湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第31節(2011年11月3日、木曜日)

 

またまた長〜くなってしまった・・(RSvsAL, 4-0)(RvsJU, 0-3)

 

レビュー
 
 今日は、標記の二試合を連チャン観戦しました。両ゲームともに、派手に、そして一方的にゴールが決まった。フ〜〜・・

 ということで、二試合分のコラムを書くわけだけれど、エネルギーと時間の節約という意味合いも含め、短く、箇条書き風にまとめます。まず、レイソル対アルビレックスからですが、箇条書きコラムに入る前に、前段のオハナシから・・

 二週間くらい前でしたかね、ある方からこんな質問をぶつけられました。「・・湯浅さん・・三つどもえの優勝争い・・最後はどこが勝つのですか?」

 質問してきたのは、とある著名コラムニストの方。そんな、唐突な・・とは思ったけれど、自身も興味を喚起され、ハタッと考えた。そして、こんな表現をした。

 「そうですね・・サッカーの魅力とか、攻撃の爆発力じゃ、何といっても西野朗のガンバでしょ・・でも長丁場のリーグ優勝となればハナシは違う・・そこでは総合的な安定感こそが問われますからね・・だから、今の段階では、私はレイソルを推しますよ・・」

 その時点では、たしかレイソルは二位か三位だったはず。それが・・

 ・・ということで、ここからが本文コラム・・

 ・・レイソル安定感の絶対的バックボーンは、何といっても、優れた組織ディフェンスにあり・・ネルシーニョによって(J2時代も含め!)長い時間をかけて熟成されてきた「ボール奪取イメージ」・・レイソルの組織ディフェンスでは、そのプロセスイメージが、まさに有機的に連動しつづける・・

 ・・このテーマについては、もう何度も書いた・・だから今回は、ちょっと視点を変える・・

 ・・今回のテーマは、守備にはいった次の瞬間に素早く組み上げられる優れたポジショニングバランス・・それが本当に素晴らしい・・

 ・・攻撃に入ったら、もちろん選手たちの基本ポジショニングは「ズレ」る・・でもボールを失ってディフェンスに入れば、本当に素早く、それも正確に、彼ら本来のポジショニングバランスを作り上げてしまう・・そう、4-4のボックス・・それにツートップも効果的に絡みつづける!・・

 ・・これは、地道なトレーニングで鍛えられた感覚(守備の連鎖イメージ)を、有意義に蓄積していった成果としか表現のしようがない・・

 ・・間髪入れない攻守の切り替えからの、忠実な最前線ディフェンス(チェイス&チェックという汗かきディフェンス!)・・とにかく彼らは、「まず」追いかけ、相手の攻撃を遅らせる・・もちろん「外国人」という例外などあり得ない・・だからこそ、ポジショニングバランスも、より素早く効率的に再構築される・・フムフム・・

 ・・レイソルの場合、選手たちが、スターがいないコトも含め、自分たちが勝つためには「これしかない」と確信していると感じる・・そう、攻守にわたる究極の組織サッカー・・

 ・・スターがいない(それもまたネルシーニョ監督のチーム作りコンセプトの一環!?)・・だからこそ、選手全員が、レイソルはチームコンセプト(優れたチーム戦術)で勝っていると体感している・・それこそが、レイソル躍進の絶対的なバックボーン!?・・だと思う・・

 ・・もう一つ・・そのコンセプトを具現化するための、とても重要なコンビがいる・・それは、大谷秀和と茨田陽生で組む、守備的ハーフコンビ・・

 ・・彼らもまた、レイソル躍進の原動力・・彼らは、縦横無尽に動き回り、チェイス&チェックだけじゃなく、守備でのカバーリングや攻撃でのバックアップ&サポート(後方支援)に徹する・・

 ・・彼らがいるからこそ、酒井宏樹や近藤直也といったサイドバックが、後ろ髪引かれることなく前戦へ飛び出していける・・そして、両外国人(レアンドロとワグネル)とタテのポジションチェンジを繰り返しながら危険なコンビネーションをブチかましていく・・だからこそ、レイソルのサイドからの仕掛けが、より威力を発揮する・・

 ・・また、そんな、ある程度ポジションを固定した守備的ハーフコンビがいるからこそ、守備に入ったときのレイソルは、素早く、本来のポジショニングバランスを組み直すことができるとも思う・・実際チームがディフェンスに入ったときの彼らは、素晴らしく的確に、味方へ指示を送っている・・

 ・・だからチームメイトは、もっとも近くのポジションに効率的に就くことが出来るってな具合・・そう「背後からの声は神の声」ってな具合・・

 ・・そんな素晴らしく安定した組織ディフェンスを絶対的なバックボーンに、攻撃に入るやいなや、とても素早く、タテへとボールを動かし、効率的に相手ゴールに迫ってしまう・・

 ・・その「流れ」をカウンターと表現していいのだろうか・・とにかく、ツボにはまったときのレイソルの攻撃は、サイドゾーンを中心に、人数が足りているからこその素早く効果的なボールの動きをベースに、決定的スペースを突いていく・・

 ・・そんな「安定感抜群の質実剛健レイソル」を観ていて、彼らのリーグ優勝イメージが、より大きく膨らんでいったモノでっせ・・

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 ・・さて次はレッズ対ジュビロ・・

 ・・この試合でのレッズは、ショッキングなほど出来が悪かった・・もしかしたら、今シーズン最低のサッカーだったかもしれない・・もちろん、ジュビロの(特に山崎亮平と前田遼一で組むツートップの!)出来が素晴らしかったということもあるけれど・・それにしても・・

 ・・とにかく、レッズのプレーからは、闘う意志がまったくといっていいほど感じられなかった・・

 ・・言うまでもなく、私は、攻守にわたる「ボールがないところでのプレーの量と質」を絶対的な評価基準にする・・その視点で、とにかく「動き」がなかっただけではなく、それを何とかアップさせよう(チームのダイナミズムを高揚させよう)とする意志や努力が感じられなかったことには、強いショックを受けた・・

 ・・とにかく、ゲームの途中から、呆れ果ててしまった・・この鈍重なサッカーは、山田直輝と鈴木啓太が出場停止だったということだけが要因というわけでもないと思う・・

 ・・驚いたことに、レッズは、アントラーズとの決勝戦とほぼ同じ「やり方」でゲームに臨んでいった・・そう、ドリブラーの勝負を前面に押し出すサッカー(攻撃)・・そのナビスコ決勝でのやり方だけれど、てっきり私は、強いアントラーズだったからこそ、カウンターに徹するサッカーを意図したゲーム戦術だとばかり思っていた・・それが・・

 ・・そこで展開されたサッカーについては、ジュビロも、しっかりとスカウティングしていたに違いないでしょ・・だから十分に準備もできた・・彼らにとってレッズの攻撃は、まったく怖くなかったに違いない・・何せ、自分たちの眼前で「しか」動きがないのだし、そこから迫ってくる勝負ドリブルにしても、とにかく粘り強く付いていけば、必ずボールを奪い返せるんだからネ・・

 ・・人とボールを動かすことで(背後の!)スペースを突いていかなければ、ドリブル勝負の「性能」が効果的に発揮されるはずがない・・スペースへ動きながらボールを受けて振り向き、(その動きに付いていけずに)間合いを空けてしまった相手マーカーへ向けて、勢いよく突っ掛けていくようなドリブル勝負こそが効果的なのですよ・・それが・・

 ・・ジュビロの柳下正明監督が、「レッズはボールをつないできた・・だから我々のディフェンスのツボにはまった・・」と言っていたけれど、その意味は、ウラの決定的スペースを突いていくようなコンビネーションではなく、足を止めた足許パスのオンパレードだったという意味でしょ・・

 ・・そのことについて質問したけれど、柳下さんは、以前はロングパスを放り込まれたことでピンチになったという意味合いでした・・なんて煙に巻いていたけれどサ・・フンッ!・・まあ、いいさ・・

 ・・とにかく、この試合でジュビロが魅せつづけた、攻守にわたる組織サッカーは、素晴らしいの一言でしたよ・・でもネ・・

 ・・そう、レッズの出来が悪すぎたからこそ、ジュビロのサッカーが素晴らしく見えたという捉え方もあるっちゅうわけです・・

 ・・どうなんだろう・・堀孝史は、人間の弱さと、効果的に(そして真摯に!)闘えないパーソナリティーなのだろうか・・それこそが(プロの)監督の本質的な仕事なのだけれど・・

 ・・そのコトについては分からないけれど、とにかく今は緊急事態なんだから、選手自身「も」まとまって闘うという雰囲気を高揚させていくことも喫緊の課題ということだね・・

 ・・この試合で彼ら(選手)も感じたように、人とボールの動きがなく、ボール奪取(ディフェンス)への勢い(意志)が十分ではない後ろ向きのサッカーでは、いまの「J」では、まったく歯が立たないというのは確かな事実なのです・・

 ・・誰が中心になるべきなんだろうか・・とにかく、もうここまできたら、鈴木啓太とか、柏木陽介、もちろん山田直輝や原口元気にしても、彼らが中心になって、互いに「怒鳴り合う」までの厳しい闘う雰囲気を作り上げなければ、本当に降格してしまうよ・・

 ・・この試合では、もちろん、互いに刺激し合うという心理環境が「まったくなかった」からこそ、誰もが足を止め、アナタ任せの無様なサッカーになってしまった・・もちろん何人かは動くことはあるし、ここしかないという状況じゃ、スペースランニングも魅せるけれど、とはいっても、それら全てが「単発」なんだよ・・

 ・・サッカーは、究極のチームゲームだからネ・・攻撃でも守備でも、一つのアクションに、二つ目、三つ目、できれば四つ目のアクションも「連鎖し、連動していかなければ」ならないのですよ・・

 ・・単発のアクションだから、次につながらない・・そして、その「始まりのアクション」自体も、どんどんと萎んでいく・・

 ・・選手たち自身が、限界まで闘う・・その意味は、全員が、一人の例外もない全員が、攻守にわたって、まずオレがアクションを起こす(チェイス&チェックや爆発フリーランニングといった汗かきプレーをスタートする)という強烈な意志をブチかまさなければならないということ・・

 ・・そして、だからこそ、そのアクションに「乗ってこずに足を止めているチームメイト」に対して強烈な「文句を飛ばす」くらいの覚悟が必要なんだよ・・まったく遠慮なんて要らない・・とにかく罵倒するくらいの勢いで主張する・・

 ・・そんな主張をすれば、まず自分が汗かきアクションをしなければ恥ずかしくなるでしょ・・それこそが、自己主張することの意義であり、それこそが、闘う雰囲気を醸成するんだよ・・

 ・・テメ〜〜、何やってんだ!・・フザケルナよ、もっと走れ・・もっと闘え〜〜・・ってな具合・・

 ・・そんな闘う雰囲気は、トレーニングのときこそ重要・・そこで、たまには殴り合わんばかりの攻撃性(アグレッシビティー)をぶつけ合うのだ〜・・もちろんグラウンドを離れたら、そのことをテーマにディスカッションするわけなんだよ・・「あの態度は、決して個人的な恨みとかいうものじゃない・・とにかく、今のオレ達には闘うことが必要なんだ・・」ってね・・

 ・・そりゃ、選手たちだけで、そんな闘う雰囲気を作り上げるのは難しいよね・・もちろん、誰か、チーム共通の敵にでもなれればハナシは変わってくるけれど・・

 ・・とにかく、今は、緊急事態なんだよ・・選手のなかで、強烈な自己主張をぶつけ合うような、選手間ミーティングも、より頻繁に開かなければダメだ・・

 ・・レッズの現場に、J2へ降格することを仕方ないなんて思っている輩がいるとは思いたくない・・でも、「闘う」ことに背を向けたら、もうオシマイだぜ・・本当だぜ・・これは、フットボールネーションのトップサッカー(そこでのギリギリの勝負!)を体感したことも含め、わたしの長年のコーチの経験からも確実にいえること・・

 ・・とにかく、このままじゃ、確実に、降格という奈落のコースに落ち込んでしまう・・だから、監督も含め、選手全員で(でも、まずは、前述した主力級と堀孝史との話し合いで!?)なんとか、闘う雰囲気を醸成する工夫を凝らさなければならない・・

 この試合でレッズが展開した、気概のない(闘う意志のカケラも感じない)沈滞サッカーを観ていて、そんな、鳥肌が立つような不安だけが湧き上がってきたモノでした。

 とにかく今は、チーム全体が一つにまとまらなければダメだ。そのために、誰か(例えば社長!?)が犠牲になってチーム共通の敵になるくらいの覚悟だって必要になるかもしれない。レッズが置かれている状況は、それほど厳しいモノなのですよ。そのことを、鳥肌が立つくらい自覚して欲しいと願って止まない筆者でした。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。