湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2011年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第16節(2011年6月18日、土曜日)
- レッズは根本的な発想を転換していかなければならない・・また、私の活動に関する告知も・・(RvsSP, 1-3)
- レビュー
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- 「本当に悪い内容のゲームだった・・そのことについては、申し訳ないと思っている・・」
ゼリコ・ペトロヴィッチが、会見場を後にしながら、誰の質問に答えるでもなく、そんなことを言った。フムフム・・
わたしは、その直前に、こんなニュアンスの質問をしていました。
「アルディージャ戦、サンフレッチェ戦では、良くなっていきそうな実のある内容のサッカーを展開した時間帯もあったと思っている・・だから全体的なサッカー内容の改善に対する期待は高まっていた・・ということでこの試合についてだが、いま監督は、とても悪い内容のサッカーだったとおっしゃっていたが、その現象面のバックボーンとして、いま、ピンッとアタマに浮かぶ原因ファクターがあれば教えていただきたいのだが?」
それに対してゼリコ・ペトロヴィッチは、「たしかに、アルディージャ戦とサンフレッチェ戦では、よい内容のゲームを展開できた・・ただ、トレーニングでその良いイメージを発展させようとしたにもかかわらず、また広島戦でのメンバーと大きな違いはなかったのに、結局は、その良いサッカーを継続できなかった・・詳しい原因については、これから映像を見て分析したいと思う・・」といったニュアンスの内容をコメントしてくれた。
終わってみれば、レッズが放った14本のシュートに対し、エスパルスがブチかましたのは11本だった。それでも、実質的な(本当の意味のチャンス・・)という視点では、完璧にエスパルスが凌駕していたとするのがフェアな評価だと思う。
たしかにエスパルスが挙げた三つのゴールのうち、二つはボスナーのスーパー(FK)キャノンシュートだったけれど、それ以外にも彼らは、組み立てプロセスから、またカウンターから、何度も決定的チャンスを作り出していたという事実を忘れてはならないのですよ。
それに対してレッズは、まさに「ゴリ押し」といった強引なシュートを打つばかり。そう・・強引なドリブル勝負からの強引なシュート・・。そんなゴリ押しの勝負を挑んでいけるのは、ある意味すごいことではあるけれど、「それだけ」じゃね・・。そこが、エスパルスと大きく違っていた。
エスパルスの場合は、攻守にわたり、あくまでも組織プレーベースなのです。だから最終勝負プロセスでは、ラストパスやラストクロスをダイレクトで叩く・・というシーン「も」多いなど、とても効果的な変化に富んでいる。
それに対してレッズは、ドリブルで突っ掛けていくプレーに代表されるような個の勝負ばかりが目立つ。もちろん、あれほどの個の才能を擁しているのだから、ツボにはまればチャンスを演出できる。でも、ドリブル勝負に「頼り過ぎ」だから、周りのチームメイトたちも、笛吹けど踊らず・・ってな具合で、足を止め、そのドリブル勝負を「傍観」するばかりになってしまう。
ドリブル勝負をブチかましている選手の周りで、チームメイトたちが、効果的な(ボールがないところでの)勝負の動き(まあ・・パスレシーブのフリーランニング)を繰り返せば、相手守備ブロックにとってその最終勝負プロセスは、ものすごく怖いモノになるのですよ。何せ、あれ程のドリブルの才能を秘める連中が、最後の勝負シーンでは、二つのオプションを持てるわけだからね。
そう、ドリブルシュートと、ラストパス。
でもレッズの「周りの選手」たちは、多くの場面で、味方のドリブル勝負を、呆然と見ているばかりなのです。そりゃ、観ているこちらもイライラするさ。何せ、「そこ」で潰されるのが目に見えるわけだからね。これは、もう、完全に、仕掛けイメージ作りの失敗としかいいようがない・・!?
とにかく、レッズの攻めでは、ボールがないところでの動きの量と質が、あまりにも低レベルに過ぎるのです。たしかにアルディージャ戦とサンフレッチェ戦では、コンビネーション(組織プレー)がアップテンポになる時間帯もあった。でも、ゼリコ・ペトロヴィッチが言っていたように、その良い傾向を継続させることが出来ない。
攻守にわたって、複数プレイヤーの勝負イメージを高質にシンクロさせる・・。そんな、組織プレーイメージの善循環を活性化するための唯一の方法は、言わずと知れた「クリエイティブなムダ走り」の量と質をアップさせていくしかない。
ボールがないところでの動きを効率化しようとする考え方がある。でも、高いレベルになればなるほど、そんな発想が成功につながる確率は地に落ちていく。日本サッカーでも、昔はあったよ・・相手と走りっこするんじゃなく、相手の意図を読んで先回りしようぜ・・とか、自分が走るんじゃなく、ボールを走らせようぜ・・とか・・ネ。
でも、ほとんどの選手が、サッカーの深〜いメカニズムに対する理解と、キーになるプレーの実行力を身につけている昨今だからね、「楽して金儲けしよう・・」なんていう不遜な姿勢は、直接、自己の破滅につながってしまうんだよ。
ちょっとハナシが明後日の方向へいってしまった・・。スミマセン。
とにかく、私が言いたかったことは、一つだけ。攻守にわたる組織プレーの流れを加速させられる選手を、もっと積極的に使っていこう・・ということです。
チーム全体の、ボールがないところでの動きの量を大きく活性化するだけじゃなく、その質をアップさせようとする「意志とアイデア」をもモティベートできるような「強烈な刺激プレイヤー」・・。そう、例えば山田直輝に代表されるフレッシュな選手のことだよ。
いま私が考える、中盤からトップへの「ベストな選手タイプの組み合わせ」は、こんな感じですかネ。
中盤のセンターゾーントリオ(守備的ハーフ・・ボランチ・・センターハーフ・・リンクマン・・ゲーム&チャンスメイカー等々のタスク要員)に、マルシオ・リシャルデス、柏木陽介、そして山田直輝を据える(それには、鈴木啓太や山田暢久、またポリヴァレント性のキャパシティーに大いなる期待がもてる宇賀神友弥といったところも候補です)・・そしてその前に、エジミウソン、田中達也、梅崎司(原口元気・・原一樹・・マゾーラ・・セルヒオ・・といったところも、もちろん候補だよ)のスリートップを置く・・っちゅう布陣。
もちろん彼らには、基本ポジションのイメージをベースにプレーするけれど、実際はポジションを固定せず、縦横無尽のポジションチェンジを要求するのですよ。そんな「変化サッカー」をうまく機能させるための絶対的ベースは、言わずと知れた高い守備意識(強烈な意志のチカラ!)だよ。
もちろんマネージャーは、そのレベルが低ければ、容赦せず鉄槌(てっつい)を下す・・。
いまのレッズでは、そんなチーム作りの方向性に不満を持つ選手はいないはずだよ。何といったって、いまの彼らのサッカーじゃ、選手たち自身が、もっともアンハッピーのハズだから・・。
最後に、エスパルス監督アフシン・ゴトビさんについても簡単に。
ゼリコ・ペトロヴィッチとアフシン・ゴトビは、ともに「オランダ系」として認知されているらしい。彼らのキャリアをみても、そのことに納得がいく。
ここで、オランダ的なサッカーとは・・なんていう議論を展開するつもりは毛頭ありませんが(ゴトビさんについては、以前エスパルスについて書いた、この「Jリーグ・コラム」を参照して下さい)、とにかく、同じようなベクトル上にいる(同じような理想イメージを志す!?)ゼリコ・ペトロヴィッチとアフシン・ゴトビだけれど、ここまで為した成果という視点じゃ、ペトロヴィッチは、ゴトビさんにかなりの水を空けられてしまったとすることが出来る!?
要は、ゴトビさんの方が、より柔軟で効果的な戦術的発想を駆使できている・・っちゅうことなのかもしれない。やはり、オランダが誇る世界の名将のパートナー(分析&戦術立案パートナー!?)として着実な成果を残した実績は伊達じゃないっちゅうことか。
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最後に告知です。
わたしは、女子ワールドカップの取材、欧州(プロ)サッカーエキスパートとの情報交換(今回は本になるかもしれません・・)、そしてドイツプロサッカーコーチ連盟主催の国際会議に参加するため、来週早々から6週間ほどヨーロッパに滞在します。
帰国は、7月の末になる予定です。そのとき「J」がどうなっているか、とても興味があります。もちろん「結果情報」は随時ピックアップするけれど、やっぱり生の「内容情報」がなけりゃネ。
ということで、これから発信しつづけるヨーロッパ情報にご期待あれ。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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