湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2009年10月4日、日曜日)

 

フロンターレは、本当によく「落胆によるネガティブな心理スパイラル」を断ち切った・・(FRvsM, 2-0)

 

レビュー
 
  「本当に勝つことができて良かった・・」

  「今日の勝利はとても大きい・・」

 ゲームの後、キャプテン牛若丸(中村憲剛)と関塚隆監督が、異口同音に、そんなニュアンスのことを言っていた。リーグ戦で連敗し、大きな目標の一つだったACLも落とした。そんなフロンターレに、ネガティブな雰囲気が充満しないはずがない。

 「ACLでの敗戦から三日しかなかったが、とにかく気持ちを切り替える作業に全力を傾注した・・たしかに失ったモノは大きいが、とにかく我々は、前を向いて進みつづけなければならない・・」

 関塚隆監督の弁だけれど、この三日間は、チームの心理マネージメントに全力を尽くしたということなんだろうね。それは、選手と監督(コーチやトレーナー、はたまた心理療法士など!?)との間での本音トークも含め、とても興味深いモティベーションプロセス(要は、ネガティブマインドから解放させられるだけの希望や期待を与える心理マネージメント)だったに違いありません。

 具体的にどのような言葉を選手たちに掛けたのか?と質問された関塚隆監督は、ファンの期待に応えなければならないとか、川崎の誇り(アイデンティティー)として全力を尽くすことに対する自覚を呼び起こさなければならないとか、ちょっと「建前論的なコト」を言っていたけれど、内実は、とても繊細で「個別な」心理マネージメントだったと思いますよ。だからこそ興味深い。

 何せプロチームは、個人事業主の集合体だからね。

 チームの目的・目標は、美しいサッカーで勝つ・・というコンセプトで統一されているだろうけれど、そんな最終ゴールのイメージ基盤に「乗っかっている」個々の(そして日々の)具体的な目的・目標イメージは、大きく相違するだろうからネ。そこには、選手それぞれに相違する生活文化が大きく関わっている・・だからこそ個別の心理マネージメントが必要になってくる・・そして「そこ」にこそ、監督、コーチの「指先のフィーリング」という本物のウデが試される・・フムフム・・

 ということで、とても興味深いゲームになったわけだけれど、わたしの目には、フロンターレが、「落胆によるネガティブな心理スパイラル」から完全に解放されていたとは映っていませんでした。

 試合が進むなかで、徐々に落ちていった運動量にも、攻守にわたる「ボールがないところでのプレーの量と質」にも、さまざまな心理メカニズムが複合的に作用し合った結果として出力されてくる「極限の意志のチカラ」が感じられなかったのですよ。そして、徐々にマリノスが試合を支配しはじめ、例によってのダイナミックな組織プレーと、その流れに効果的にミックスされる勝負ドリブルの相乗効果で、何度もチャンスを作り出すという展開になっていく。

 そんな(フロンターレにとって)ネガティブな「流れ」に追い打ちをかけるように、後半に作り出した二つの絶対的なチャンス(レナチーニョとジュニーニョの決定機)もモノにできないというネガティブ現象がつづいてしまう。「落胆」という後ろ向きの心理が、雪だるまのように膨れあがる・・

 そんなフロンターレだったけれど、その「暗黒マインドの雪だるま」をブチ壊すように、唐突なワンチャンスをモノにしてしまうのです。森勇介からのアーリークロスを、谷口博之が見事なヘディングでマリノスゴールに叩き込んだ。ホントに目の覚めるような「一発ロング最終勝負」だった。

 そしてその9分後には、攻め上がったマリノスの逆モーションを突くように、見事なカウンターから、レナチーニョが決定的な追加ゴールを叩き込んだという次第。それまで眠っていた決定力が大噴火した・・!? フムフム・・

 ということで、この試合からビックアップするテーマは、フロンターレが擁する(前戦の)強力な個の才能・・。

 ジュニーニョ、チョン・テセ、レナチーニョ・・。それに、キャプテン牛若丸や谷口博之が(はたまた両サイドバックも)絡む攻撃は、たしかに強力。

 マリノスの木村浩吉監督が、「フロンターレの場合、漠然としたロングボールでも、チャンスに結びつけちゃいますからネ・・」と言っていた。

 そのコメントは、「フロンターレは、チャンスをゴールに結びつけるチカラ(まあ・・決定力!?)ではリーグ随一だと思うのだが・・」という私の質問に応えたモノだったけれど、あれだけゲームを支配していたマリノスが、まさにワンチャンスを決められて敗戦してしまったのだから、木村浩吉監督の言葉に実感が込められるのも道理ということか。

 木村浩吉監督は、ハーフタイムにも、「アバウトなロングボール(アバウトなロングクリアボール!?)を使ったカウンターに注意しよう・・」と、フロンターレの前線プレイヤーのチカラを警戒していた。

 フロンターレの個の才能だけれど、もちろんそれは、諸刃の剣だよ。これまでに彼らが苦戦したゲームを振り返るまでもなく、「そこ」を徹底的に抑えられちゃったら、攻撃での「動き」がスタックし、そのことで全体的なサッカーの勢いも「劇的に減退」してしまうことも多いからネ。

 守る方にとっては、フロンターレ攻撃のやり方に関する(対処)イメージを構築し、それに対する「ゲーム戦術」を、忠実に徹底すればいいわけだからネ。でも、たしかに守備のターゲットを絞り込みやすいという意味では、たしかに「諸刃の剣」だけれど、逆に、彼らを「オトリ」に周りが活きるという「カウンターゲーム戦術」でゲームに臨むっちゅうコトも考えられるわけだから・・。

 まあ(そんなカウンターゲーム戦術を駆使することは希な!?)フロンターレの場合は、守備と攻撃をつなぐリンクマンとしての「キャプテン牛若丸」の出来が、とても大事な意味をもってくるということですね。牛若丸がキレキレだったら、いくらゲーム戦術を徹底しても、まったく機能しなくなってしまうからね。その意味では、この試合の牛若丸は、そんなにうまく機能したとは言えないのかもしれないね。

 とにかく、フロンターレが「生き延びた」ことで、リーグ優勝争いが「より一層」エキサイティングに盛り上がることは必死の状況になった。そんなことは、つい先日までは考えも及ばなかったことだからネ。エスパルス、アントラーズ、ガンバ、フロンターレ、アルビレックス・・・。とにかく、お互い、とことんサッカーを楽しみましょう。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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