湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2012年5月19日、土曜日)

 

ゲーム運びと攻撃のバリエーションというテーマ・・(RvsSP、1-0)

 

レビュー
 
 今日のゲームは、とても、とても興味深いテーマが山積みだった。

 チャンスの量と質なども含むゲーム内容としても、レッズの順当勝ちとするのがフェアな評価だけれど、残り20分を切ってから、一人足りなくなったエスパルスが、まさに脇目も振らないダイナミズムで(150%のエネルギーをブチかますように!)同点ゴールを奪いにきた迫力とサッカー内容は、賞賛に値する。それも、一人足りないにもかかわらず・・

 その時間帯のレッズは、10人のエスパルスに押し込まれ、ピンチに陥る場面もあった。だから思った。もう少し余裕をもってエスパルスの勢いを受け止められなければいけないのに・・

 疲れているのはお互い様。エスパルスが、一本調子のリズムで「前へ、前へのパワープレー」をブチかまして来ているのだから、レッズは、もっとクレバーにエスパルスの仕掛けの流れを「寸断」できたはず。要は、レッズ守備陣は、チェイス&チェックと次のボール奪取プロセスを、もっと上手くマネージできたはずだと思うわけです。

 なんたって、後半9分からは、11人対10人のゲームになったわけだからね。だからこそ(特に守備での!)汗かきハードワークを、もっとしっかりと機能させなければいけなかった。一人多いからこそ、肝心なところでのハードワークが、殊の外、大事になってくるんだよ。それさえ忠実に機能させられれば、より確実に、相手の仕掛けの勢いをマネージでき、エスパルスの次元を超えたダイナミズムを、もっと効率的&効果的に抑制できたはずなのです。

 まあ、後からビデオで確認すれば明確になるだろうけれど、とにかく、サボッちゃダメな場面で(特に守備において!)足を止めてしまうレッズ選手が目立っていたんだよ。

 忠実なチェイス&チェックをベースに、攻め上がってくるエスパルス選手の「2人目」までをマークすれば、難なくボールを奪い返せるのに、「もうちょっとの意志」が足りず、エスパルスにスペースへ攻め込まれちゃう。

 「あの」最後の時間帯での攻防には、とても興味深いエッセンスが満載だった。もちろん、レッズにとっての貴重な「学習機会」としてね・・。そう、イレギュラーするボールを足で扱うサッカーは、ホンモノの意志の(だからこそ自由な!)ボールゲームということなのです。

 まあ、そのディスカッションはここまでにして、次のテーマへ入りましょう。それは、ホームゲームであるにもかかわらず(見た目には!)ディフェンスを固めたレッズ・・という視点。

 最初のころ私は、サッカーでは日常茶飯事のグラウンド上の現象かな・・と思っていた。要は、ゲームの立ち上がりから積極的にボール奪取勝負を仕掛けていくエスパルスがゲームを支配しているのに対し、レッズは、より(注意深く)安定したサッカーを心がけてゲームに入っていこうとしている・・という展開。

 私は、まあ・・そんなゲームへの入り方もあるさ・・ってなことを考えていた。ただ時間の経過とともに、ゲーム展開の見方が変わっていった。要は、レッズが、とても注意深くディフェンスブロックを安定させることを第一義的ミッションにしていると感じられはじめたのです。

 明らかにレッズは、エスパルスの両サイドハーフ(大前元紀と高木俊幸)がコアになったサイドゾーンからの仕掛けを「まず」抑えようとしている・・!? ホントに、そうだ。

 それほどレッズは(何としてもホームゲームに)勝ちたかった・・そして、だからこそレッズは、エスパルスのサイド攻撃を警戒し、まず「そこ」を潰すことからゲームに入っていった・・!?

 まあ、そういうことだったんだろうね。もちろんミハイロ・ペトロヴィッチのことだから、ガチガチのゲーム戦術で選手たちの自由を奪うはずがない。要は、「今日は、絶対に勝つぞ・・そのためには、エスパルスのサイド攻撃をまずしっかりと抑えよう・・そして、それをベースに自分たちのサッカーを仕掛けていこう・・」ってなことだったんだろうと思う。

 そして、そんなレッズ選手たちの「ゲーム展開イメージ」が基になってゲームの構図が自然と決まっていった。積極的に攻め上がりつづけるエスパルス。それに対し、しっかりと守り、カウンターや一発ロングの仕掛けで(効率的に!?)ゴールを狙うレッズ。

 そして、そんな思惑がピタリとツボにはまっちゃうんだからサッカーは面白い。ほとんどチャンスらしいチャンスを作り出せないエスパルスに対し、レッズは、蜂の一刺し的なカウンターや一発ロングパスやサイドチェンジパスから何度も決定的なチャンスを作り出してしまうのですよ。

 何本あっただろうか、流れのなかからボールを奪いかえし、そのボール奪取の勢いそのままにエスパルスゴールへ向けて突き進んでいくカウンターシーンが。

 特に槙野智章が目立っていた。相手フォワードを追いかけ、かなり「高いポジション」でボールを奪い返した槙野智章が、そのまま勢いを落とすことなく直線的なドリブルで攻め上がっていく。もちろん彼だけではなく、永田充や阿部勇樹にしても、タイミングが合えば、まさに後ろ髪を引かれることなく、攻撃の最終ゾーンまで飛び出していく。

 もちろん、周りの味方は、「タテのポジションチェンジ」をしっかりと機能させるために、「次」に備えて守備のバランスを取る。とても上手くオーガナイズされた「チームワーク」だった。

 ということで、二つ目のテーマは、試合の意味合いに応じて、さまざまなゲーム戦術をクレバーに、そして効果的に「組み合わせられる」レッズ・・ってなことでしょうかね。

 最後に、もう一つテーマをピックアップしましょう。

 それは、とても効果的に機能した一発ロング勝負パスと、相手守備ブロックの背後の「決定的スペース」まで攻略しちゃう、とても効果的なサイドチェンジ勝負パス。

 そのことについて、ミハイロ・ペトロヴィッチに聞いた。

 ・・人とボールが動く組織コンビネーションサッカーは、いまのレッズを象徴するチーム戦術だと思う・・ただ、このゲームじゃ、一発のロングパス(特に永田充からのロングは正確で効果的だった!)や、相手守備を一方に偏らせてから繰り出す、決定的スペースまでも攻略しちゃうサイドチェンジパスが、とても効果的に決まっていた・・

 ・・特筆だったのは、一発ロングを出すとき、最前線のパスの受け手「も」忠実にスタートを切っていたことだ・・まさに、トレーニングの成果・・ミハイロさんは、組織コンビネーションと、最短距離の一発勝負パスを、しっかりと効果的にミックスさせようとしていると思うのだが・・

 またまた長くなった。それに対してミハイロが、京都サンガ監督、大木武さんを例に、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。曰く・・

 ・・2006年にちょっとしたセンセーションを巻き起こしたヴァンフォーレ甲府を率いていた大木武さん・・いまは京都サンガの監督をしている・・その彼の甲府時代は、素早い(ダイレクトの)ショート&ショートを徹底的に繰り返す(ショート)パスサッカーを魅せた・・ただ、やはりそれだけじゃ、大きな成果を得ることはできない・・相手も、そのサッカーを予想して対策を練ってくるからね・・

 ・・でも、今の京都サンガでは、ショート&ショートのコンビネーションだけじゃなく、そこに効果的なロングパスも組み合わせている・・やはり、「それだけ」というのでは成果を得ることはできない・・サッカーでは変化が大事だからな・・いくつもバリエーションを持ち、相手も、どれを繰り出してくるのか分からないとなったら、とても効果的に仕掛けていけるだろ・・それだよ、サッカーは・・

 そうそう、サッカーは、だまし合いのボールゲームだからね。攻撃における、もっとも大事なコンセプトは、何といっても「変化」なんだよ。その「変化」を司るバリエーションを、いかに多く用意できるのか「も」強さのバックボーンということだね。

 前述した、今日のゲームの「やり方」にしても、チーム戦術的なバリエーションだからね。フムフム・・

 ということで、これからは、ショート&ショートのコンビネーションだけではなく、状況に応じて、大きなサイドチェンジパスや一発ロングスルーパスまでも飛び出してくるような、変化に富んだレッズの仕掛けに期待しようじゃありませんか。あっと・・ゲームのやり方のバリーションも含めてネ。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。