湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第33節(2009年11月28日、土曜日)
- 本当にアントラーズは、絶妙のタイミングで本来の勝負強さを取り戻した・・(AvsGA, 5-1)
- レビュー
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- ハーフタイムに、アントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督が、「攻撃しているときも、リスクマネージメントに気を遣うこと・・後半も球際のアグレッシブさを忘れないように・・」と、選手に呼びかけたとか。フムフム・・
この日のアントラーズは、まさに王者の貫禄でした。ゴールが入らなかった前半でも、試合の流れは、完全にアントラーズが牛耳っていた。また後半、二点のリードを奪った直後にガンバが追いかけゴールを決めたわけだけれど、そこから、勝負強いアントラーズの本領が発揮され、ガンバを突き放していった。
とはいっても、多くのゴールが生まれた後半15分までの展開には、ある意味で興味深い「心理ドラマ」も内包されていたと思っている筆者なのです。
例えば、ガンバが「2-1」になる追いかけゴールを決めたときのこと。そのシーンを観ながら、自然と「アントラーズはついてるな・・」なんていう思いがわき上がってきた。アントラーズにとっては、二点のリードを奪った気の緩みがチーム内に蔓延してしまう前に、失点という「警鐘」が鳴らされたわけだからね。
その失点(=刺激)には、とても大事な心理的コノテーション(言外に含蓄される意味)が内包されていたと思うのですよ。
「2-0」というリードを奪っていることで、どうしても発生してしまう気の緩みというネガティブな心理ヴィールスがチーム全体に蔓延し、それが取り返しのつかないレベルまで到達してしまったら、それをリカバリーするのは、とても難しい作業になるからね。もちろん、ドゥンガに代表されるような絶対的リーダー(心理ドライバー)がいればハナシは別だけれど・・
ともあれアントラーズは、とてもラッキーなタイミングでこれ以上ないほどの「刺激」をブチかまされ、そのことで最高レベルの緊張感を取り戻していくのですよ。そして、再びアップした守備の安定性をベースに、セットプレーや(ショート!?)カウンターから次々とゴールを決め、ガンバを突き放していった。そんなアントラーズには、王者の風格さえも漂っていた。
その強さのバックボーンが、冒頭に紹介した、オズワルド・オリヴェイラ監督の檄(げき)に込められていたのです。そう・・優れた守備意識と、局面でのギリギリの闘う意志・・
最初の(次の相手の攻撃に対する)リスクマネージメントという発言の意味だけれど、言うまでもなくそれは・・仕掛けの流れに乗り遅れたヤツは、後方からの攻撃サポートだけではなく、次の守備に備え、まずポジショニングと人数のバランスを取ることをイメージしろ・・もちろん、大前提は、攻撃から守備への(爆発的な!)切り替えだ・・っていう意味でしょ。
攻撃での彼らは、積極的にリスクへチャレンジしていけと言われているはず。だからこその(次の相手の攻撃に対する)リスク・マネージメント(リスクヘッジの意識)ということです。
また、球際での攻撃的な姿勢。それもまた意識と意志の問題だね。そこ(心理マネージメント)にこそ、プロコーチの本物のウデが試されるというわけです。「戦術」でアタマでっかちになっている連中は、まず、サッカーが本物の心理ゲームだという事実をしっかりと意識しなければならないのですよ。「戦術」に命を吹き込むのは、選手の意志なんだからネ。
優れた守備意識・・それをベースにした間髪を入れない攻守の切り替えと忠実でダイナミックなチェイス&チェック・・その周りで展開される、強烈な意志が炸裂する有機連鎖ディフェンス・・などなど、その視点でも、わたしは、オズワルド・オリヴェイラ監督のウデを高く評価するわけです。
ところで、アントラーズの攻め。
代表的なのが、サイドバックとサイドハーフによるタテのポジションチェンジを基調にした仕掛けコンビネーション(サイドゾーンからの仕掛け)と、マルキーニョス&興梠慎三が繰り出す危険な個人勝負(組織パスプレーがうまく機能しているからこそのスペースの有効活用!)であることは言うまでもありません。
でも今日は、それに、高い位置でのボール奪取をベースにした効果的な「ショートカウンター」という仕掛けの共通イメージも付け加えたいと思います。
アントラーズでは、(前述した)最前線からの強烈なチェイス&チェックと、アグレッシブな球際のせめぎ合い(ボール奪取に対する強烈な意志!)が、殊の外、効果的に機能していると感じるのですよ。
先制ゴール場面だけではなく、何度、中盤の高い位置でボールを奪い返してからの素早く危険な(観ている方にとっては、とても魅力的な!)ショートカウンターに目が釘付けになったことか。ホント、エキサイティングだよね。何せ、そのボール奪取が、直接チャンスに結びつくわけだから、観ている方が興奮しないわけがない。
特に、マルキーニョスと小笠原満男が魅せる、ココゾのボール奪取アタックは見応え満点だった。一方のサイドから、全力でアタックを仕掛け、あわてて切り返そうとする相手のボールを、チョン!と引っかけて奪い取ってしまう。
相手の切り返しアクションを完璧に読んでいるからこその、テクニカルな「引っかけプレー」なのですよ。まさに「スリ」。そうそう・・中村俊輔もうまいよね。
要は、相手の「回避動作」を誘発するように、これ見よがしの大パワーでボール奪取アタックを仕掛けていくということです。そこでは、全力で相手ボールホルダーに迫る(=チェイスする)というギリギリの雰囲気が、とても大事なのです。クレバーなワナ・・
もちろん、アントラーズの仲間たちは、マルキーニョスや小笠原満男が「全力アタック」に入ったら、例外なく、「次」を狙うポジションへ移動していく。そう、必殺のショートカウンターをイメージしながら・・
負けが込んでいた頃のアントラーズでは、そんな積極的なチェイス&チェックが、うまく「有機的に連鎖」せず、ほとんどが単発だった。だから相手に、余裕をもって、アタックを空振りさせられるシーンが目立ち、徐々にチェイス&チェックのダイナミズムも減退していったし、ボールがないところでのマークや、次のボール奪取勝負でも忠実さを欠いていた。
それにしてもアントラーズは、本当に、絶妙のタイミングで「勝負強さ」を甦(よみがえ)らせたよね。オズワルド・オリヴェイラ監督の、心理マネージャーとしてのウデに対して拍手・・
ということで、今日の質問の冒頭で、「オズワルド・オリヴェイラ監督には、最高のカタチでリーグを盛り上げていただいたという意味でも、感謝してま〜す・・」なんて、余計なことを言った。そうしたらオリヴェイラさんが、「(アンタに感謝される筋合いなんてない!)我々は、勝つために全力を尽くしているだけだ・・」なんて、怖い顔で、四角四面のコメントを叩っ返された。あははっ・・
そうなんですよ、リーグ最終節は、Jのチャンピオンを決める闘いという視点でも、(次年度のACL参戦の可能性が残る!)四位争いという意味でも盛り上がりが期待されるのですよ( ホントは、降格の最後の一席をめぐるギリギリの争い・・っていう見所の可能性もあったんだけれど・・)。
とにかく、オリヴェイラさん、ホントに、ありがとうございました。アッ、またまた余計なことを・・スミマセン・・あははっ・・
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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