湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2011年4月29日、金曜日)

 

内容ではマリノスに軍配が上がるけれど・・(MvsSP, 1-1)

 

レビュー
 
 「前節のアントラーズ戦は、必然的に守りに入らざるを得なかったということでしょうが、このエスパルス戦では、とてもハイレベルな攻撃サッカーを展開した・・わたしは、内容的には、完全にマリノスのモノだったと思っています・・ということは、アントラーズは、それほど強いということなんですかネ・・??」

 マリノス木村和司監督に、そんな質問をぶつけてみた。アントラーズ戦では守りが主体になった(相手に押し込まれてしまった!?)のに、このエスパルス戦では、チーム全体が活発に攻め上がっていたというグラウンド上の現象のバックボーンについて、カズシ監督の意見が聞きたかったというわけです。

 「いや・・決して我々はエスパルスをレスペクトしていない(エスパルスを甘く見ている)というわけじゃない・・ただ、アントラーズ戦では四本のシュートしか打てなかったということが、選手の心の重荷になっていたんですよ・・要は(結果が出たにもかかわらず!)悔しかったわけだけれど、その思いを、この試合にぶつけたということでしょう・・まあ、アントラーズ戦については、守るときは、しっかりと守り切れるという自信を得たという大きなプラスはあったと思っています・・」

 私の質問に、例によってニヤッと微笑んでから、木村和司監督が、そんなニュアンスのコメントをくれた。

 要は・・サ、相手が強いと(その感覚で試合に臨んだ場合)、やはり心理・精神的に「注意深く」なる・・それに対して、自分たちの方が格上という意識がある場合、攻守にわたって、より「フッ切れたプレー」が展開できる・・っちゅうことが言いたかった筆者なのですよ。

 偶発的に、マリノスのゲームを2節つづけて観察できたから、そんな「視点」を再認識することが出来た。やはりサッカーは、究極の「心理(ボール)ゲーム」なんだよ。

 そこで、ハタと考えた。もしマリノスが、前節のアントラーズ戦で、ガンガンと前へ仕掛けていったら(高い位置での積極的なボール奪取勝負=プレッシング=を仕掛けるようなフッ切れた攻撃サッカーをやったら)、どうなっていただろうか。

 「あの」アントラーズとの、オープンなガチンコ勝負。それは・・サ、そんな展開だったら、アントラーズに一日の長があったに違いないとするのが妥当な見方だろうけれど、そこはサッカーだからネ、そんな「常軌を逸したマリノスの勢い」に、アントラーズ選手たちが萎縮し、完全にマリノスに凌駕されてしまったかもしれないよね。

 最後は「自由にプレー」せざるを得ないサッカーでは、いかに相手を「勘違いさせるのか・・」というのも、とても重要な(心理的な)ゲーム戦術的テーマなんだよ。あははっ・・

 まあ、そこら辺のテーマはここまでにして、内容的に(ゲーム支配状態でも・・実際のチャンスの量と質でも・・)マリノスが優っていたゲームから抽出した個別テーマにうつりましょう。

 今日ピックアップするのは、個人。まず中村俊輔。そして谷口博之。たしかに、渡辺千真や小野裕二、兵藤慎剛や小椋祥平も素晴らしかったけれど(また最終守備ラインも!)、でも今日は、俊輔と谷口にスポットライトを当てます。悪しからず。

 ということで中村俊輔。久しぶりに彼の「実効ある天賦の才」に舌鼓を打った。

 ・・豊富な運動量・・ 攻守にわたるハイレベルな実効プレー・・ディフェンスにしても、決して「アリバイ」ではなく、汗かきだって出来る・・だからチームメイトから信頼される・・だからボールが彼のところに集まるし、そこから(俊輔を中心に!)次の展開としての人とボールの動きがスタートしていく・・素晴らしく魅力的なゲーム&チャンスメイクの連続・・フ〜〜ッ(溜息だよ)・・

 ・・そんなポジティブな流れのなかで、タメを演出したり、ココゾッ!の勝負所では、魅惑的なフェイントから相手を置き去りにして決定的パス&クロスを供給したり・・目を見張るサイドチェンジパスや(相手にとって危険な)ロングパスを送り込んだり・・たまには、ワンツースリーなんていう、流れるようなコンビネーションをリードしたり・・この試合では、全力スプリントでカウンターの流れに追い付き、決定的シュートを放ったシーンもあった(ありゃ、ホントに残念な決定機だった)・・

 ・・そして、何といっても、彼のキックが素晴らしい・・フリーキックやコーナーキックは、彼が蹴ったら、そのすべてが決定的チャンスになるとまで感じる・・

 ・・要は、受ける方(シュートする方)も、俊輔のボールに対して明確なイメージをもてているということだね・・だから、クロスボールなどに、確信をもって走り込んで合わせられる・・それも、これも、中村俊輔のキックが正確無比であり、相手にとって危険なカーブを描く弾道イメージが、チーム内で明確に共有されていることも特筆ポイント・・

 そして谷口博之。彼もまた、中村俊輔のパス供給能力に対して絶大な信頼を置いているよね。だからこそ、ココゾッ!の勝負所では、まさに脇目も振らず、味方の最前線プレイヤーまでも追い越して決定的スペースへ抜け出していく。

 ゲーム全体を通して何回あっただろうか、谷口博之が、エスパルス最終ラインの裏スペースに走り込み、そこで(主に俊輔から!)決定的ロングパスを受けたシーンが・・。また、カウンターの流れに乗り、最後は左サイドで、まったくフリーでボールを持つという決定的シーンもあったね。

 谷口博之は、攻撃で目立っていたけれど、彼のプレーの絶対的ベースは、もちろん、中盤での汗かきディフェンスだよ。コンビを組むのは、これまたタイミングの良い(決定的な)オーバーラップを何度か魅せた小椋祥平。とても効果的な守備コンビネーションだった。

 最後に、エスパルスの新任「アフシン・ゴトビ」監督。ものすごくポジティブなパーソナリティーじゃありませんか。記者会見での彼の表現力からは、深〜いインテリジェンスも感じていた。

 たしかに、レッズのゼリコ・ペトロヴィッチと同様に、(オランダ的な!?・・ホントか〜??)前戦の三人のポジションを「固定」する傾向はあるけれど、それでも、バランスの取れた「自由度」は与えている(必要に応じて自由にプレーするように選手たちをモティベートしている)と感じる。

 東北大震災直前に行われた「Jの第1節」、アウェーのレイソル戦のサッカーは本当に良くなった(3-0で大敗・・三倍のシュートもブチかまされた!)。でも、その後の一ヶ月半で、徐々にサッカーの内容が好転していると感じる。監督の確かなウデを感じる・・!?

 まあ、そんな印象を持つのも、アフシン・ゴトビ監督の、インテリジェンスとグッドパーソナリティーあふれる会見が、あまりに素晴らしかったからかもしれないな〜〜。とにかく「あの」監督に率いられたエスパルスに、かなり興味を惹かれはじめた筆者だったのであ〜る。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。