湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2011年4月29日、金曜日)

 

優れたサッカーには、明確な「目的や悦び」に支えられた「強烈な意志」が必要・・(VEvsR, 1-0)

 

レビュー
 
 いま、ビデオを見終わりました。そして、深〜い溜息が・・。

 その溜息の背景には、ベガルタの(手倉森監督の)ゲームプランがうまく機能していたことで、前節グランパス戦のような必殺(ショート)カウンターが機能しなかっただけではなく(カウンターを仕掛けていけるような状況を演出する準備すらままならなかった!?)、組み立て攻撃でも、ベガルタ守備ブロックを振り回すことでバランスを崩し、彼らのウラに広がる決定的スペースを突いていくといった高質なチャンスメイクの流れが、ほとんど見られなかったという事実がありました。

 とにかく、ゴリ押しのドリブル勝負とか、強引なミドルシュートや放り込み(クロス)ばかり。そこには、スマートなコンビネーションで崩していく・・なんていう雰囲気は、まったく感じられなかった。これじゃ、選手たちにもフラストレーションが溜まっているはずだけれど・・

 今シーズンのレッズについて、これまで書きつづけていることだけれど、どうも、選手たちの「基本ポジショニング」に対するイメージが硬直化しているように感じるのですよ。だから、素早く広い「人とボールの動き」をベースに、人数を掛けてウラスペースを攻略していくようなコンビネーションをブチかましていく・・なんていう雰囲気が感じられない。そして、出てくるのは個人勝負ばかり。フ〜〜・・

 ・・攻撃の目的は「シュートを打つこと」・・ゴールは結果にしか過ぎない・・。でも、シュートを打つためには、相手と競り合うなかで、一瞬でも(ほんの半身でも!)フリーにならなきゃいけない。そう、それが、スペースを攻略するという意味合いです。

 そのためには、ドリブル勝負で相手を抜き去ってスペースへ入り込んでいく方法もあるし、ボールがないところでの動きをベースに、スペースでパスを受けるプレーもある。

 大事なことは、相手ディフェンスが、どのように(レッズが)最終勝負を仕掛けてくるのかの具体的イメージを描けないことです。要は、守備ブロックが、相手の攻撃が、何をやってくるのか予測できない・・という状況にもっていくということ。

 だからこそ、攻撃のもっとも重要なコンセプトは「変化にあり・・」なのですよ。そんな、相手の守備イメージを超越するような「変化」を演出するために、組織パスプレーと勝負ドリブルを、うまく組み合わせるわけです。そう、組織と個のバランス・・

 それが、いまのレッズの攻めは、あまりにも個に偏りすぎている。だから相手守備ブロックは、次のレッズの仕掛け(意図)を明確に予測できる。それだったら、相手ディフェンスが十分に準備して待ち構えられるのも道理だよね。

 またボールの動き(パス)にしても、足許パスが多すぎるし、スペースパスを出すにしても、一人だけしか動かない単純なプロセスがほとんどだから、相手守備にとっては、まったく怖くない(次のパスが明確に読める!)。

 相手の予測イメージの上をいくためには、3人目、4人目の動きをミックスするなど、より素早く、選択肢の広い効果的コンビネーションが求められるわけです。そんな効果的コンビネーションが上手く機能するようになれば、おのずとスペースを活用できるはずだし、そうすれば(相手守備の薄い部分を突いていけるから!)より効果的に勝負ドリブルも仕掛けていけるはずなのです。

 勝負はボールがないところで決まる・・。サッカーは、パスゲームなんですよ。そのパスの目的は、相手守備ブロックのウラにあるスペースで、ある程度フリーな味方(仕掛けの起点)を作り出すこと。そんなシーンを作り出すことが出来れば、おのずと「個の勝負ドリブル」だって、より効果的に繰り出していけるようになるはずです。

 でも、いまのレッズの攻めでは、そんな、チーム共通の「コンセプト・イメージ」がない。選手一人ひとりが、バラバラに仕掛けていっている・・っちゅうイメージなんですよ。これじゃ、相手守備ブロックにとっても、まったく怖くない。

 実際、ベガルタ守備は、レッズ攻撃を、常に「自分たちの眼前ゾーン」で対処していたよね。これじゃ、もう、「エイヤッ!」のゴリ押し勝負を仕掛けていくしかないのも道理か・・

 とにかく、チーム戦術(どのように守り、どのように組織的に攻めていくのかに関するチーム共通イメージ!)がなければ、そりゃ、全体的な運動量がアップしていくはずがない。選手たちにとって運動量を高揚させるのは、大変に厳しい作業だからね。そこには、明確な「目的意識や悦び」に支えられた「強烈な意志」がなければいけないわけです。さて〜〜・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。