湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第14節(2011年6月11日、土曜日)

 

2試合を一気にアップしました・・(MvsRS, 0-2)(ARvsR, 2-2)

 

レビュー
 
 いま、愛車を駆り、日産スタジアム(マリノス対レイソル戦)から、大宮アルディージャ対レッズ戦が行われる「Nack5スタジアム」に到着しました。第三京浜、首都高速経由で、まあ1時間弱といったところ。ということで今日は、2試合のポイントを抽出し、それらを短くまとめることにします。

 いま、記者席に座り、取り敢えず第1試合(マリノス対レイソル戦)のメモだけはまとめておこうとキーボードに向かった次第です。でもサ、「簡略にメモる・・」なんていう器用なこと、私に出来るはずもない。結局、そのまま本編コラムを書きはじめてしまった。

 ということで、マリノス対レイソル戦。この試合については、テーマを一つだけに絞り込みましょう。レイソルのスーパーな守備・・

 とにかく、素晴らしい守備意識と、最後まで切れないディフェンスへの集中力(まあ・・要は意志のチカラ)は特筆。全チームの失点ランキングで「も」ダントツの首位というのも頷(うなづ)ける。

 ・・ボールを奪い返すまでのプロセスイメージが有機的に連鎖しつづけるような、とにかくハイレベルな組織ディフェンス・・決定的クロスやスルーパス、はたまた突破ドリブルといった最終勝負プロセスを効果的に抑え込んでしまうだけではなく、最後の瞬間(もちろんシュートのことだよ!)でも、必ずといっていいほど、レイソル選手の「効果的ブロック」が光り輝く・・要は、最後の瞬間に、「必ず足が出てくる」っちゅうことです・・

 ・・マリノスの攻めは、皆さんもご存じのように、組織コンビネーションにしても個人(ドリブル)勝負にしても、決して悪くない・・それでも、ラストパス(クロス)でも、シュートでも、フリーで(ある程度余裕をもって)プレー出来るシーンなどは、まさに皆無といっていい・・それほど、レイソルの組織ディフェンスが、美しく、そしてクレバーに機能しつづけるのです・・

 ・・例えば・・中村俊輔が、例によって、軽快なフェイントから相手マーカーを振り切ってドリブルシュートにトライする・・誰もが、「アッ!」と、短い声を発するような手に汗握る絶対的チャンス・・でも最後の瞬間、どこからか湧き出してくるように(!?)、一人のレイソル選手がギリギリのスライディングで、俊輔のシュートをブロックしてしまう・・っちゅう感じ・・

 ・・フ〜ッ!素晴らしい・・もちろんその選手は、直前に中村俊輔と対峙した仲間が、俊輔のフェイントで置き去りにされることを予測してカバーリングに入っていたのだ〜っ!・・

 ことほど左様に、レイソル守備ブロックは、相互信頼を絶対的な真理ベースに、素晴らしい機能性を魅せつづけるのですよ。私は、レイソル中盤守備の(いや・・チーム全体のディフェンス機能性の!?)リーダーとしてセンターゾーンに君臨する大谷秀和のプレーに舌鼓を打っていた。とてもクレバーで、勇気あるリーダーだ。

 そんな優れたリーダーに鼓舞される(刺激をブチかまされている)こともあるんだろうね、彼らの守備では、「ボールウォッチャー」なんていう現象は、まさに辞書にない。

 とにかく、忠実でダイナミックなチェイス&チェックを絶対的ベースに(追いかけ過ぎず・・逆に間合いを空けすぎず・・)、次、その次を狙うチームメイトたちが「踊り」つづける。そこでは、ボールウォッチャーなどといった「寝ている」選手は、一人もいない。常に、自分自身で「仕事を探しつづける」という、強烈な責任感と意志に支えられた積極プレーが光り輝く。とても爽快だった。

 もちろん、そんな、多くのリスキー要素をも内包する自分主体のチャレンジ(守備)プレーを、積極的に継続させるのは容易な作業じゃない。何といっても、サッカーは究極の組織ゲームだからね。一人でも、本当に、一人でもサボったら、すぐにでも、全体的な機能性が損なわれ、組織(有機的なイメージ連鎖)ディフェンスが崩壊してしまうのですよ。

 言いたかったのは、そのレベルまで組織ディフェンスの機能性を高揚させるためには、地道な作業を、着実にこなしていかなければならないということです。だから時間がかかるし、監督というストロングハンドの「戦術&心理マネージャーとしてのウデ」も要求される。

 まあ、ネルシーニョは、本当に良い仕事をつづけている。レスペ〜クトッ!!

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 さて次はアルディージャ対レッズ。

 たしかに後半は、観ていて楽しい、とてもエキサイティングな仕掛け合いになったけれど、前半は詰まらないサッカーだったよ。特にレッズのサッカーに、例によって「動き」が感じられず、フラストレーションが溜まった。

 それでも、ゼリコ・ペトロヴィッチは、そんな前半のサッカーが良かったと言っていた。しっかりとゲームを支配し、チャンスも作り出した・・それを決めていれば、レッズがイニシアチブを握るゲーム展開になっていたはずだ・・なんて言っていた。そうかな〜〜・・

 まあ・・たしかにボール支配率ではレッズに軍配が挙がるだろうけれど(シュート数でも僅かにレッズが上だった!?)、でも「本物のチャンス」の量と質という視点ではどうだろうか。

 何せ、レッズの仕掛けは、とにかく単調だからね。サイドへボールを運び、そこから勝負ドリブルで仕掛けていくばかり。それに対してアルディージャは、最前線でしっかりと起点になれるラファエルとイ・チョンスを中心に、周りの選手がタイミングよくバックアップしていくという蜂の一刺し攻撃を展開する。だから、ゴールになりそうなチャンスという視点じゃ、アルディージャに軍配が挙がる。

 単調なレッズの仕掛け。そんなだから、レッズの最終勝負プロセスが、アルディージャ守備ブロックに効果的に抑え込まれてしまうのも道理だよね。

 何せ「人」が動かない。だから足許パスのオンパレードで、「そこ」から個のチカラで強引に打開していくといった体たらくなんだよ。まあ、「人の動き」が出てこないのは、自分の基本ポジションを維持する・・なんていう基本コンセプトだから仕方ないか。フ〜〜・・

 そんなレッズだったけれど、後半になって田中達也が登場してからは、ガラリと雰囲気が変わった。そう・・ダイナミズム・クリエイター、田中達也・・

 守備では、田中達也がブチかましつづける前戦からのチェイス&チェックによって、全体的なボール奪取プロセスの機能性がアップする・・また攻撃では、彼が繰り出す、大きくスピーディーなフリーランニング(まさにクリエイティブなムダ走り!!)によって、ボールの動きが、素早く広いモノへと変容していく(田中達也によって、ボールの動きが引き上げられた!)・・そしてそれが、レッズ全体のダイナミズムを活性化していく・・

 とにかく、今のレッズは、組織コンビネーションという発想の重要性を再認識しなければならない。それが、今もっとも求められている課題だと思う。

 サッカーの基本はパスゲームだからね。組織コンビネーションを(チーム内でのイメージを)高揚させることで、人とボールがしっかりと動くようになるだろうし、そのことで相手ディフェンスの「薄い部分」も、より効果的に突いていけるようになる。そう、相手ディフェンスの裏スペースの攻略。そうすれば、個のドリブル勝負だって、より効果的に仕掛けていけるようになるはず。

 その、原則パスゲームであるサッカーの絶対的ベースである人とボールの動きが(攻守にわたる、ボールがないところでの動きの量と質が)、いまのレッズでは、本当に貧弱だと思う。

 ゼリコ・ペトロヴィッチが言っていたように、選手の基本的なクオリティーでは、多分リーグでもトップクラスでしょ。でもチーム総合力が、そんな「個の能力の単純総計」レベルを超越していかない。組織(戦術)プレーという要素が抜け落ちていることで、それぞれの個の能力が互いに刺激し合うことで全体のチカラが嵩(かさ)上げされるような相乗効果を発揮しない。

 前回のコラムでも書いたけれど、山田直輝という理想的な組織プレイヤー(攻守にわたる刺激プレイヤー≒ダイナミズムを高揚させるリーダーシップ)がいるのに、どうしてその能力を活用しないのだろうか?? 

 この試合の後半では、動きが出てきてからは、それぞれの選手たちが、基本ポジションにこだわらず、より自由にポジショニングしてプレーするようになった。それは、とてもポジティブなコトだと思う。それは、組織コンビネーション(組織パスサッカー)が活性化したからに他ならない。そう、変化こそ常態・・

 とにかく、ゼリコ・ペトロヴィッチは、選手たちを「解放」しなければならないと思うよ・・ホントに。選手を信頼し、より広範な「自由」を与えましょう。それが、全てのスタートラインだね。

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 ところで・・

 私の、とても近い友人ご夫妻が、イタリアン・テイクアウトのお店をはじめたので、紹介させてください。先週は、ピアダやパスタを食してきた。頬(ほお)が落ちた。店はチェアも用意しているから、その場で食べられまっせ。

 お店は「PaninoNino」といいます。友人の奥様が(調理も含む)実務を切り盛りしているのですが、その友人は建築(工業も!?)デザイナーで、長くミラノで仕事をしていた。イタリアサッカーファンのはず。彼がイタリア(ミラノ)で仕事をしていた当時、ACミランの監督を、アルベルト・ザッケローニさんが務めていたということです。

 奥さんが、「ザッケローニさんは、ピアダが大好きだと聞いているから、お越し下されば大歓迎しますと伝えてくださいな・・」と上品に言われたけれど、そう簡単にザッケローニと立ち話するわけにゃいかないよね。あははっ・・

 ということで、一度お試しあれ。ホント・・美味しいよ・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。