湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第3節(2009年3月21日、土曜日)
- マリノスは着実に良くなっている・・また魔術師フランサについても・・(マリノスvsレイソル, 3-3)
- レビュー
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- 「周りはどう思っているのかは分かりませんが、わたしは、マリノスのサッカー内容が着実にアップしてきていると思っているんですよ・・」
悔しい・・本当に悔しい引き分けの後の記者会見。その場で、マリノス監督の木村浩吉さんが、そんなニュアンスのことを言っていた。
ダイジョウブだよ・・ほとんどのエキスパートは、マリノスのサッカー内容を高く評価しているはずさ。もちろん、私も含めてネ。
前半のサッカー内容は、まさにマリノスの独壇場でした。その絶対的ベースは、何といってもダイナミックな守備にあり。素晴らしい勢いのチェイス&チェックに、周りの味方もしっかりと反応し、相手からポールを奪い返すために効果的なアクションを積み重ねていく。そして、レイソルを追い込み、囲い込んで(協力プレスで)ボールを奪い返してしまったり、パスが回されても、それを受けるパスレシーバーのところでアタックを仕掛けたり、美しいインターセプトを成就させたり。
そんな、マリノスが魅せつづけたハイレベルな守備(要は、優れた意志の連鎖!)は、その後の攻撃の勢いを引き上げていきます。ボールの動きと人の動きが(統一されたイメージに基づいた意志が!)まさに有機的に連鎖しつづける。
高い位置でボールを奪い返した次の瞬間、何人ものマリノス選手が、脇目も振らずにレイソルゴール前のゾーンへ飛び出していくのですよ。それも、全力で、次のタテのスペースへ抜け出していく。そして、高い確率で、その「眼前スペース」へタテパスが送り込まれる。目を奪われました。
また、パスだけではなく、両サイドバックの小宮山尊信や清水範久、山瀬功治や狩野健太といったところが、タイミングのよい個人勝負(勝負ドリブル)を繰り出したりする。先制ゴールも、小宮山尊信が繰り出した「エイヤッ!」の勝負ドリブルからのショートクロスが、ピタリと狩野健太のアタマに合ったものでした。
とにかく、攻守にわたって、抜群のダイナミズム(活力・迫力・力強さ)をブチかましつづけるマリノスなのです。これじゃ、レイソルがタジタジになるのも道理といったところ。木村浩吉監督は(昨シーズンに監督に就任してから)優れたパフォーマンスを発揮していると思うし、その仕事の内容を高く評価したからこその続投だったはずだから、マリノスのマネージメントのウデも評価しなければいけないね。
ところでマリノスの中盤。両サイドバックの小宮山尊信と清水範久、両サイドハーフの山瀬功治と狩野健太、そして、小椋祥平と兵藤慎剛で構成する守備的ハーフコンビの6人が、かなり自由にポジションをチェンジしつづけていた。
もちろん縦横無尽というわけじゃないし(基本的に、左サイドは小宮山尊信と山瀬功治、右サイドは清水範久と狩野健太)守備的ハーフでは、小椋祥平が「アンカー的なタスク」をこなしてはいるけれど、それにしても、かなり積極的に「縦方向」にもポジションをチェンジしつづけていた。
もちろん「そのようなリスキーなプレー」の大前提は、高い守備意識。たしかにマリノス選手は、本当に忠実に、そしてクレバーに「ボール奪取プロセス」に絡みつづけるよね。守備的ハーフの兵藤慎剛が上がれば、山瀬功治が下がって忠実な中盤ディフェンスを展開する・・右サイドで清水範久が上がれば、狩野健太が、自軍の深くまで戻って守備に就く・・フムフム・・
とにかく前半のマリノスは、レイソルを圧倒していた。この試合では、その内容が、結果にも如実に反映されていたし(前半だけでマリノスが3-1のリード!)だからこそ、こちらも安心して観ていられた。でも・・
後半の立ち上がりも、マリノスがベースを落とさずにゲームを支配しつづける。最初からガンガンとレイソルを押し込み、何度か決定的チャンスを作り出すマリノス。そのときは、圧倒的なマリノスの勝利ということになるよな・・なんて思っていたけれど・・
「後半は良いサッカーが出来たと思う・・選手たちの闘う意志が前面に押し出されていた・・」
レイソルの高橋真一郎監督がそんなニュアンスのことを言っていたけれど、たしかにレイソルも徐々にベースを上げ、後半も15分を過ぎたあたりからは、ゲームが、まさに互角といった展開に変容していったよね。そのバックボーンは、もちろん(高橋監督が言っていた)闘う意志の高揚。要は、意志の具現として、ディフェンスが活性化したということです。そのことで、もちろん攻撃にも勢いが乗っていく。
とはいってもネ、そこには、フランサという「諸刃の剣」がいる・・。
「フランサですが、まだまだ彼のプレーイメージと、周りの味方のイメージがうまく噛み合っていないと思うのだが・・」という私が投げかけた質問に対し、高橋監督が、「フランサは、諸刃の剣ですからね・・昨シーズンから比べれば良くなっていると思うのですが、おっしゃるように、前を向いて勝負するときに、どうも周りのアクションとうまく噛み合わない部分も多い・・それが今シーズンの課題の一つというわけですが、それでも、ツボにはまれば決定的な仕事をしてしまう・・」と言っていた。
そう、この試合でも、一アシスト、一ゴールだからネ。でも逆に、彼にボールが集まるから「そこ」を狙われて頻繁にボールを失っていたし、ボールがないところで走らないし、守備もやらない。とはいっても(良いカタチでボールを持ち、気持ちが乗ったら!?)彼が中心になった素晴らしいコンビネーションが飛び出し、マリノス守備ブロックがきりきり舞いさせられてしまったりする。ホントにヤツは諸刃の剣だ。
そんなやり取りのなか、日経新聞の阿刀田さんが、こんな質問を投げかけた。「フランサついでに聞きますが(笑)・・この試合でも、彼が中盤に下がってきましたよね・・でも守備をするわけじゃないし・・それは監督の指示だったのですか?」
「いや・・前戦で待っていてもボールをもらえないから、ガマンできずに下がってきたというところでしょうね・・もちろん最終ラインまで下がりはしませんが・・とにかく、下がってプレーするというのは、わたしの指示ではありません(笑)・・」
阿刀田さんの質問には、フランサが下がっても守備をしないから、逆に、レイソル守備陣にとっては邪魔な存在であり、危険因子にだってなるケースがあるはず・・フランサには、常に前戦に張っていることを要求すべきだったのでは・・ってなニュアンスも含まれていたはず。まあ、その「質問ニュアンス」をよく理解していた高橋監督が、うまく答えをはぐらかしたということか。
それにしてもフランサは、ツボにはまれば誰も止められない。とはいっても、攻守にわたる組織プレーを標榜するレイソルにとっては、まさに「イメージ的な諸刃の剣」であることも確かな事実。彼の特長を最大限に発揮させるカタチで、チーム内の機能性をどのように高めていくのか・・。高橋真一郎監督のウデに注目しましょう。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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