湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2012年5月20日、日曜日)

 

このゲームの主役は、鳥栖ディフェンスだった・・(FCTvs鳥栖、3-2)

 

レビュー
 
 「やっぱり、ゲームを支配して攻めている方のチームが負けるのはよくない・・サッカーの発展のためにもネ・・今朝のチャンピオンズリーグ決勝では、あれほどゲームを支配し、チャンスも作り出したバイエルン・ミュンヘンが負けたけれど、サッカーにとってよいことじゃない・・」

 ゲーム終了後の記者会見。FC東京のランコ・ポポヴィッチがそこまでコメントしたところで、無意識のうちに、プログラムで椅子を叩いていたっけ。もちろん、そんなに大袈裟なアクションじゃなかったから、ポポのコメントを邪魔したりはしなかったと思うけれど、とにかく、ポポの発言に過剰反応してしまった。

 皆さんもご存じのように、「あの」バイエルン・ミュンヘンが、ミュンヘンのスタジアムで行われたUEFAチャンピオンズリーグ決勝で苦杯を喫したのですよ。

 もちろん、チェルシーの(我慢の!?)ゲーム戦術が優っていたという見方も出来るだろうけれど、それならば、押し込まれていても、バイエルンにチャンスらしいチャンスを作らせないという展開じゃなければ、観ているこちらは納得しない。

 とにかく、あれほどゲームを支配し、PKも含めて何度も決定的チャンスを作り出しつづけたバイエルン・ミュンヘンが、最後はPK戦で負けちゃうんだから・・。ホント、この頃は、プレミアの最終節も含めて、そんな「神様ドラマ」がつづいている。ホント、疲れる。

 あっと、またまたハナシがわき道に逸れちゃった。ということで、FC東京対鳥栖・・

 このゲームのプロセスについては、他のサイトを参照してください。とにかく、FC東京が、ものすごくドラマチックな大逆転劇を完遂したんですよ。それも、交替出場した渡辺千真がハットトリックを完成させてネ。出来すぎ・・!?

 でもここでは、そんなドラマチックなゲーム展開とか、FC東京が魅せた「自分たちのサッカー」についてではなく、鳥栖のスーパー守備に特化したコラムを書くことにした筆者なのです。

 とにかく、彼らのディフェンスには感動さえ覚えた筆者だったのです。ここまでの失点数でダントツのトップというのも頷(うなづ)ける。

 そんな鳥栖の組織ディフェンス・・

 ポジショニングバランス・オリエンテッドな組織ブロック作りで、相手(FC東京)の攻めを受け止める。たしかに守備に人数は掛けるけれど、決して下がって(リトリートして)受け身に守るってな低次元のディフェンスじゃない。

 彼らは、まず、相手のボールを、できるかぎり自分たちのイメージ通りに「誘導」しようとするんですよ。そう、主体的なディフェンス。それがうまくいかなくても、例によっての忠実なチェイス&チェックを基盤に、ボールの動きを止めて追い込んでいく。

 そして同時に、周りの味方も、有機的に連鎖するような効果的アクションを繰り出しつづける(機能的な組織ディフェンス)。そう、彼らは、どこでボールを奪いかえすのかという具体的なイメージを共有しているのですよ。素晴らしい・・

 もちろんFC東京が、タテへ仕掛けのパスを出した状況でも、すぐさま「スイッチ」が入る。

 ボールへいく者、周りでマークする者、インターセプト狙いでパスコースに入る者、チェイス&チェックした仲間へのサポートや協力プレスを掛ける者・・等など・・

 そんなアクションが、とても美しく、スムーズに、そして俊敏に「有機連鎖」を魅せつづけるのです。もちろん、もし相手が、逆サイドへ展開したり、バックパスで逃げたりしたケースでは、再びポジショニングをバランスさせるように組織を作り直す。

 鳥栖が魅せつづけた、そんな想像力に富んだ「動きの集散」は、ホント感動モノだったネ。

 ポジショニングバランス・オリエンテッドな組織作りと、組織全体として相手のボールの動きを「読んだ」効果的な対応を魅せる鳥栖ディフェンスブロック。そして、スイッチが入ったとたん、瞬間的にポジショニングバランスを「ブレイク」して勝負を仕掛けていく。

 本当に、素晴らしく統率のとれた組織ディフェンス。だから、鳥栖のユン・ジョンファン監督に、こんなニュアンスの質問を投げた。

 「今日は、(ツキに見放されて!)こんな結果になってしまったが、鳥栖が展開したディフェンスは、本当に素晴らしかった・・たぶん、その守備については、すでに語り尽くされていると思う・・でも、敢えて聞くのですが、あのような素晴らしい組織ディフェンスを機能させるうえで、もっとも重要になってくる要素とは何ですか??・・一つだけ、集約したモノをお聞かせください・・」

 あくまでもクールなユン・ジョンファン監督。それでも、とても真摯に、こんなニュアンスの内容を短くコメントしてくれた。

 「そこで大事になってくる要素には、本当に様々なモノがあると思います・・例えば、ボールに対する動き(アクションの内容)は、状況によってどんどん変化していくとかネ・・ただ、突き詰めたら、互いに同じイメージを共有するという要素に集約されるだろうか・・」

 いや、ほんと、素晴らしいコメントでした。この指揮官にして、あのスーパーディフェンスあり・・ってな感じだね。

 基本的に守備は受け身だよね。でも、周りの味方が、追い込みとボール奪取ポイントについて同じイメージを描写でき、そこに「あうんの呼吸」があれば、まさに協力作業として、意図的に相手のボールの動きまでもコントロール出来るレベルまでいっちゃうよね。

 その意味で、基本的には受け身のディフェンスでも、やり方(チームの守備戦術の内容と、選手の意志)によっては、とても面白く、楽しいモノになるんだよ。鳥栖のディフェンスは、そんな原則的なディフェンスのメカニズムを思い起こさせてくれた。

 そのことについて、大逆転劇を完遂させたFC東京のランコ・ポポヴィッチに聞いた。

 「ポポさんは、鳥栖とは、昨シーズンから何度も対戦していますよね・・だから、彼らの素晴らしいディフェンスについては、よく分かっていると思う・・たしかに、おっしゃるように、何度かは鳥栖ディフェンスを振り回してチャンスを作り出しましたよね・・でも、あれ程ゲームを支配していたことを考えれば、逆に、攻めあぐんだとも表現できる(ランコ・ポポヴィッチは、ここまで通訳されて頷いていたよ)・・ということで質問ですが・・そんな強力な守備ブロックを崩していくためには、何が最も効果的だと思われているのだろうか?」

 「たしかに鳥栖のディフェンスは、とても創造的で強力だ・・それは疑いようのない事実だ・・この試合でも苦労させられた・・そんな強力ディフェンスを崩していくために、もっとも大事なモノ?・・それは、何といっても、自分たちのサッカーをつづけることだよ・・この試合でも、最後の最後まで自分たちのサッカーを仕掛けつづけたことが結果につながったと思っているよ・・」

 ナルホド、ナルホド。たしかにラッキーゴールもあったけれど、FC東京も、最後の最後まで「自分たちのサッカー」を仕掛けつづけ、そして結果につなげた。まあ、継続こそチカラなり・・。だからこそ、仕掛けイメージが上手くシンクロする場面を、何度も作り出せたということか。

 そうなったときのFC東京の仕掛けは破壊的なチカラを発揮するけれど、それでも鳥栖ディフェンスは、最後まで、崩れることのない立派なプレーで、そのダイナミズムを受け止めていた。

 だからこそ私は、このゲームのメインアクターは、鳥栖ディフェンスだったと主張するわけです。ゴメンね、ランコ・・でも勝ったからいいだろ?・・あははっ・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。