湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2012年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第11節(2012年5月12日、土曜日)
- 後半は同格のサッカー内容になった・・(RvsAL、1-1)
- レビュー
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- 「前半は、レッズの柏木陽介とマルシオに、かなりフリーでプレーさせてしまった・・だからハーフタイムに、その部分を修正した・・守備的ハーフコンビが、より意識してマークに当たったということだが、それでゲームの流れが良くなったと思っている・・」
アルビレックス、黒崎久志監督が、記者会見で、そんなニュアンスの内容をコメントしていた。そう・・、まさにそのポイントが、とても重要だったということだね。
レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督がハーフタイムで言っていたように、前半のレッズは、ホントに良い内容のサッカーを展開した。
ゲームを支配するだけじゃなく、何度もサイドゾーンから崩して決定的なチャンスを作り出した。梅崎司が、槙野智章が、はたまた平川忠亮が(また交替出場した宇賀神友弥が!)、コンビネーションや勝負ドリブルから、とても危険な勝負を仕掛けていったのです。それが、先制ゴールだけじゃなく、マルシオ・リシャルデスや原口元気の決定的チャンスにつながった。
攻撃だけではなく、守備でも、とてもハイレベルなプレーを魅せた。たまにアルビレックスが繰り出してくるカウンターを、とても効果的に潰せていたんですよ。前半は・・ネ・・
でも、結局レッズが実際に奪ったゴールは一つだけ(前半11分)。逆に、アルビレックスにラッキーな同点ゴールを決められちゃうのですよ(前半29分)。フ〜〜・・
とはいっても私は、レッズ前半のサッカーの内容から、(ミハイロ・ペトロヴィッチ同様に!?)後半のゲーム展開をポジティブにイメージしていた。このままの流れを維持すれば、追加ゴールを奪って勝ち切れるに違いない・・ってね。でも実際は・・
そう・・、冒頭で紹介した黒崎久志監督のイメージ通り、後半のアルビレックス守備は、見違えるほど堅牢になったのです。
マルシオと柏木陽介をしつこくマークする(安易にボール奪取アタックを仕掛けず、粘り強くマークしつづける・・)守備的ハーフコンビだけじゃなく、レッズのトップ選手(まあ・・原口元気)をマークする選手の他に、常に一人余らせたり、忠実で柔軟なカバーリングや協力プレスもうまく仕掛けていくなど、その機能性は、前半とは段違いだった。
アルビレックスが展開した高機能&超忠実ディフェンス。レッズの攻撃が、ことごとく潰されてしまうのも道理だった。パスは回るけれど、肝心な最終勝負シーンで効果的なシュートシーンを作り出せない。
また、シュートまで持ち込めても、最後の瞬間には常にアルビレックス選手の「足」が出てくるのも後半の特徴的な「現象」だった。要は、ウラの決定的スペースを十分に攻略できていなかった(十分にフリーになれていなかった)っちゅうことです。これでは、ホンモノの決定機とは言えない。
もちろん、後半33分だったっけ(!?)、タテの決定的スペースへ抜け出す宇賀神友弥へのマルシオ・リシャルデスからのスルーパスが通ったシーンは、まさに決定的だった。そこでは、アルビレックス守備ブロックが、完璧に「ウラの決定的スペース」を攻略された。
自分の背後の決定的スペースを攻略されちゃったんだからね、アルビレックス守備陣は、必死にボールを追うしかない。だから、派生的に、(パスレシーバーの)原口元気が完璧にフリーになった。でも原口元気は、肝心のシュートを、相手が伸ばした足に止められてしまう。頭を抱えるミハイロ・・
このシーンでは、(このゲームでは全体として良いプレーを展開した)原口元気を責めるよりも、アルビレックス守備に対して拍手を送るのがフェアだよね。とにかく、後半のアルビレックス守備は、ものすごく強い「意志と集中力」に支えられていた。
そして、だからこそ、次のカウンターにも、物理的&心理・精神的なパワー(要は、意志のチカラ)が乗っていく。
確信のパワーを放散するカウンター攻撃だからね、流れのなかで、常にスペースへ積極的に突っ込んでいくのも道理。そこでは、レッズ守備陣が振り回され、カバーリングが後手に回るシーンも続出していた。とにかく、アルビレックスが作り出した(カウンター)チャンスの量と質は、レッズに優るとも劣らなかったよね。
ということで、全体的には、まあ、順当な引き分けだったとするのがフェアな評価でしょうね。もちろん、「タラレバ」的なニュアンスも含めれば、レッズに軍配が上がるけれど・・ネ。
さて・・ここからは、個人に対するコメントを軽く・・
まず、鈴木啓太。とても、とても良かった。守備的ハーフとしての本来ワーク(汗かきのチェイス&チェックや、カバーリング、集中プレス・・などなどのディフェンス)は言うに及ばず、攻撃でも、中盤と前戦をつなぐリンクマン的な(創造的な)仕事など、このところ、とてもハイレベルに安定してきていると感じる。
しっかりとしたトラップ&ボールコントロール。決して蛮勇をふるうのではなく、あくまでも安定した「つなぎプレー」に徹する姿勢。そしてたまには、見事なサイドチェンジパスや、ウラ取りのロングスルーパスまでも決めちゃったりする。
その攻守にわたる高機能プレーは、どちらかと言ったら「前気味のリベロ」的な役割に徹する阿部勇樹との役割分担的な意味合いでも、とても効果的だと感じますよ。いいね・・
原口元気。
この試合でも、攻守にわたって、ボールがないところで「も」、しっかりと仕事を「探しつづけて」いた。頼もしい。もちろん、まだまだの部分も多いけれど、とにかく彼の場合は、「姿勢&意志」そのものをアップさせることが、とても大事だからね。その意味で、このところ彼が魅せつづけている、攻守にわたる「積極的なプレー」に舌鼓を打っている筆者なのです。
ところで、ミハイロ・ペトロヴィッチ。質疑応答が済んだとき(私も二つほど質問しちゃった・・)、こんなニュアンスのユーモアが口をついた。
「もう質問ないの〜?・・いまのランキングは期待を裏切るモノだけれど、それはどうして?・・とか・・どんな質問でも受けるよ〜・・」
だから思わず、「あっ・・それそれ・・それがいいな・・その質問を返してみてくれませんか?」なんて、コミュニケーターも兼ねているコーチの杉浦大輔さんに頼んでしまった。
ちょっと、ギョッとしたミハイロ・ペトロヴィッチ。でも、まったくイヤな顔せずに、例によって真摯に、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。曰く・・
・・サッカーでは現実(事実)をしっかりと把握し、分析することが大事・・昨シーズンまでのレッズは、凋落ベクトルにはまっていた・・だからわたしは、まず凋落を止め、発展ベクトル上にチームを戻す作業に取り組まなければならないと考えていた・・
・・サッカー内容は、皆さんも(サポーターの方々も含めて)ご覧になった通り、徐々にアップしてきている・・ただし、まだまだ時間は掛かる・・その現実をしっかりと認識することが大事なんだ・・もちろんそこでは、常に、よりベターな内容と結果を求め続けなければならない・・とにかく、これからも、選手たちの上昇志向をモティベートできるように全力を尽くすよ・・
腰が悪いミハイロ。それでも、最後まで真摯に、ユーモアたっぷりに受け答えしていた。彼もまた、とても優れたパーソナリティー(ストロングハンド)ということだね。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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