湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2010年4月17日、土曜日)

 

ゲーム内容では完璧に京都サンガのモノだったネ・・(FCTvsP, 1-1)

 

レビュー
 
 「本当に残念だ・・勝ち点3を取れなくて悔しい・・」

 そんな加藤久監督の、記者会見でのリードインコメントに対して、こんな風に反応してみました。あっ・・手を挙げて質問しました・・。

 「加藤さんの悔しさは、本当によく分かる・・この試合は、完璧に、サンガが、FC東京を術中に陥れたという内容だった・・特筆は、何といっても、サンガが展開したクリエイティブで忠実なディフェンス・・われわれ評価者は、ボールがないところでの選手のアクションを観察するわけだが、あれほど人数が揃っている(多い!)にも関わらず、ボールがないところでボールウォッチャーになったり、マークすべき選手の動きに付いていかなかったり(相手を無責任に行かせてしまったり)といった集中切れの体たらくプレーは、まったくといっていいほど見られなかった・・」

 また質問が長くなりそうだけれど、それも、監督から内容の濃いコメントを引き出すため(彼らに話す機会を提供するという意味合いもあるんですよ!)というわけだから、(他のジャーナリストの方々も含めて!?)ご容赦アレ。

 「・・とにかく、サンガ選手の守備意識の高さと、主体的に考え、決断してアクションする優れた意志に感服した・・加藤久監督だけじゃなく、秋田豊コーチも(日本を代表するレベルの)ディフェンダーだったわけだが、サンガが優れた守備パフォーマンスを発揮できていることには、お二人の功績も大きいと思われるが・・」

 「いや・・私と秋田だけじゃなく、森岡(隆三)もいますよ(場内・・笑)・・まあ、たしかに、そのことは大きいですよね・・三人が手分けして細かなアドバイスを積み重ねるんですから・・もちろんコーチング(アドヴァイス)の内容については、我々のなかで統一されたコンセプトが底流あります・・とはいっても、このレベルに至るまでには紆余曲折もあった・・要は、新しい選手との、イメージ的な整合性を、いかに高めていくのかというテーマ・・例えば、ブラジルから補強したデフェンダーのチエゴ選手・・彼は、どうしてもブラジル式のイメージで守備をやる・・だから、周りのチームメイトとのコンビネーションが合わない・・それは今でも大きな課題だ・・」

 「・・ただ、観られた通り、全体的な守備パフォーマンスは(組織的なディフェンスプレーの機能性は)よくなっていると思う・・もちろん我々コーチングスタッフは、守備だけをコーチしているわけではない・・守備での内容のアップは、確実に次の良い攻撃のベースになるはず・・その仕掛けイメージの質をアップさせることにも、全力を傾注しているところだ・・」

 加藤久監督のコメントを「ニュアンス的にまとめ」ましたが、それは、わたしの質問に輪をかけて長いものでした。もちろん、前述したように、監督さんに、クリエイティブな発言の機会を提供するために「も」質問したわけだから・・いいのですが・・あははっ・・

 加藤久監督は、先日のヨーロッパ・チャンピオンズリーグ、アーセナル対バルセロナの試合についても、こんなニュアンスのハナシをしていた。

 「バルセロナは本当に素晴らしいプレーを展開している・・その、もっとも重要なバックボーンは、素晴らしい組織守備(守備意識≒意志のチカラ)にあると思う・・それが充実しているからこそゲームを支配できるし、とても危険な(次の)攻撃も仕掛けていける・・私は、そのゲームを時間を掛けて編集し、選手にジックリとみせた・・たぶん、そんなイメージトレーニングも、何らかのカタチで、守備パフォーマンスの向上に貢献していると思う・・」

 そう・・いまのバルセロナは、グアルディオラ監督が言うように、彼らの歴史のなかでも最高レベルのサッカーを展開していると思う。優れた守備意識・・天才たちが繰り出すスーパーな組織プレー(コンビネーション)によるスペースの攻略・・そして、だからこそ最高の効果レベルを発揮する個人勝負(天才たちの饗宴!)・・

 わたしの新刊、『サッカー戦術の仕組み(池田書店)』でも、バルセロナが魅せた『5秒間のドラマ』を多数採りあげた。素晴らしく機能しつづける、「組織」と「個」が最高にバランスした「トータルフットボール」・・!? もちろん、トータルフットボールは、到達できない(追い求めつづけなければならない!)理想型だから、いまのバルサは、世界中に、そこへ向かう正しいベクトルを示唆している・・っちゅうニュアンスだけれどネ・・。

 ということで、このゲームは、前半の早い段階でワンチャンスをモノにした京都サンガが、まさに、彼らの「イメージどおり」のサッカーで、完璧な勝利を収める・・はずだった。でも、実際は・・。

 「たしかに後半の東京は、城福浩監督がおっしゃるように少しは盛り返した・・でも実際は、京都守備ブロックを本当の意味で攻略したとは言えなかったと思う・・一度だけ、長友佑都がタテに突破したシーンがあったが、実際は、それくらいだったのかもしれない・・それほど、この試合でサンガが魅せたディフェンスは強力だった・・とにかく、ボールがないところで、あれだけ忠実でクリエイティブな守備を展開されては、そうそう簡単には崩せないだろう・・そんな八方ふさがりだったからこそ、後方からのアーリークロスとか、長距離シュートをドカ〜ンとお見舞いするとか、もっとアバウトに仕掛けの変化を演出するのが正解だったと思うが・・」

 そんな私の質問に対して、まず城福浩監督は、「長友佑都がタテへ突破したシーンだけじゃなく、石川直宏がオーバーヘッドでシュートを狙ったシーンも決定的でしたよね・・」と、わたしの指摘にクレームをつけてからコメントをつづけてくれた。いいね・・グッド・パーソナリティー。ここでも、城福浩監督の発言を、ニュアンス的にまとめますよ。

 「わたしは、そんなドカ〜ンという仕掛けのことを、ダイナミックな勝負プレーと表現するのですが、もちろんそれも大事です・・ただ、実際にそれを実行するだけではなく、それを繰り出すと匂わせるだけで、相手を(その意識とイメージを)翻弄することもできるはずです・・ロングシュートと見せ掛け、相手のポジショニングがそれに対応したら、逆にワンツーコンビネーションで抜け出していくとか・・もちろん、我々も、そのようなダイナミックな勝負プレーもイメージしていますよ・・ただし、効果を最大限にすることを目標に、実際にドカ〜ンという仕掛けを繰り出していったり、それと見せ掛けたりと、そんな変化が効果的だとも思っているわけです・・我々も、それらを、コントロールされたカタチで(余裕をもって)繰り出していけるように精進するつもりです・・」

 フムフム・・。城福浩監督は、わたしの、ちょっと挑発的な質問にも、いつものように、真摯に対応してくれました。でもサ・・この試合でのFC東京の攻撃は、昨シーズンのヨーロッパ・チャンピオンズリーグ準決勝、(ヒディングが率いていた!)チェルシー対バルセロナ戦で、敗北を現実のモノとして意識しはじめていたバルセロナのように、まさに、小さく抑え込まれてしまっていた。

 この「サッカー的な現象」については、物理的なモノだけじゃなく、心理的なバックボーンも含めて、様々なパターンがあるわけだけれど、一度、そんなゲーム内容をまとめて分析してみたいね。決して「アンチ・フットボール」などではなく、 とても興味深いテーマを発見できると思うよ。どなたか、私と組んで、その現象を掘り下げてみませんか?・・なんてネ・・あははっ・・

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 ところで、三年ぶりに新刊を上梓しました。4月14日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定したらしい。フムフム・・。タイトルは『サッカー戦術の仕組み』。池田書店です。この新刊については「こちら」をご参照ください。

 



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