湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2011年10月1日、土曜日)

 

偶然と必然のせめぎ合いこそがサッカー!?・・(VFvsFR, 0-1)

 

レビュー
 
 ・・いや、ホント、とても興味深いゲーム展開だったネ〜・・テレビ中継のカメラアングルもまあまあだったから、ボールがないところでの攻守の駆け引きドラマも「ある程度」は楽しめたしネ・・

 カメラワークだけれど、良かったとはいっても、両チームともにカウンターを志向しているわけだから、タイミングを見計らって・・、要は、仕掛けイメージを予想し、もっと早いタイミングで「引いて」もよいシチュエーションもあったよね。でも、全体としては、想像力にあふれた映像作りだったと思いますよ。もちろん、ディレクターのウデも含めてネ。

 ところで、カメラを「引く」タイミングだけれど、仕掛けのロングパスが出される直前に、カメラを振りながらアングルを「広く」するのでは「遅すぎる」というシーンが多いですよね。

 勝負パスを受ける(ボールがないところでの)アクションは、相手マークの視線を盗んだり、フェイント動作を入れるという事前のアクションも含め、少なくとも数秒前からスタートしているわけだからね。

 スミマセン、カメラワークが良くなっているのに文句ばかり言ってしまって。とはいってもサ、試合によっては(=カメラマンやディレクターがサッカーの本質に興味がないことで!?)全くダメな映像作りがあることも確かなのだけれど・・。

 ということで試合。

 わたしのなかでは、冒頭で使った「興味深い・・」という形容句が、総体的な印象をうまく表現しているように感じています。ということで、ゲームの全体的な流れだけれど・・

 ・・(立ち上がりの数分を除いて)ホームのヴァンフォーレが、攻守にわたる優れた組織サッカーをベースに、試合のイニシアチブを握っている・・もちろん一点を追いかける展開になってからは、その勢いが加速していったことは言うまでもない・・

 ・・それに対しフロンターレ・・たぶん彼らのゲームプラン通りだったのだろうが、「より強く」必殺のカウンターを繰り出していくことをイメージするような「やり方」を徹底していると感じる・・

 ・・もちろんその「やり方」は、全体的に下がって守備組織を固めるという消極的なものではなく、あくまでも高い位置でのボール奪取「も」イメージする・・

 ・・要は、ボール奪取からの効果的なカウンターの流れを具体的にイメージしながらディフェンスを組み立てていくっちゅうことかな・・その「やり方」を制御しているのは、言わずと知れた中村牛若丸(日本代表への復帰・・当然だとは思うけれど、ザッケローニのサッカー観に共感!)・・

 ・・ところで、攻め上がるヴァンフォーレ・・決して彼らは、カウンター狙いのフロンターレ守備ブロックに抑え込まれていたというわけじゃない・・

 ・・フロンターレは、先制ゴールも含め、何度かカウンターからチャンスを作り出していたわけだけれど、そんなフロンターレに対し、ヴァンフォーレもまた、マイク・ハーフナーやパウリーニョ、はたまた片桐淳至といった(個性的で強力な武器を秘める!)オフェンス選手たちが、持ち味を存分に発揮しながらチャンスを作り出す・・

 ・・ヴァンフォーレは、マイク・ハーフナーのヘディングとか、パウリーニョの突破ドリブルとか、はたまたセットプレーとか、何度、同点ゴールを予感させる(確信させる)ビッグチャンスを演出したことか・・それでも、結局はゴールには至らなかった・・

 ・・ということで、この「結局はゴールに至らなかった」という事実が、このコラムの骨子テーマになるのかな・・

 ・・そう、偶然と必然が極限でせめぎ合うサッカーというテーマ・・

 ・・この「0-1」という結果についてだけれど、もちろん「その背景」に、フロンターレが魅せたゲーム展開に一日の長があったという「必然ファクター」を忘れちゃいけない・・ここで言う「ゲーム展開」だけれど、それは、攻守にわたる局面プレーの集積に他ならない・・

 ・・たしかに両チームとも、相手のカウンターには最大限の注意を払っていたけれど、カウンターの流れを潰す「素早い攻守の切り替えからの組織ディフェンス」の内容としては、やはりフロンターレに一日の長があった・・

 ・・(局面プレーでは)例えば、フロンターレが攻め上がっているシチュエーション・・そこで、ミスパスなどでボールを失い、逆にヴァンフォーレにカウンターチャンスが訪れるという場面・・そこでフロンターレ選手たちが魅せた、「切り替え」の素早さ、そして、ヴァンフォーレのタテへの「動き」を効果的に抑制してしまうようなチェイス&チェックの巧みさは特筆だった・・

 ・・また例えば、ヴァンフォーレがイニシアチブを握って攻め上がっている状況・・そこでフロンターレは、巧みにマークを受け渡すことで、ボールがないところでの決定的フリーランニングを抑え込んだり、相手のパスに対して「飛び込む」振りをして止まることでダイレクトパスを「出させ」たりする・・もちろん彼らが、「次」で、プラン通りにボールを奪い返してしまったことは言うまでもない・・などなど・・

 ちょっとハナシが錯綜(矛盾)しているように感じるけれど・・、「結果からすれば、フロンターレの気ゲーム戦術プランが効果的に機能した・・」なんていう論評も出来るんだろうね。

 でもサ、コトはそう単純じゃないということ「も」言いたかった筆者なのですよ。ヴァンフォーレも「また」、このゲームを勝ち切るに十分な「必然ファクター」を提示していたっちゅう事実を誰も否定できないわけだからね。

 とにかく、とても興味深い勝負マッチではありました。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。