湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2010年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第10節(2010年5月5日、水曜日)
- スゲ〜長いコラムになってしまった・・(RvsGR, 2-1)
- レビュー
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- 「グランパスは、リードを奪った後、前回のレッズとの対戦でもそうだったし、昨シーズンもそうだったですけれど、このゲームのように布陣を変えることが多いですよね・・」
講談社の矢野透さんが、そんな情報をくれた。ナルホド・・。アレックスのアーリークロスから、ケネディーのヘディングシュートが炸裂した先制ゴールの後、グランパスが、素早く守備ブロックを固めたのですよ。
わたしは数字の羅列で戦術を語るのは邪道だと思っているので・・。まあ、最終ラインを「スリーバック気味」に変え、アレックスを左サイドハーフに出した。もちろんブルザノビッチは下がって守備的ハーフのポジションに入る・・などなど。
そして、この「チーム戦術的な変更」が、殊の外うまく機能するのです。一点を追うレッズは、必死に攻め上がろうとはするけれど、どうしてもグランパス守備ブロックに、効果的に「仕掛けの芽」を摘み取られてしまう。そこでは、中盤の王様ポンテも含めて、ミスパスが目立つこと・・。もちろん「その現象」は、グランパスの守備がうまく機能していたからに他なりません。
グラウンド上の現象は、つねに「表裏の関係」にあるっちゅうわけです。ということで前半のグランパスは、完璧に「ウイニング・ベクトル」上を突き進んでいた。でも・・
「そのこと」は、フォルカー・フィンケも、こんな風に表現していた。「・・たしかに前半はグランパスにゲームを支配されるという流れの方が強かった・・ただ最後の15分間では、我々も、より良いチャンスを作り出せるようになった・・と思う・・」
そう・・徐々にではあったけれど、レッズの攻撃にも、勢いが乗りはじめたと感じられるようになっていったのです。もちろん「その現象」のバックボーンは、組織コンビネーションの絶対的ベースである「ボールがないところでの動き」の量と質がアップしたからに他なりません。
まあ、たしかに、エジミウソンやポンテの個人勝負が、うまく「ハマル」ようになったとか、相手とのヘディングの競り合いでアタマを強く打った田中達也と交代した原口元気が、ディフェンスに元気に絡みつづけ、攻撃では、組織プレーの効果的な歯車として機能するだけじゃなく、しっかりとドリブル勝負に「も」チャレンジしていったというバックボーンもあったけれどネ(田中達也の攻守にわたるパフォーマンスは例によって素晴らしかったから、途中で交代せざるを得なかったことはとても残念だったけれど・・)。
たしかに、そんな個人的な要因はあったけれど、レッズのサッカーが良くなっていったという現象の基本的なメカニズムは、やっぱり、ボールがないところでのアクションの量と質がアップしたことによって組織コンビネーションの機能性が高揚していったという事実でしょう。
ハーフタイムに、戦術的な(イメージの)修正を加えたことで、流れがとても良くなった・・なんて、フォルカー・フィンケが言っていたけれど、まあ、それにしても、ココゾの最終勝負シチュエーションに対して、いかに「効率よく必要な人数をつぎこむのか・・」というテーマに関する具体的な指示だったと思う。
たしかに前半のレッズは「寸詰まり」だったけれど(特に、立ち上がりの10分間くらいは、攻守にわたって、ミゼラブル=惨めなほど不出来=だった)、でもそんな悪い流れも、もう何度も言及しているように、前半の終わりの時間帯あたりから、徐々に好転していった(自分たちが主体になって改善させられたことが大きい!?)。
前節のエスパルス戦(そのレポートは、こちら)も含め、レッズの組織的(ボールオリエンテッドな!?)サッカーは、とても良くなっていると思いますよ。これから(ワールドカップ期間中も含め)継続的にサッカーの質がアップしていくに違いない。
ケガ人も戻ってくるだろうし、サヌやスピラノビッチといった新加入の外国人選手にしても、このままじゃ引き下がれないだろうからネ。チームの中に、健全な「競争(心理)環境」が出来上がると思うわけです。もちろん、フォルカー・フィンケという「ストロングハンド」による心理マネージメントが、うまく機能すればのハナシだけれど・・
ここからは「個別テーマ」に言及していこうと思います。まず「天才ヤマダ(暢久)」。
この試合でも、全体的には、とても素敵なパフォーマンスを魅せてくれた。わたしは彼のことを「天才ヤマダ」と呼ぶけれど、今でも、その称号に相応しいプレーコンテンツを魅せつづけていると思うわけです・・エット、全体的には・・ネ。でも・・
立ち上がりの8分あたりだったっけ、余裕をもってボールをキープしていた(はずの)山田暢久が、左前方にいた阿部勇樹へ、展開パスを送ったシーン。
あまりにも余裕があり過ぎたんだろうね、また彼のプレーぶりにも、タテパスは出さない・・といった雰囲気があった。だから、グランパスの小川佳純が、スッと寄せることで、阿部勇樹へのパスをインターセプトしてしまえたのも道理というシーンだった。
まあ、小川佳純がシュートをミスってくれたから事なきを得たけれど、その後にも、キープしているボールを、安易なボールコントロールしたことでケネディにかっさらわれるという体たらくシーンもあった。
セットプレーでは、ケネディをマークした天才ヤマダ。とても力強く、そして上手く機能した。でも、流れのなかで、ケネディの一発ヘッドにやられてしまった。
前半12分のグランパス先制ゴールシーン。そこで、右サイドからアーリークロスを入れたのはアレックス。そのクロスに、山田のアクションが、ほんの一瞬遅れた(ほんの一瞬ボールウォッチャーになってしまった!?)。そしてタイミングよく助走をつけてジャンプしたケネディが(山田暢久のアタマの位置よりも)30センチは高いところで爆発ヘッドをブチかましたという次第。
山田暢久について言いたかったことは、どうも、まだまだ「一瞬の気抜けプレー」という悪い癖が抜けていないということ。最終勝負シーンでのマーキングでも、一瞬のボールウォッチングで相手に「行かれて」しまったりするシーンも、まだある(そうそう・・そのテーマじゃ、阿部勇樹もイメージトレーニングが必要かもネ・・)。まあ「あのミスパス」や「ミスコントロール」は何をか言わんやだけれど、とにかく「天才ヤマダ」には、様々なイメージトレーニングを駆使することで、絶対に集中を切らさないという「意志パワー」のアップを望みたいね。
次の個別テーマが「ロブソン・ポンテ」。彼に対する評価は、本当に日替わりだよね。とはいっても、このところのパフォーマンスは、とても高いレベルで安定しているという印象が強かった。でも・・
このゲームの前半に彼がみせたプレーは、とても悪かった。まさにミゼラブル=惨めなほどの不出来=。もちろんグランパス守備が、パワフル&スピーディーに、忠実な「イメージ連鎖の組織ディフェンス」を展開していたということもある。
ポンテは、チームが、強力なグランパス守備によって悪い流れに落とし込められていたのだから、もっとシンプルにプレーすべきだった。でも彼は、いつものようなリズムでボールをキープし、プレッシャーをかけてくる相手の逆モーションをカットしてフリーになり、そこから自分がコアになったコンビネーションや勝負ドリブルを仕掛けていく・・なんていうイメージに凝り固まっていた。
それじゃ、効果的な仕掛けを演出できるはずがない。そして、簡単にボールを失ってしまうことがつづいたことで、ポンテ自身も、周りの味方も、足が止まり気味になっていった。
サッカーは相対ゲームだからネ。「あの時間帯」は、もう完全にグランパスのものだったんだよ。だからレッズは、辛抱強く「耐えなければ」ならなかった。にもかかわらず、いつものイメージで仕掛けていき、いつもより「簡単」にボールを失ってしまうという悪い流れがつづいたことで、擬似の、心理的な悪魔のサイクルに陥ったということなのかもしれない。
まあ・・だからこそ、前半の終わりの時間帯に(グランパス守備の勢いが落ち着いてきたこともあって!!)攻撃の勢いをアップさせられたことは、レッズ選手が主体になったペースアップなど、とても大事なファクターがあったと思うわけです。フムフム・・
あっと・・ポンテがテーマだった・・。そのように、前半は悪いプレーばかりが目立っていたポンテだったけれど、それが、後半になってガラリと変身してしまうのですよ。もちろんそれには、レッズが、後半2分に同点ゴールを決めたということもある。それで、グランパス守備が、再び「開き」はじめた・・そのことで、ポンテに対するプレッシャーも、少し緩くなり、彼が最高のパフォーマンスを魅せつづけた・・ということです。
それにしても、ポンテがみせた、パフォーマンスの「ダウン&アップ」は、いったい何だったんだろうか。調子の善し悪しといった単純なモノじゃなかった・・ような印象が残った。さて・・
ちょっと長くなったから、ここらあたりで締めましょう。
最後の個別テーマは、何といっても柏木陽介。攻守にわたって、とても献身的なプレーで観る者に感動を与えてくれる。それも、ほぼ例外なくだから素晴らしい。「彼は、本当に素晴らしい組織プレイヤーだ・・」。そんなフォルカー・フィンケの言葉を待つまでもなく、柏木陽介は、既に埼スタに深く根を張ったレピュテーション(名声)を築き上げたと思う。
こんなシーンがあった。前から協力プレスを仕掛けていく細貝萌と阿部勇樹、そして宇賀神友弥が、不運なイレギュラーバウンドで(グランパスのカウンターの流れから)置き去りになってしまったシチュエーション。
でも、そこで柏木陽介が「爆発」した。前戦から、脇目も振らずに全力ダッシュで相手ドリブラーをチェイスし(彼は、足が遅いけれど、全力でダッシュすれば多くのケースで追い付けることをよく知っている!)そのスピードをダウンさせてしまっただけではなく、タイミングの良いアタックでボールを奪い返してしまった。感動した。素晴らしい!!
あっ・・テーマがもう一つあった。サッカーをするには最悪の、蒸し暑い夏の気候・・。そんな厳しい気候条件で成功するためのキーポイントは??
ピクシーは、「インテリジェンスを尽くし、しっかりとボールを走らせることだ・・人が走るのではなくボールを走らせるのだ・・そんな発想を、選手たち自身が工夫しながら高めていく・・それこそがインテリジェンスだ・・」と言う。フムフム・・。それに対してフォルカー・フィンケは・・
「たしかに、この気候で高い運動量を維持するのは大変な作業だ・・特に、攻め上がっているときにボールを失い、すぐにとって返して全力で相手を追いかけるというシチュエーションでは、オレも経験があるけれど、本当に強い意志が求められる・・それは信じられないくらい大変な作業だ・・そんな意志を高揚させるために、常に心理的にもトレーニングを積まなければならない・・」
そこで言葉を切ったフォルカー・フィンケがつづける。「ただ、もし選手たちが、プレーすることを十分に楽しめていたとしたら・・そこで、プレーする悦びを見いだせていたとしたら・・どんなに厳しい気候条件であっても、運動量を高みで安定させることは、そんなに苦にならないはずだ・・」
まさに、そういうことだよね。サッカーは、ホンモノの心理ゲームだからネ。フォルカー・フィンケは、レッズ選手たちが、彼のサッカーコンセプトを理解し、それを達成しようと意欲的に取り組みはじめていること、そしてだからこそ、プレーする(ホンモノの)悦びを感じていることを確信しているということなんだろうね。
たしかに、この試合の後半では、レッズの運動量が、明確にグランパスのそれを凌いでいた。
フォルカー・フィンケは、試合の終盤には、阿部勇樹と細貝萌に対して、「あまり飛び出していかずに、少し後方でゲームを落ち着かせるように・・」という指示を何度も飛ばしたそうな。でも二人は・・。ただ、次の守備では(ほとんどのケースで)しっかりと戻れていた。フムフム・・
今日は、こんなところですが、スゲ〜〜長くなってしまった。例によって読み返さないからね。誤字、脱字、おかしな「てにおは」・・などなど、まあ、面白がって肴にしてください。
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ところで、三年ぶりに新刊を上梓しました。4月14日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定したらしい。フムフム・・。タイトルは『サッカー戦術の仕組み』。池田書店です。この新刊については「こちら」をご参照ください。
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