湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2011年5月21日、土曜日)

 

実質的には完全にアントラーズのゲームでした・・(RvsA, 2-2)

 

レビュー
 
 ゲーム後の記者会見。ゼリコ・ペトロヴィッチが、その冒頭で、こんなニュアンスの内容をコメントしていた。

 「残念ながら勝てなかった・・とはいっても、3点差をつけられてもおかしくないゲーム内容の負け試合を、最後は引き分けまでもっていけたことはポジティブに考えようと思う・・」

 それを聞いて、ちょっとホッとした。彼「も」、このゲーム内容をネガティブに評価していたんだな・・現実(レッズの実情)だけは理解しているということか・・よかった・・

 とはいってもサ、立てつづけの「ワンチャンス」を、高崎寛之とマゾーラが、二つとも見事なシュートでモノにしたことや、ゼリコ・ペトロヴィッチが言っていたように、高崎寛之が入ってツートップになってから(まあ、高崎寛之の追いかけゴールが決まってからとも言えるけれど・・)レッズのサッカーが活性化したことは、たしかにポジティブな現象だと言えないこともない。

 ただし、「2-0」というリードを奪われていた後半の半ばまで、完璧にアントラーズにゲームの流れを牛耳られていたという現実(レッズの実情)だけは確かなことだった。

 レッズは、とにかく、攻守にわたる「ボールがないところでの動きの量と質」が悪すぎる。

 守備では、ボール奪取の勝負を仕掛けていく「起点」を作り出すためのチェイス&チェックがいい加減だし、たまに味方が相手ボールホルダーを追い込んでも(マルシオは、とても忠実に汗かきをする!)、周りの反応があまりにも悪すぎるから、タイミングよくボールを奪い返せない・・また、肝心の勝負所で、マークがいい加減になってしまうことで、アントラーズに(創造的に)ボールを動かされ、結局は決定的スペースを攻略されてしまう・・フ〜〜・・

 また攻撃でも、とにかく足許パスのオンパレード。そして繰り出していく、ゴリ押しの勝負ドリブルや苦し紛れの「放り込み」、また追い詰められた状態で放つ中距離シュート。これじゃ、アントラーズ守備ブロックにとっては、まったく怖くないでしょ。

 それに対してアントラーズの攻撃では、しっかりと人が動きつづけることで、スムーズにボールが動く。また、同時に複数のプレイヤーがシンプルにボールタッチを繰り返すから、ワンツーなどを織り交ぜたコンビネーションがスムーズに機能する。だから、後方からスルスルッと上がってくる増田誓志や青木剛の効果的なオーバーラップも巧みにミックスしながらレッズ守備ブロックのウラスペースを突いていけるし、興梠慎三や大迫勇也も、レッズ守備ブロックが薄くなったゾーンで、タイミングよくエイヤッの勝負ドリブルを仕掛けていける。

 とにかくこのゲームは、全体的な内容からして、レッズが幸運な引き分けを拾った・・という総合評価に異論がある方々は少ないに違いありません。

 ところで、レッズの、基本ポジショニングを頑(かたく)なに維持しようとするスリートップ。この試合では、エジミウソンに原口元気、そしてセルヒオ・エスクデロ(後半からはマゾーラ)。たしかに高橋寛之が入ってからは、ちょっと流動的になったけれど、それまでは、まだまだ「それ」に固執していた。

 「少なくとも原口元気は、もっと柔軟にポジショニングさせることでボールタッチを増やすという考えはないか?」という記者の方の質問に対し、ゼリコ・ペトロヴィッチは、「ネ〜〜ッ!!」の一言。もちろん、その第一声のあとでは、いろいろな戦術的説明は加えていたけれど、あまりアタマに入ってこなかったネ。

 それでも、わたしの脳裏には、この日の原口元気が、とても元気よく、基本ポジションにこだわり過ぎることなく、より「自由に」プレーしていたという印象が残っているのですよ。どんどんと、セルヒオのサイドへ寄っていったり、ドリブルで中へ入っていったり。

 だからこそ、原口元気の全体的なプレーコンテンツがエネルギーに満ちていた・・だからこそ、印象的な(実効ある)勝負プレーも魅せられた・・と感じたわけです。

 とはいっても、全体的なレッズのサッカーが「寸詰まり」状態にあるのは、誰の目にも明らかです。・・とにかく運動量が少なすぎる・・闘う意志が見えてこない・・

 不確実な要素が満載されていることで、最後は自由にプレーせざるを得ない(リスクも含め、攻守にわたって積極的に仕事を探しつづけなければならない!)サッカー。だからこそ、それは「意志のボールゲーム」なのです。

 ハーフタイムに、ゼリコ・ペトロヴィッチが、選手にこんなことを語りかけたとか。

 「一人ひとりが責任感をもってプレーしよう!」。「もっと激しくプレーしないと得点を取って勝つことはできない・・」。

 フムフム・・。ここでいう「責任感」と「激しくプレーする」という表現に、ゼリコ・ペトロヴィッチがどのような意味合いを込めたのか・・。知りたいね。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。