湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第7節(2009年4月25日、土曜日)
- レッズの安定ディフェンス・・リスクチャレンジと本当のバランス感覚・・等・・(ジェフvsレッズ, 0-1)
- レビュー
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- 「攻撃的に守るというのがチームの守備コンセプトだ・・その原則をベースに、エジミウソンだって、最前線から全力でボールを追い掛けている・・彼の昨年までのプレーと比べたら、誰もが、その大きな違いに気付くだろう・・とにかく、だからこそ、次の攻撃でも、より多くのチャンスを作り出すことができるのだ・・」
うまく機能している守備について質問されたフォルカー・フィンケが、骨子として、そんなニュアンスのことを言っていた。
まさに、そういうことだね。この質問は、他のジャーナリストが投げかけたモノだったけれど、それがなければ、私も「守備が安定していると思うが、そのバックボーンは?・・何が良くなっているのか?」なんていうニュアンスの質問をしたと思う。
フォルカー・フィンケの返答で、もっとも大事なニュアンスだったのが「攻撃的な守備」という部分。要は(エジミウソンやポンテも積極的に最前線からチェイス&チェックを展開しているように)高い位置からボール奪取の勝負を「組織的に」仕掛けていくことで、チームの守備イメージ(=意志)が統一されているということです。
だからこそ、良いカタチで(数的に優位になりやすい状態で!)ボールを奪い返せるし、だからこそ(フォルカー・フィンケが言うような次の=ショートカウンター気味の!?=攻撃で)より多くのチャンスを作り出せるということです。
ただ私は、攻撃的な守備(積極的にボール奪取勝負を仕掛けていく姿勢)だけではなく、ディフェンス(ボール奪取プロセス)全体の機能性が非常に高いレベルで安定してきているということもテーマとして視野に入れている。
要は、いまのレッズ守備が、『美しさ』の源泉でもある攻撃的な守備だけではなく、『勝負強さ』のベース要素でもある安定したディフェンスブロックの機能性という「二つの側面」を、うまく臨機応変に使い分けているということです。
チーム全体が押し上げている状況(相手を押し込んでいる状況)では、嵩(カサ)に懸かって前からボール奪取勝負を仕掛けていくことでゲームを完全に掌握してしまう。ただ、相手が押し返し、全体的に下がらざるを得ない状況でも、非常に安定したディフェンスを展開できている(ウラのスペースを突かれることでピンチに陥ることがほとんどない等!)。
ここでは、攻撃的な守備というニュアンスではなく、全体的に非常に安定したディフェンスが展開できているというニュアンスをテーマにしようと思います。そのもっとも重要なファクターは、言わずと知れた「守備意識の高揚」。エジミウソンの、最前線からのチェイス&チェックが、その象徴ということですかネ。
要は、リーグ立ち上がり時期に、ちょっと守備が不安定な印象を残していたときと比べれば、選手一人ひとりの守備における「全力スプリント=意志の爆発」の量と質が、格段に向上しつづけているということです。
エジミウソン、ポンテ、田中達也、原口元気といった前戦の選手のアクティブな守備参加だけではなく、抜群の安定感を魅せ「はじめた」鈴木啓太と阿部勇樹の守備的ハーフコンビ。そして、これまた、サイドゾーンで、攻守にわたって抜群の「価値」を魅せつづける山田暢久と細貝萌。フムフム・・
これらの選手の守備での「意志」は継続的に発展しつづけているわけだけれど、そこで、別の視点から「ある一人の選手」をピックアップしてみることにする。そう、チームの守備意識(≒攻守にわたる汗かきプレーを実行していくことに対する強い意志!)を、際限なく向上させつづけるための「刺激ジェネレーター」。
そう、山田直輝・・
今日も、試合後のミックスゾーンで多くの記者に取り囲まれていた。誰もが、いまのレッズの好調さを引っ張っている「もっとも大事な選手の一人」が山田直輝だと理解しているのですよ。
その「かこみ取材」をちょっと聞きかじったけれど、山田直輝の受け答えはしっかりしているし、自覚レベルも非常に高いと感じた。やはり彼は(私が得ていた情報のように)優れたインテリジェンスやパーソナリティーを持ち合わせている(優れた資質の)若手プレイヤーらしい。
彼ならば、いくら注目されても(チヤホヤされても!?)変に舞い上がることはないと確信できますよ。山田直輝のしっかりとした態度を観察していて、ちょっとハッピーになっていた筆者でした。
謙虚さ(=学習能力)こそが、すべての発展のもっとも重要なリソース(源泉)だからね。家族の方々やユース時代の指導者の方々も含め、彼は、よい環境に恵まれていた(恵まれている)ということもあるんだろうね。またフォルカー・フィンケも、若手の選手について、こんなニュアンスのことを言っていた。
「若い選手(ここではもちろん原口元気と山田直輝!)は、しっかりと地に足をつけ、着実なプロセスで発展していかなければならない・・」
まさに、そういうことです。現場のトップが(ドイツという最高峰のフットボールネーションにおいて)若手育成プロセスに関する様々な体感を積み重ねた人物であることは大変な「価値」だよね。もちろんレッズも、そのあたりのことも含めてフォルカー・フィンケを招聘したんだろうしね。
ハナシは戻るけれど、レッズが展開している、抜群の実効レベルを魅せつづける「守備の有機的な連鎖」。山田直輝が、「刺激パルス」の発信者として、その機能性アップを促進する重要な担い手の一人になっていることは確かな事実だと思います。
そのことで、前戦だけではなく、守備的ハーフコンビや両サイドまでもが刺激され、攻守にわたって(ボールがないところでも)素晴らしくアクティブな全力プレー(意志が込められた全力スプリント)を繰り広げるのです。
誤解を避けるために、注釈的に付け加えるけれど、その発展プロセスでは、もちろんフォルカー・フィンケも最高の指導力を発揮したのだろうし、エジミウソンやポンテ、鈴木啓太や山田暢久、阿部勇樹、そしてもちろんトゥーリオといった主力(ベテラン)たちのインテリジェンスやパーソナリティー(意志のチカラ)も存在感を発揮したことでしょう。
それは、もちろんです。でも、山田直輝や原口元気といった若手の素晴らしいパフォーマンスが「そのプロセス」をより効果的に刺激し、活性化させたことも確かな事実だと思うのですよ。そう・・相乗効果。
そこでの「因果関係」については、選手個々に秘められた能力が、互いに刺激し合うことによって最大限の「コラボレーション・パワー」を発揮している・・としか表現できないけれど、まあ「だからこそ」、チームマネジャーとしてのフォルカー・フィンケのウデが効果的に発揮されているという結論に落ち着くわけです。フムフム・・
ところでジェフのアレックス・ミラー監督。彼「も」また良い仕事をしていると思いますよ。個のチカラの単純総計という「チーム総合力」ではリーグ上位とは言い難いジェフだけれど、記者会見でミラー監督が言っていたように、選手のプレーの質は着実に向上しているし、この試合でも、最後の最後まで全力で闘い通した。チームのモラル(心理パワー)は非常に高いレベルにあるのです。
とくに(彼らもまた)守備が素晴らしい機能性を魅せていたと思います。この試合での両チームのシュート総数は、たったの「12本」だったからね。それでも、決して消極的で受け身に守るというのではなく(両チームともに)あくまでも積極的にボールを奪い返しにいっていた。だからこそ、観ているこちらも、中盤でのボールをめぐるエキサイティングなせめぎ合いに舌鼓を打てた。
それでも、膠着していた前半も含め、シュートの量と質という視点では、やはりレッズに一日以上の長があった。シュート数もジェフの二倍だったし、チャンスの質でも、明らかにジェフを凌駕していたのです。
同じような戦術コンセプトをもつチーム同士の対戦では、最後は「個のチカラ(プレー姿勢)の差」がモノを言う・・。
ジェフの仕掛けプロセスだけれど、アレックス・ミラー監督も認めていたように、ジェフは、仕掛けプロセスに入ったら、もっと組織的なサポートが必要だね。例えば、巻誠一郎にボールが入ったら、3人目、4人目の、ボールがないところでのサポートの動き(パスレシーブやスペース活用のフリーランニング!)をもっと活性化させなければならないということです。
その視点では、やはりイビツァ・オシムさん当時のチームの方が優れていたとすることができるかもしれないネ。イビツァさんが指導していたときにジェフが魅せつづけた「最前線(決定的)スペースへの飛び出しアクションの量と質」は特筆のレベルにあったからね。それは、まさに真のリスクチャレンジと呼べるプレー姿勢でした。だからこそ、観る者すべてを魅了した。
ちょっと極端な例だけれど、本場のコーチの間では、こんな内容のことがよく話し合われます。
・・前にスペースがある・・そこへ入り込んでパスを受けられたら明らかにチャンスになる・・でも、そこへ押し上げていったら、その時点でマークしていた相手をフリーにしてしまう・・もし変なカタチでボールを奪われ、素早くその相手選手にパスが回されたら、確実にピンチになってしまう・・
・・前向きな(優れた!?)コーチは、もちろん、その選手に、前のスペースへ押し上げていくことを(強烈に!)要求する・・また、その選手が「それでは、オレがマークしていた相手がフリーになっちゃう」と二の足を踏んでも、そんな後ろ向きの心理を完全否定しながら、「いいから行け!」とモティベートする(ケツを蹴り上げる!?)・・
・・ただし、もし変なカタチでボールを奪われてフリーな的にパスを回されたら・・味方のバランサーが全力でカバーに向かうだけじゃなく、押し上げた選手も、素早くターンし(フィジカル的な苦しさに耐えながら!?)全力スプリントで戻ってこなければならない・・
・・そんなリスクチャレンジが頻繁に出てくるようになってはじめて(次の、体力的に苦しいバックアップ・カバーリングプレーが当たり前という雰囲気がチーム内に深く浸透してはじめて!!)チームがホンモノの発展へ向けて、一皮剥けるのだ・・
・・なんてネ。
とにかく、優れたサッカーを志向すれば、バランスが崩れるのは当然なのですよ。だからこそ、効率的にバランスを回復させるための「優れたバランス感覚」が必要になってくる。そして、チカラが互角のチーム同士の対戦では、ほとんどのケースで、その「バランス感覚」を、実効あるカタチでグラウンド上に表現するために「しっかりと走らなければならない」というわけです。
特に日本じゃ、「リスクにはチャレンジしなければならないけれど、蛮勇はできる限り避けよう・・」なんて言ったら、誰もリスクにチャレンジしていかなくなってしまうのがオチだからね。
またまた長くなってしまった。今日は、最後に「微妙なテーマ」を提議したけれど、このことについては(今までに何度も軽く触れたように)これからも、ケースバイケースで採りあげます。
例によって読み返しませんので、誤字、脱字(変な言い回しやテニオハのミス)のオンパレードでしょう。スミマセンね・・ご容赦アレ。かしこ・・
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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