湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2011年11月20日、日曜日)

 

規律プレーと解放プレーの高度なバランスという視点・・(SPvsRS, 1-2)

 

レビュー
 
 イヤ・・ホント・・すごかったネ〜・・レイソルの大逆転ドラマ・・本当に彼らは、昇格して即リーグ優勝という前代未聞の快挙をリーグ史に刻み込むことになるのか?・・

 ゲーム内容(&勝負)の展開自体は、後半の15分くらいまでは、どちらかといったらエスパルスが、ボスナーがブチかましたFKスーパーキャノンシュート&先制ゴールを守り切ってしまうのかな〜、なんていうイメージを抱かせる流れだったですね。ところが・・

 徐々に、あまり目立たず、誰にも感づかれることなく(!?)レイソル攻撃の「危険度」がアップしていったのですよ。私は、そんなプロセスを感じながら、ボールを奪いかえしてからの攻撃へ上がっていくレイソル選手の人数が微妙に増えはじめている(同点から逆転を目指す意志が高揚しはじめている)流れを意識していました。

 いや、逆に、積極的に攻め上がるエスパルスの後方ディフェンスブロックの人数が足りなくなる(前後の人数バランスが悪くなり、レアンドロ・ドミンゲスを中心にしたレイソルのカウンターを勢いづかせた!?)という状況が増えていったとも言える・・かな。

 とにかく、そこら辺りから、ゲーム内容が、両チームともに「より」多くのチャンスを作り出すなど、とてもエキサイティングなモノへと変容していったのです。何せ、前半のゲームは、守備がとても組織的で強い両チームの特長(強み=効果的ディフェンス)ばかりが目立つという展開だったからね。それじゃ、エキサイティングな仕掛けシーンが容易に出てこないのも道理。

 そんな「沈滞マッチ」という現象だけれど、レイソルが目指すゲーム(勝負)展開はよく分かる。彼らは、どんなカタチであっても、とにかく勝ち点3を奪い取らなければならない・・そのためには、特に前半に失点してはいけない・・という意識がとても強かったということだね。

 でも、対するエスパルスは、リーグ戦では、もう何も失うモノがないわけだからね。ハーフタイムには、私も一目置くアフシン・ゴトビ監督が、一点リードしているにもかかわらず、こんなゲキを飛ばしたとか・・

 ・・われわれの持っているものの50〜60%しか出せていない・・ボールを失ったら全員でGO!・・奪いに行け!・・後半、もっとエネルギーを出していけ!失うものはないぞ!・・

 ただ、そんなゴトビ監督のゲキや、一点リードされたことでレイソルには失うモノが何もなくなったにもかかわらず、後半の立ち上がりに限って言えば、両チームともに、相手の強力ディフェンスを崩し切れないという前半と同様の鈍重な展開だった。それが・・

 前述したように、後半の15分あたりから、レイソルのサッカー(攻撃)が目立って活性化し、実際に何度も惜しいチャンスを作り出しはじめたのです。そして、その17分。コーナーキックから同点ゴールが生まれる。

 ワグネルのCKを、レアンドロ・ドミンゲスが落とし、そのこぼれ球を工藤壮人がダイビングヘッドでゴール右隅に送り込んだ。素晴らしく粘り強い、まさにボールに「まとわりつく」ような柔軟なヘディングシュートだった。

 そして、その直後から、ゲームが大きく動きはじめる。ゲームの流れが、まさにレイソルの独壇場という雰囲気へと変容していくのです。ワグネルやパク・ドンヒョク、はたまたレアンドロ・ドミンゲスが惜しいシュートをブチかましたり、再び工藤壮人が、レアンドロ・ドミンゲスからの正確なクロスを、「ドカンッ!」という音がするほど強烈なヘディングシュートを見舞う。

 この工藤のヘディングシュートだけれど、見事にそれは、エスパルスゴールの右隅に突き刺さった。でも結局は、オフサイドという判定でノーゴールになった。

 その後は、両チームともに仕掛け合うというエキサイティングな展開になったけれど、最後の時間帯は、様々な意味合いを内包する「戦術的な制限」から解放され、より、自分自身で「仕事を探せるようになった(=リスクチャレンジが活性化した)レイソルが試合のイニシアチブを握り、そしてその流れが決勝ゴールへとつながった・・と思う。

 それは、たぶん自然発生的な「ゲーム展開の変容」。選手たちは、さまざまな戦術イメージを徹底しながらも、タイミングを見計らって、「そこ」から解放されなければならないのです。そう・・タイミングのよいリスクチャレンジ・・

 たしかに、両サイドゾーンでの「攻守のせめぎ合い」とか、エスパルスの後方からのゲームメイカー「ヨン・ア・ピン」のプレーを制限する対処戦術(彼をマークするレイソル選手の変更・・)とか、さまざまな意味での、両監督の手練手管のぶつかり合いもあったでしょうね。

 でもサ、どんなに精緻なプランを立てたって、それを実際にグラウンド上で実行するのは選手だからね。彼らが、攻守にわたり、積極的に「仕事を探せない」ようじゃ、決して優れたサッカーは実現できないということです。

 勝負所では、対処戦術という「制限」から、自らを効果的に、そしてタイミングよく解放し、そして次のプレーでは、すぐに戦術的なプレーに戻る。例えば、危急状況では、自分がマークすべき相手を放り出して味方のサポートに回るとか、チャンスでは、自分の持ち場を放り出して決定的スペースへ飛び出していくとか・・

 まあ、攻撃こそ最高の防御なり・・という格言も含め、そんな「規律プレーと解放プレー」の実効ある繰り返しが優れたサッカーの礎(いしずえ)になるっちゅうことです。

 ちょっと難しいディスカッションに入ってしまったけれど、このゲームでは、そんな「規律プレーと解放プレーの高度なバランス」という視点で、最後の時間帯になって、レイソルが実力を発揮したという見立てをしていた筆者なのでした。

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追伸:

 このゲームのテレビ中継だけれど、結局、より良かったスカパーで観戦しました。とにかく、同時にライブ中継していた「BS1」の映像作りが、あまりにもヒド過ぎたのですよ。

 要は、例によって「半径20メートルの映像作り」。これじゃ、ボールがないところでのドラマなんて、まったく追いかけられない。

 普段の「BS1」はハイレベルな映像作りをしてくれるから、とても信頼していたのですが、この試合に限っては(例外的に!?・・Hopefully・・)とても低級でした。まあ・・ディレクターとカメラマンのコンビが、サッカーの価値を理解していないということだったんでしょうね。

 こんな映像作りが続かないことを願って止みません。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。