湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第34節(2009年12月5日、土曜日)
- アントラーズ、まさに実力のリーグ三連覇・・そして、レッズ来シーズンの課題・・(RvsA, 0-1)
- レビュー
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- とにかく、アントラーズの勝負強さには舌を巻きます。その(長い時間をかけて熟成されてきた)勝負強さの絶対的なバックボーンは、「継続こそチカラなり」という一言に集約されるだろうね。
オズワルド・オリヴェイラ監督も、レッズのフォルカー・フィンケ監督も、異口同音に、正しいコンセプトの設定作業を通し(チームに明確に示し、そのことに対する共通の理解を深める!)そのコンセプトを忍耐強く磨き上げていくことこそが成功のバックボーンだというニュアンスのことを言っていた。まあ「それ」は、チーム全体が、統一されたチーム戦術イメージをシェアし、全員がしっかりと実践すること・・なんて言い換えられるかね。
その視点で、オズワルド・オリヴェイラ監督に率いられたアントラーズが、まさに、チャンピオンに相応しいチームだったことは論をまちません。とはいっても、わたしの深層心理では、やっぱり、「新チャンピオン」を待望していた部分もあった。そう・・関塚隆監督に率いられたフロンターレ。
そのフロンターレは、前半だけで、レイソルから3ゴールももぎ取った。まあ勝利は堅い。だから、レッズが同点にすれば、マイスターシャーレが、アントラーズの手から滑り落ちる。フムフム・・
最後の時間帯は、トゥーリオの絶対的なヘディングシュートやセルヒオ・エスクデロの決定的シュートシーンなど、誰にも結末が見えないスリリングな展開がつづいたのですよ。そのことについてオズワルド・オリヴェイラ監督が、こんなニュアンスのことを言っていた。
「そんなピンチに陥るのは、強い相手とのギリギリの勝負だから当たり前だ・・ただ我々はしっかりと守り切った・・私は、フロンターレの試合経過は知らなかったし、それよりも、この試合で何を為すべきかというテーマに没頭していた・・ブラジルには、サトウキビを噛みながら口笛は吹けない、という諺がある(二兎を追う者は一兎をも得ず!?)・・フロンターレの試合経過を気にしていたら、この試合は負けていたのではないか・・とにかく私は、この試合に勝利することに全力を傾注し、それに100パーセント集中していたのだ・・」
「そこでは平常心でゲームを進めていくことが大事だった・・レッズとの最終節は、今シーズンでもっともタフなゲームになるはずだし、押し込まれる時間帯もあるに違いないと思っていた・・ただサッカーは、90分で決着をつければいい・・立ち上がりでは押し込まれると考えていたが、安定した守備を維持していれば、必ずチャンスがくると確信していた・・そして実際にその通りになった・・」
フムフム・・。オズワルド・オリヴェイラ監督は、本当の勝負師だよな。一時は大きく調子を落としたアントラーズだったけれど、その後、まさにギリギリのタイミングでチームを再生し、そしてリーグ史上初の三連覇を達成してしまった。まあ、大したものだ。本当に、心から祝福します。おめでとうございました。
ということでレッズ。
皆さんもご覧になった通り、全体的なサッカー内容は、悪くはなかったですよネ。もちろん、ちょっと「勇み足」的なプレーもあったけれど、全体としては、攻守にわたって良いリズムのサッカーが展開できていたと思います。でも、最後は、アントラーズの勝負強さにやられてしまったけれど・・
良いサッカーになったのは、レッズの期待の星である原口元気と山田直輝、そして徐々にトップフォームに戻りつつある田中達也が「二列目トリオ」を組み、まさに攻守にわたって、素晴らしくダイナミックなアクションを展開したからに他なりません。
やはりサッカーは、守備から入っていかなければならないのですよ。この三人の、前戦からのチェイス&チェックが、チームの守備アクションの量と質を、どんどんと高揚させていった。ということで、全体的には、レッズがゲームを牛耳っていたのです。とはいっても、実際には・・
そうなんですよ。たしかにレッズはゲーム全体の流れは、良いサッカーで牛耳ってはいるけれど、実際のチャンスを作り出すという視点では、物足りない。逆に、アントラーズに、カウンター気味の仕掛けやセットプレーから、何回か決定的チャンスを作り出され、結局最後は、とても素早いタテへの仕掛け(小笠原満男が起点・・そこから、右サイドの内田篤人への素早い展開パス!)から、まったくフリーでボールを持った内田篤人が、余裕でルックアップし、そのアイコンタクトで爆発したマルキーニョスと興梠慎三の「二枚の決定的フリーランニング」に、内田篤人からのラストロビング縦パスがピタリと合った。それがこのゲーム唯一のゴールになったという次第。
そうなんですよ。勝負強いアントラーズは、チャンスをしっかりとゴールに結びつける「勝負イメージ」がしっかりと連動しているのです。だからこそ、「あのチャンス」に、マルキーニョスと興梠慎三が、まさに脇目も振らずに全力ダッシュでニアポストゾーンへ飛び込んでいった。この、決定的スペースへの飛び出しの勢いが、レッズには欠けているのです。
いまレッズナビに出演して帰ってきたところだけれど、そこでも、レッズ攻撃に関する中心的な話題は、タテへの仕掛けが、中途半端すぎるというテーマだった。そう、タテのポジションチェンジがうまく機能していない。だから、アントラーズ守備ブロックも、余裕をもって、自分の眼前で対応できてしまう。彼らが、背後のスペースを突かれてアタフタしたシーンは、本当に数えるほどしかなかったからね。
それには、阿部勇樹と鈴木啓太で構成する守備的ハーフの、攻撃への関わりが大きな意味を持ってくる。原口元気、山田直輝、田中達也というダイナミックな中盤選手たちと、どんどんとタテにポジションを入れ替えていけば、もっともっと、アントラーズ守備が怖がる危険な仕掛けを繰り出していけたはずなのですよ。
今シーズンのはじめの頃は、そんなダイナミックな「クロスオーバーの動き」が、ふんだんに盛り込まれていた。それが、相手がガチガチの(レッズの攻撃を抑える)ゲーム戦術で守備ブロックを固めてきたことで、ちょっと雲行きが怪しくなっていく。うまく、タテの決定的スペースを、コンビネーションで突いていけなくなったのですよ。そして、中途半端に「二列目でパスを回している」うちに、相手に協力プレスを仕掛けられてボールを奪い返され、そこからの一発カウンターに沈んでしまう。
そんな展開がつづいたことで、選手たちのプレーが、より縮こまってしまい、攻撃でも守備でも、中途半端なプレーになっていった・・。要は、カウンターが怖いから(次の守備に対する互いの信頼関係がまだまだ希薄だから!?)後方からの思い切った飛び出しができないし、人数が足りず、相手の強化ディフェンスブロックに抑え込まれた前戦も、うまくスペースを突いていけずに変なカタチでボールを奪い返されてしまう。そして陥るのが、例によって、心理的な悪魔のサイクル・・
もちろん、そこでは、蒸し暑い日本の夏という「厳しい気候」もネガティブに作用していたし、チームも、攻撃の変化を演出できずに、まったく同じパターンでボールを失いつづけていた。フムフム・・
ところで、この試合の先発メンバー。要は、前述した、原口元気、山田直輝、そして田中達也の二列目トリオ。やはり、このメンバーだと、サッカーがよりダイナミックに活性化していくよね。もちろん、前述したように、阿部勇樹と鈴木啓太というセンターハーフコンビとの「タテのコンビネーション」については、相手の背後スペースを突いていくという視点で大きな課題があったけれど、それでも、そのサッカーからは、今シーズン初頭の、ボールオリエンテッドなダイナミックコンビネーションサッカーの片鱗が感じられた。それは、来年へ向けての大いなる希望の光だった。
繰り返すけれど、来シーズンへ向けてのもっとも大事なイメージターゲットは、ダイナミックな組織ディフェンスを(要は、優れた守備意識を!)絶対的なベースに、人とボールが動きつづける、ボールオリエンテッドなダイナミックコンビネーションサッカーを志向することです。
レッズ選手たちのマジョリティーも、そんなサッカーを実現したいと思っているはずです。たぶん・・
とはいっても、そんなレッズ攻撃を抑え込もうとする相手のゲーム戦術にも、中途半端な心理状態ではなく、しっかりと確信をもって効果的に対応していかなければならないし、夏場には、厳しい気候条件に、うまく適合した効率的なサッカーを志向しなければなりません。
特に、夏場のサッカーだけれど、暑くなる前までに、「攻守にわたって動くこと」や「タテのポジションチェンジ」について、どんな状況でも、すぐにでも(全員が一体となって!!)フルパワーでトップギアに入れられることに対する『確信レベル』を極限まで引き上げておかなければいけません。
暑くなったら、両チームの動きが鈍化するのは必定だよね。でも、そんな厳しい気候条件のなかでも、レッズだけは、必要なときに(少なくとも相手よりも頻度を高く)サッカーのテンポを(要はディフェンス勝負の流れを!)瞬間的にトップギアに入れられるところまで、しっかりとイメージトレーニングする・・ということです。
そして最後が、フォルカー・フィンケの心理マネージメント。
選手のエゴイスティックな欲望や不満に迎合するのは愚の骨頂だけれど、モティベーションを高揚させるためにも、『正しいコミュニケーション』は必要だよね。まあ、フォルカー・フィンケ自身が効果的に行うのは難しいかもしれないから、フォルカー・フィンケが信頼するコーチなりコーディネイターなりが、選手とのパイプ役になるというのが現実的なのかな。
大事なことは、そのコーチなりコーディネイターなりの助言にしたがって、必要とあらば、フォルカー・フィンケも、真摯に、そして謙虚に、選手たちに接することが出来ることです。もちろん、グラウンド上の監督というようなリーダー的存在になり得る、フォルカー・フィンケの右腕的な選手を見出すことも大事だよね。
とにかく、ゲームがはじまってしまえば、後は、選手に任せるしかないのだし、彼らの「意志」を高揚させるのがコーチの第一義的な仕事だからネ。ここは(歪んだ甘えの構造もまだまだはびこっている!?)日本だから、その作業は、より「微妙なもの」になるのですよ。その心理メカニズムに対する理解も必要だし、それら全てのことについて、とにかく来シーズンは全力で取り組まなければなりません。来年は、もうどんな言い訳も通用しないわけだからね。
私は、いまでも、フォルカー・フィンケは優秀なプロコーチ(個人事業主)だと思っています。優れた学習能力も含めた秀でたパーソナリティー。期待しましょう。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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