湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第22節(2011年8月20日、土曜日)

 

ヴァンフォーレの踏ん張りに拍手!・・とにかくレッズは、進化への正しいベクトルに乗っている!・・(VFvsR, 3-2)

 

レビュー
 
 とにかく、ヴァンフォーレが、素晴らしく「ソリッド」なサッカーを展開し、最後の最後まで踏ん張って「粘りの勝利」をもぎ取った・・というゲームだったことは確かな事実です。

 ソリッドなサッカーの意味合いだけれど、それは、最終ラインの積極的なラインコントロールも含めた、強烈な意志にあふれる忠実な組織(コンパクト)ディフェンスが、とてもハイレベルに機能しつづけた・・といったニュアンスですかね。

 忠実でダイナミックな(全力スプリントがテンコ盛りの!)チェイス&チェック。そんな全力(守備の起点)アクションに、これまた忠実に呼応する協力プレスやインターセプト狙い(はたまた、相手トラップの瞬間を狙うアタック)等の二次アクションが正確にリンクしつづける。

 それだけじゃなく、遠いゾーンで相手が仕掛けようとする(まあ、逆サイドのサイドハーフとサイドバックによる)崩しアクションにも、大きく忠実に動いて対応してしまう(少なくとも、常に、全力スプリントで対応しようとしていた!)。

 そんな忠実なディフェンスが、最後の最後まで機能したヴァンフォーレだったから(まあ、最後の時間帯では、佐久間悟監督が言うように、ちょっと運動量は落ちたけれど・・)、内容的にも、順当な勝ち点3だったと書いたわけです。

 レッズについてだけれど、ゼリコ・ペトロヴィッチが会見で言っていたように、たしかに守備は、ちょっといただけなかった。

 ヴァンフォーレがイメージしていたのは、レッズが仕掛けてくるであろう「安易なアタック」だったわけだけれど、その意味でレッズ選手たちは、まさに彼らのワナにはまった。

 まあ、ちょっと、ヴァンフォーレを甘く見ていたという要素もあったんだろうね、だから、特に前半、安易にアタックを仕掛けたことで、ヴァンフォーレ選手たちの素早いトラップ&コントロールやワンツー・コンビネーションで置き去りにされてしまうシーンが続出した。

 そして、人数とポジショニングバランスが崩れたところを、後方から走り抜けていくパウリーニョにスルーパスを通されて大ピンチに陥ってしまうのですよ。

 そりゃ、そうだ。何せ、裏のスペースを突かれたことに慌てて対応するものだから、余裕を失ったレッズのディフェンダーが、パウリーニョの切り返しに、まさに「軽く」逆を取られて置き去りにされてしまったのだからね。それは、パウリーニョが挙げた二つのゴールシーンのことですよ・・。

 たしかに「アレ」はいただけなかった。

 それだけじゃなく、ヴァンフォーレの2点目シーンでは、同じようなシチュエーションで(左サイドの決定的スペースへ)走り抜けるパウリーニョにレッズのディフェンダーが付いていけず、片桐淳至に見事なスルーパスを通されてしまうなんていう体たらくだった。

 そして、パウリーニョの正確なクロスボールを、ハーフナー・マイクに、「ドカンッ!」とヘディングシュートを叩き込まれてしまう。そのときハーフナー・マイクは、まったくのフリー。この失点シーンでも、パウリーニョとハーフナー・マイクに対するマークは、まさにボロボロだった。フ〜〜・・

 要は、カバーリングが低調だっただけではなく、最後の勝負の瞬間(シュート場面)でのマークやアタック(スライディング)にも、まったくといっていいほど粘り(=強い意志)が感じられなかったということです。

 サッカーは意志のボールゲーム。誰でも、危険を「察知」した者は、長い距離を全力でスプリントしたり、身体を投げ出してでも、その危険を阻止しなければならないのですよ。

 そんな、最後の勝負の瞬間における「意志のチカラ」という視点では、明らかにヴァンフォーレに軍配が挙がる。何度、レッズの決定的チャンスを、身体ごと飛び込んでいくことで阻止するシーンを目撃したことか。それは、それで、とても感動的な「闘う意志の発露」ではありました。

 レッズの攻撃だけれど、たしかに支配的な勢いはあった。でも、裏のスペースを攻略し決定的シュートシーンを演出するなど、実質的なチャンスの量と質では、明らかに(カウンター主体の!)ヴァンフォーレに軍配が挙がるのですよ。

 ここで言いたかったことは、レッズのサッカーが良くなっている・・ということです。

 全体的な運動量や守備意識、また、攻守にわたるボールがないところでのアクションの量と質といった、良いサッカーを論じるうえでもっとも重要になってくる隠された骨格ファクター(=闘う意志のレベル)が、高揚しつづけていると感じるのですよ。

 その傾向は、この試合でも明確に感じられた。

 だから、ゼリコ・ペトロヴィッチが言うような「悪いサッカー」では決してなかった。まあ、ゼリコが悪いサッカーと言ったのには、安易なボール奪取アタックに代表される質の悪いディフェンスというニュアンスが込められていたんだろうけれどネ。

 最後に、セルヒオとマゾーラ、はたまた田中達也と原口元気といった(もちろん後方から上がってくる柏木陽介も含めてネ・・)スーパードリブラー・カルテットになってからのレッズが、ツボにはまれば、ものすごい破壊力を魅せていたというポイント。観ているこちらも手に汗握った。

 実際、柏木陽介のスーパードリブルからセルヒオが叩き込んだレッズの2点目シーンには興奮させられた。そのゴールを観ながら、「ヨ〜シッ!・・面白くなってきたゾ〜・・」なんて(不覚にも!?)心のなかで叫んじゃったモノです。

 でもサ・・、やっぱり、そんな仕掛けプロセスは、ゴリ押し以外の何物でもないよネ。もっとスマートにボールを動かせば、彼らのドリブル能力を効果的に活かしていけるのに・・。

 そう、いつも書いているように、素早くスマートな「コンビネーション」が機能すれば、彼らの個の能力をもっと光り輝かせることができると思うわけです。

 たしかにマゾーラにしてもセルヒオにしても、はたまた田中達也や原口元気にしても、彼らのドリブル勝負は、ツボにはまれば破壊的なチカラを発揮する。でも、相手ディフェンスには、そんな彼らの「ゴリ押しのドリブル勝負」が明確に見えている。だから、次、その次というふうに、すぐにでも、カバーリングの輪を作り上げてしまう。

 要はサ、ドリブル勝負がはじまったら、常に誰かが、次のスルーパスを受けられるように、スペースへ(サポートの)フリーランニングをする・・ということです。

 もちろん「それ」は、とても厳しい汗かきプレーだよ。でもサ、世界の一流は、全員が、そんな3人目、4人目の「汗かき組織プレー」を敢行しつづけているんだよ。そんな厳しいアクションを積み重ねることで初めて、次の段階へとステップアップしていけるし、この試合のような強力ディフェンス網だって、崩していけるのサ。

 とにかく、良いベクトルに乗りはじめたレッズへの期待が、どんどん膨(ふく)らみつづけている筆者なのでした。

===============

 ちょっと話題は変わりますが・・。

 このところ、わたしが愛用しているウエストバッグやバックパックについて質問してくる方々が増えています。ということで、それを軽くご紹介することにしました。

 ブランドは、METAS(メタス)といいます。

 以前「サザビー」という有名ブランドのチーフデザイナーを務めていたわたしの友人が、10年前に独立して作り上げたプライベートブランド。その、痒(かゆ)いところにも楽に手が届くっちゅう感じの、実用的なアイデアが満載されたビジネスツールが、とても気に入ってます。

 METAS(メタス) が扱っているのは、わたしが愛用するウエストバッグやバックパックだけじゃなく、ショルダーバッグやハンドバッグ、はたまたボストンバッグやブリーフケース等もあります。

 全体的なデザインはオーソドックス(どこか懐かしいスタンダード・・というのがコンセプトらしい)だけれど、高質な材料の選択や、その素敵な組み合わせだけじゃなく、細かな気配りアイデアにも感嘆させられるスグレモノです。使い込めば込むほど(長寿もコンセプトの一環!?)、愛着がわいてくる。そして、安物とは違い、古くなればなるほど、素敵なチャック金具やおしゃれな裏地といった「細かなデザイン」が光り輝いてくる。

 ちょっと誉めすぎ!? まあ私は、メタスの哲学と、それを具現化したバッグ類を、とても気に入っているのですよ。

 様々なタイプのバッグを日々のアクションに活用している方々こそが、その細かな気配りアイデアを高く評価するに違いないと確信する筆者なのでした。ちょっと「押し」過ぎ!? あははっ・・

===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。