湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2009年4月18日、土曜日)

 

書きたいテーマがテンコ盛りの試合だった・・(レッズvsサンガ、1-0)

 

レビュー
 
 このところ、ヨーロッパチャンピオンズリーグの準々決勝にのめり込んでいたんですよ。何てったって、トーナメントのなかじゃ準々決勝がイチバン面白い。今年のUCLも例外じゃありませんでした。

 チェルシーとリバプールが展開した、攻守にわたる壮絶な仕掛け合い・・「美しさと勝負強さ」が世界最高峰のバランスを魅せつづけるバルセロナ・・セスク・ファブレガスの復調もあって、究極のダイナミックパスサッカーが甦りつつあるアーセナル・・そして、様々なサッカー要素が、素晴らしく(微妙に!?)バランスし「共存」する、勝負強いマンチェスター・ユナイテッド。イヤ・・ホントに、堪能しました。

 そんなだから、どうしても、レッズを、攻守にわたって(汗かきの)全力ダッシュを繰り返す『世界選抜チーム』の天才連中と比べてしまう。それじゃ、いくらレッズのサッカーが素晴らしい進歩を遂げつつあるとはいっても、アラばかりが目に付いちゃうのも道理じゃありませんか。

 ナンダ、どうして前のスペースへ全力スプリントで抜け出していかないんだ!・・そこは協力プレスへ全力ダッシュで馳せ参じなきゃダメだろう!・・あっ、ボオッとしているから相手の単純なワンツーに置いていかれてしまった・・ボールウォッチャーになるから、自分がマークしなければならない相手を見失っちゃうんだよ!・・などなど。

 数え上げたらきりがない。そして、ハッと気付くんですよ。あっと・・これはJリーグだったっけ。

 とにかくレッズは、素晴らしい進化を遂げていると思いますよ。山田暢久が、本当に楽しそうに攻守にわたって抜群のダイナミックプレーをつづけている・・エジミウソンが、最前線から全力スプリントでチェイス&チェックを仕掛けつづける・・そして「二人のスーパーキッズ」が、チームパフォーマンスのアップに大きく貢献するだけじゃなく、様々な意味合いを内包する「緊張感」までもかもし出す・・フムフム・・。

 フォルカー・フィンケも、エジミウソンについて、こんなニュアンスのコメントを残していた。「エジミウソンは、しっかりと守備をやっているから、前戦にスペースが出来てくるし、そのことで自分もスペースを使えるようになる・・たとえストライカーといえど、とにかくまず守備からゲームに入っていかなければならない・・(我々が標榜するサッカーでは!?)前戦からの守備が、ものすごく大事になってくる・・」

 シーズン前には、ボールなしのランニングトレーニング(持久力トレーニング)を繰り返したといいます。もちろんそれは、イヤになるくらい厳しいトレーニングだったに違いありません。

 そこでは、文句の一つも出るでしょうし、チームの雰囲気がネガティブなモノへ偏っていってしまう危険性が芽生えたことだってあったかもしれない。それでも、同時並行的に、選手に「ある確信」が芽生えてきたからこそ、その厳しいトレーニングに耐えることが出来たのだと思いますよ。そう、優れたサッカーへの渇望と、その実現に対する確信。

 サッカー人だったら誰でも、究極の目標である、美しさと勝負強さが最高レベルでバランスする優れたサッカーをやりたいと思っているものです。それこそが、サッカー人としての唯一のアイデンティティー(=誇り)だからネ。

 そして今のレッズでは、確信レベルが格段にアップしたからこそ、ハードワークを絶対的な基盤にした組織プレーが、明確な「善循環」に入り、それが進歩のプロセスのエネルギー源になっている。いや、ホントに素晴らしい。

 こんなに書いても、誉めすぎだと感じない。それほど、今のレッズのサッカーには「確信のエネルギー」が充満しているのですよ。

 ということで、ここからは、試合中にメモした多くのテーマを、ランダムにまとめることにしよう。では・・

 ・・この試合でのレッズは、決して一点を守り切ろうというのではなく、最後の最後まで2点目を取りにいったし、実際に、最低でも3-4回は絶対的チャンスを作り出していた・・とはいっても、そのチャンスを決められなかったというのも確かな事実・・

 ・・そこには永遠のテーマである決定力という魔物がいた・・フォルカー・フィンケは、集中力という表現を使ったけれど、基本的には、チャンスをゴールに結びつけるためにはメンタルな要素が大きいという理解だろう・・もちろん技術的、戦術的な部分もあるだろうけれど、やはり最後は「確信のパワー」こそが決定力をアップさせる・・フムフム・・

 ・・後半は、サンガに攻め込まれるシーンもあった・・そしてバー直撃シュートを浴びるなど、何度かピンチに陥る場面もあった・・ただレッズは、そんな悪い流れを、主体的に押し返していった(多くのケースで、心理的に守りにはいることでプレーが受け身で消極的になり、結局は心理的な悪魔のサイクルに陥ってしまう!)・・

 ・・彼らは、焦ってタテパスを出すのではなく(そんなパスでは、簡単にボールを失って攻め込まれるという悪循環を繰り返すのが常!)しっかりと落ち着いてボールをキープし、前戦のスペースを活用することで、再びペースを握り返すという「頼もしい」ゲーム運びも魅せた・・

 ・・わたしは、そんな、クレバーにゲームの流れを「コントロール」できたことこそが、この試合でもっとも特筆な「成功体感コンテンツ」だったと思っている・・たしかに何度かのピンチはあったけれど、一点のリードを「安定して確実に維持した」この試合ほど、選手に自信と確信を与えたことはなかったと思っているのですよ・・

 ・・二人のスーパーキッズについては、もうあまり書くことはないよね・・彼らの、攻守にわたる活躍は、皆さんが観られた通りです・・それにしても素晴らしかった・・

 ・・また「守備」も素晴らしく安定してきていると感じる・・フォルカー・フィンケは、トゥーリオ&坪井のセンターバックと、山田暢久と細貝萌で組んだサイドバックの機能性にフォーカスを当てたコメントしていた・・ただフォルカー・フィンケは、守備の安定性にとって、鈴木啓太と阿部勇樹で組む守備的ハーフが果たしている重要な意味合いを知らないはずがない(質問がなかったから答えなかったということだろう)・・

 基本的には、鈴木啓太が「アンカー・タイプ」で、阿部勇樹がリンクマン・タイプ・・この二人は、とてもうまく機能しつづけている・・

 ・・もちろん、守備の安定には、フォルカー・フィンケが言うように、チームの守備意識が高揚しつづけていることも大きく貢献している・・守備的ハーフコンビ(鈴木啓太と阿部勇樹)が展開する中盤ディフェンスに、もちろんスーパーキッズ山田直輝が、ポンテが、はたまた原口元気やエジミウソンが、どんどんと効果的に絡んでくるのですよ・・エッ、どうして元気があんなところにいるんだい?・・エッ、エジミウソンが、守備的ハーフを追い越してまで相手ボールホルダーをチェイスしていったゼ!・・などなど・・

 ・・いつも書いているように、そんなダイナミックな守備があるからこそ、次の攻撃でも(ボールがないところでの人の動きなど)ボールと人の動きが活性化しつづける・・そりゃ、観ていて楽しいことこの上ないはずだ・・

 ・・ところで細貝萌・・良かったですよ、本当に・・これで、アレックスとの競争が激化する?・・いいことじゃありませんか・・ちょっと平川忠亮が心配だけれど、あれほどの選手だから、すぐにでも競争にもどってくるでしょう・・またスーパーキッズ高橋峻希もいる・・

 まだまだテーマは山ほどあるけれど、今日はこんなところでお開きにしましょう。

 それにしても(天からの授かり物!?)山田直輝は、本当にいい。とにかく攻守にわたる「仕事の量と質」はチーム随一だよね。もちろんミスも多いけれど、そのほとんどは「チャレンジしたからこその前向きな失敗」ということだからね。特に、シュートへの意欲が素晴らしい。チームメイトが彼を捜してボールを預けるのも道理だよね(というか、常に忠実にパスを受けられるスペースに入りこんでいる)。

 山田直輝は、原口元気とともに、U20の日本代表合宿に呼ばれたとのこと。たぶん岡田武史監督も、彼らの積極的なプレー姿勢に舌を巻くことでしょう。彼らもまた、世界的な情報化(効果的なイメージトレーニング)からの恩恵を享受したということなんだろうね。彼らが日の丸を付けてプレーする日も近い!? フムフム・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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