湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第5節(2009年4月11日、土曜日)
- さて、やっと木村浩吉マリノスがブレイクし始めた・・(マリノスvsヴィッセル, 5-0)
- レビュー
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- いや〜〜、来たネ〜〜、木村浩吉率いる横浜F・マリノス。
彼らについては、もう何度も書いているように、いつかは「来る」と確信していたわけだけれど、それにしてもこの試合での「来方」は派手だったネ〜。何せ、5-0だからね。
たしかに(カイオ・ジュニオールと木村浩吉の両監督が異口同音に話していたように)マリノス先制ゴールの後にはヴィッセルが盛り返し(セットプレーから)同点にするチャンスを作り出すなど、彼らがゲームのペースを握る時間帯もあった。
でも全体的なサッカー内容からすれば、誰もが、マリノスの完勝という評価に落ち着くでしょう。ホントに、マリノスが繰り出しつづけた攻守にわたるダイナミックな(躍動的で力強い)組織プレーは見事の一言でしたよ。
特にディフェンスが素晴らしかった。これまでに何度も書いたように、彼らの忠実でパワフルな(そしてクレバーな)チェイス&チェック(守備の起点づくり)と、協力プレスも含めた周りのボール奪取アクションが、見事に、有機的に連鎖しつづけるのです。特筆だったのは、その忠実な「意志の勢い」が、最後の最後まで衰えなかったことです(もちろん実際のフィジカルの勢いはダウンしたけれどネ)。
そんな忠実なディフェンスがあったからこそ(優れた守備意識が深く浸透しているからこそ!)次の攻撃にも勢いが乗る。もちろん、簡単にはウラの決定的スペースを突けていたわけじゃなかったけれど、それでも、彼らの粘り強いチャレンジには、これからの彼らの発展を期待させるのに十分なコンテンツがてんこ盛りでした。
そんなマリノスの守備ブロックのなかでは、その重心とも言える守備的ハーフコンビの機能性が素晴らしかった。もちろん前戦プレイヤーの守備参加も素晴らしかったけれど、兵藤慎剛と小椋祥平で組む守備的ハーフコンビの「優れたバランス感覚」には舌を巻いた。
特にキャプテン兵藤慎剛が展開した、攻守にわたる(ボールがないところでの)忠実なプレーは印象に残りましたよ。彼は、先制ゴールのシーンでも、最前線まで飛び出しして後方からのロングパスを受け、ゴールを決めた渡辺千真への見事なラスト落としパス(ポストプレー=アシスト)を決めたわけだけれど、とにかく、その「リンクマン機能」の実効レベルは、とても素晴らしかったですよ。もちろん、そんな兵藤の「リンク機能」を効果的にサポートしつづけた小椋祥平の忠実プレーも特筆モノだったわけだけれどネ。
そんな、マリノスの攻守にわたる組織プレーには、選手たちの「覚醒した意志」が込められていると感じました。
そんな意識の高さも、優れた心理マネージャーとしての木村浩吉監督のウデの証なのだけれど、そこに至るまでには、本当に様々な心理マネージメントプロセス(チームの闘う意志を高揚させるための様々な出来事!?)があったに違いない。私は、その一つが「山瀬功治」だと思っています。
木村浩吉監督の会見で、こんな質問があった。「山瀬功治は良いプレーをしたと思うが、彼に対する評価を聞かせて欲しい・・」
そうそう・・木村監督は、前にも、山瀬功治が、ちょっと個人プレーに偏り過ぎている(他の若手選手でも彼のパフォーマンスを十分に代替できる)と、当たり前のように交替させたことがあったっけ。
私は、その交代劇に、木村浩吉監督が(チームに対して!?)山瀬功治はアンチャッチャブルな絶対的主力プレイヤーではないということをデモンストレート(アピール)する意図「も」内包されていたと思っています。フムフム・・
質問した記者の方のバックグラウンドにも、「どうですか・・やはり山瀬は、マリノスに欠かせない絶対的な主力選手じゃありませんか?・・木村監督は、この試合での山瀬のパフォーマンスを観て、そのことを強く認識(再認識)しませんでしたか?」というニュアンスが込められていたと感じたのは私だけではなかったはずです。
その質問に対して木村監督は、こんなニュアンスのことを言っていた。
「まだ、彼のベストコンディションではないかもしれないが、責任感の強い男なので、試合に出たいという気持ちが強く伝わってきた・・前半に彼が挙げた2点目は大きかったし、彼の突破力がすごく大切だということも感じた。次の試合まで、さらにコンディションを上げてくれればと思っている・・もちろん、次は次で、どうなるか分からないけれどネ・・」
最後の最後まで、山瀬功治を、チームの緊張感を高みで維持する心理マネージメントを効果的に機能させるためのツールとして活用しようとする(メディアもうまく活用しようとする!?)木村浩吉監督なのですよ。なかなかのモノじゃありませんか・・
最後に、ヴィッセル神戸のカイオ・ジュニオール監督の会見内容で、ちょっと気になったポイントに触れておきます。
とにかく、この試合でのヴィッセル選手たちが、あまりにも「淡泊に過ぎる」プレーを展開した(闘う意志は最低レベル!?)ことは確かな事実。「そのこと」は、もちろんディフェンスに如実に現れてくる。
簡単にワンツーで置き去りにされてしまったり、簡単に背後スペースに入り込まれたり、ゴール前でのマークがイージーに外れてしまったり、次のマークへ急行せずに足を止めてしまったり・・
観ていて呆れるほど気力が感じられない(やる気が感じられない)プレー姿勢は、カイオ・ジュニオール監督にとっても、とてもショッキングな出来事だったはずです。
「技術面、戦術面より、まず精神面・・気持ちの面でテコ入れが必要だろう・・今シーズン、ACL出場という目標を掲げているが、そこに達するにはメンタルのレベルアップをしなくてはならない・・私は、色々な意味で、日本人の特性を学習しなければならないのかもしれない・・」
そんな発言をしたカイオ・ジュニオール監督。そりゃそうだよな、アチラでは、プロ選手たちの「過ぎた」自己主張を、組織プレー方向に調整(抑制)していくというのが、心理マネージメントの中心的テーマであるのに対し、日本では、選手たちに、本当の意味の自己主張をさせてかなければならないわけだからね。
自己主張・・。その骨子は、積極的に考えつづけ、責任感をもってリスクにもチャレンジしていく前向きなプレー姿勢のこと。もちろんそれには、攻守にわたる粘り強い汗かきプレーも含まれる。そう、マリノスが、抜群の心理パワーをバックボーンに、最後の最後まで繰り出しつづけたようにネ・・
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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