湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2010年5月15日、土曜日)

 

FC東京の厳しい道程はつづく・・そしてエスパルスの勝負強さ・・(FCTvsSP, 2-2)

 

レビュー
 
 「誰が、どのような評価をしようと、我々は、自分たちが目指す目標イメージへ向かって、しっかりと歩み、発展をつづけていると思っている・・この試合では、最後の時間帯、我々が押し込みつづけたことでエスパルスの足を止めたわけだが、それにしても、前半から通した我々のサッカーが、そのようなゲーム展開を呼び込んだと思っている・・」

 FC東京、城福浩監督が、そう胸を張っていました。フムフム・・

 たしかにFC東京は、ゲームを支配しつづけた。要は、ポゼッションでは上回っていたということです。でも、実質的なチャンスメイクでは・・

 どうだろうか・・たしかに前半には、平山の「振り向きざまの惜しいシュート」はあったけれど、本当の意味でのビッグチャンスは、後半20分あたりに飛び出した赤嶺真吾のフリーヘディングシュートが、この試合で最初の「チャンスらしいチャンス」だったのではないですかね。

 そのとき、誰もが確信し、息を呑んだ。FC東京の同点ゴールだっ!! でもブチかまされたヘディングシュートは、勢いよく、左ポスト際を外れていった。誰もが、エ〜〜ッ・・あり得ない・・と、目を疑った。でもそれは現実の出来事だった。

 赤嶺真吾は、そのシーンを、何度も、何度もビデオで見返すことで、悔しさと、鳥肌が立つほどの恥ずかしさをアタマに叩き込まなければなりません。

 もちろん、そのシーンを反芻することなく、とにかく「早く忘れちゃえっ!」・・というやり方もあるんだろうけれど、私が(経験ベースで)考えるところ、そんな態度が、進歩のためにポジティブに作用することは皆無だと思います。要は、本当の意味の発展(効果的な学習プロセス)は、人間心理のダークサイドパワーによってのみ「加速」させられるということです。

 その時点までにFC東京が「積み重ねた」サッカーコンテンツを考えれば、その千載一遇のビッグチャンスが、どれほど大きな意味合いを内包していたか分からない。チームにとって、それほど重要なシーンだったのです。だからこそ、赤嶺真吾だけではなく、チームメイト全員が、その瞬間の「鳥肌が立つほどの感覚」を、深くシェアすべきなのです。そして、そんな真摯な姿勢をベースにするからこそ、ホンモノの発展の歩みをつづけることができる・・。

 フットボールネーションの現場では、よく、こんなニュアンスの表現が使われる。サッカーの進歩は、ほんの小さなコトを(真摯に)積み重ねてくことで加速させられる・・。逆から言えば、その「ホンの小さなコト」に気付かなければ、まあ、「そのレベル」に留まってしまうということです。

 FC東京の攻めだけれど、彼らは、まだまだカボレの「穴」を埋め切れていません。そのこともあって、彼らの攻めは、(城福浩監督曰く)ペナルティーの角エリアまでは行くけれど、そこからの最終勝負(チャンスメイク)がままならない・・。

 この試合でも、エスパルス守備ブロックが、人数を掛けて組織固めしてきたこともあって、最終勝負プロセスをうまく繰り出していけずに、どうしても最後のところではね返されてしまう。それでも諦めず、針の穴ほどのチャンスを求めて繰り返しチャレンジしつづけるFC東京。

 だからこそ、唐突に赤嶺真吾に回ってきた「千載一遇のチャンス」には、とても重要なニュアンスが内包されていたのですよ。でも結局は・・

 たしかに勝負は、FC東京のロベカル、長友佑都が、まさに「ロベカル的」なキャノンシュートを決め(2-1となる追いかけゴール!)、その二分後には、松下年宏が、ある意味「偶発」のラッキー(同点)ゴールを決めたことで引き分けた。でも、FC東京が、まだまだ、チャンスメイクのプロセスをうまく演出できていないという課題を引きずっていることも確かな事実だった。

 そんなFC東京に対し、エスパルスは、素晴らしいセンターバック、オーストラリア代表のボスナーを中心にした堅牢なディフェンスブロックを絶対的なベースに、個人の才能という武器を駆使し、様々なタイプの最終勝負を効果的に繰り出していくのですよ。

 ヨンセンのポストプレーと高さ・・岡崎慎司の爆発フリーランニング(その決定的な動きのイメージを、チーム全体がシェアしていることが大きい=有機的なイメージ連鎖ベースの最終勝負!)と、例によっての粘りのゴール嗅覚・・小野伸二のキープ力とパス出し能力(彼がボールを持ったら、何人もの味方がオーバーラップしていく!!)、ミドルシュート力、セットプレーでの正確なラストパス(それらは、忠実な汗かきディフェンスをやらないというマイナス面を補って余りある!?)・・藤本のスピーディーな個人勝負・・などなど。

 もちろんFC東京にも、石川直宏はいるけれど、相手ディフェンスにとっては、平山相太を潰すことも含め、ボール奪取のターゲットを絞り込みやすい(サイドゾーン潰しなどのゲーム戦術を立てやすい)からね・・。とにかくシーズン立ち上がりのFC東京は、カボレを中東に奪われただけではなく、米本拓司、梶山陽平というチームの重心コンビ、はたまた(その頃は)石川直宏までもケガで欠いていた。

 そんな事情を鑑(かんが)みるまでもなく、本当に城福浩監督は優れた仕事をしていると思いますよ。でも、いかんせん、攻撃の変化を演出できるような「個のチカラ」を欠いている・・。

 スペースを攻略していくという攻撃の絶対的ベースは、何といっても「組織プレーと個人勝負プレーの優れたバランス」ですよね。たしかに組織プレーでは優れているFC東京だけれど、攻撃の「もう一つの核」である「個人の能力」が効果レベルに至っていないのだから・・。

 城福浩監督が、限られた個の才能を駆使して、どこまでチーム総合力をアップさせられるか・・。その一番のキーワードは、もちろん、攻守にわたる、ボールがないところでの動きの量と質のアップだよね。とても魅力的な学習テーマじゃありませんか。

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 ところで、三年ぶりに新刊を上梓しました。4月14日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定したらしい。フムフム・・。タイトルは『サッカー戦術の仕組み』。岡田ジャパンの楽しみ方・・という視点でも面白いかもしれません・・たぶん。池田書店です。この新刊については「こちら」をご参照ください。

 



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