョ監督の弁)。
まず何といっても、サッカーのやり方(特に守備!)に関するイメージが、とても早いテンポで発展しつづけていると感じます。ネルシーニョ監督の「成長している・・」という発言のバックには、その意味合いも含まれているはずです。
そこでは、やはり、監督のアプローチの仕方が、とても大事な意味を持ってくる。監督のウデが試されるというわけです。とにかく、良いチームになるためには、チーム全体が、同じプレーイメージで統一されることが絶対的に大事な意味を持ってくるからね。その視点で、(まあ・・これまでは!)ネルシーニョ監督の「心理的なアプローチ能力」は本物だということです。
次の、レイソルのポイントだけれど、それは「天才フランサ」。
ネルシーニョ監督は、この天賦の才の使い方について、ホントに特筆モノの「采配のウデ」を発揮していると思います。この試合でも、リードした残り30分弱というタイミングでフランサを登場させた。そしてすぐにフランサが、(サンフレッチェ的な!)ダイレクトパスを回す起点になったりする。またボールを持っても、その迫力によって、サンフレッチェ選手も、簡単にアタックしてこられない。
要は、フランサが、それまで相手守備ブロックが慣れていた「相手攻撃のリズムイメージ」を、完全に壊してしまうような、本当に怖い存在になっているということです。それこそが、攻撃におけるホンモノの実効ある変化・・というわけです。
ダイレクトの「流しパス」にしても、パス&ムーブからの、決定的スペースの活用にしても、相手にボールをさらした状態でキープしてしまう「クリエイティブなタメ」にしても、はたまた、危険なドリブル勝負や中距離シュートにしても、相手にとっては、まったく「寝耳に水」の大きな変化というわけです。そんな「急激な変化」に、効果的に対応できるチームはいないだろうね。レッズも、フランサによって2ゴールも失ったしネ。フムフム・・
そして最後が、若き才能、大津祐樹。優れたフィジカル(立派な体躯、スピード&パワーを兼ね備えている)、優れたテクニック(センス)と戦術理解(インテリジェンス)など、とても期待の持てる攻撃プレイヤーです。でも、心理・精神的な部分では、大きな、とても大きな課題を抱えている。勇気がないのか、意志が足りないのか・・。とにかく、「勝負を(リスキープレーを)仕掛けてかなければならないシーン」で、ビビりまくって逃げのパスを出したりするのですよ。
まだ19歳だから!? いや、そんなのは次元の低い言い訳にしか過ぎない。他のチームでは、既に何人もの同年代の若手が、ベテランに対しても強烈な「自己主張」を繰り広げるくらい活躍しているんだぜ。大津祐樹の才能レベルは、そんな、目立っている若手のなかでもピカ一なのに・・
ということで、ネルシーニョ監督には、そんな若手の「ブレイクスルー」に対しても期待しちゃうわけです。とにかく大津祐樹には、何らかの、鳥肌が立ち、冷や汗が止まらないくらいの「強烈な刺激」が必要だと思っている筆者なのです。それしても大津祐樹のプレーは魅力的だよな〜〜。だから、何とか・・。お願いしますよ、ネルシーニョさん・・
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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