湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第16節(レポート発表は、2012年7月1日、日曜日)

 

内容ではゲームのイニシアチブを握ったけれど・・(CvsR、 1-1)

 

レビュー
 
 ビデオ(HD)を観はじめて、すぐに、「何だ・・このカメラワークは・・」なんて怒りの声が出た。

 前半2分、最後方でボールを持った槙野智章から、最前線で、決定的スペースへ飛び出した(そうに違いない)原口元気へ、一発のウラ突きロングフィードが 送り出された。最後は(原口元気が)オフサイドになってしまったけれど、このシーンが、この試合のカメラワークを象徴していた。

 槙野智章がロングフィードを送り込もうとしていたのは明白なのに、カメラが「寄り過ぎ」で、槙野智章「しか」捉えていなかった。。だから、最前線での、原口元気とセレッソ守備陣との「ボールがないところでの駆け引き」が、まったく観られなかった。アタマに来た・・

 この数年、「J」のカメラワークについては、もう何度も苦言を呈してきた。カメラが「寄り過ぎ」。また引いても、ボールを画面の中心に置いていること で、ボールがないところでのドラマをうまく確認できない。「引く」ならば、ボールの動きを予想して、「その先」まで見わたせるような画面作りをしなけれ ば・・それに、ボールの動きに合わせて、急激にカメラを「ぶん回す」ものだから、観ている方も疲れる・・これって、カメラマンが自分の技術を自慢したいだ けなのか〜!?・・ってね。

 たぶん現場のディレクターとカメラマンのコンビの映像作りコンセプトが原因なんだろうけれど・・

 彼らは、サッカーの「見方」を知らない・・というか、サッカーには興味がないし好きじゃない!?

 今回の「EURO」を観たらいい。そこでのカメラマンやディレクター諸氏は、サッカーの基本はパスゲーム・・だから、ボール周りだけじゃなく、ボールが ないところでのドラマ「にも」注視しなきゃ、「サッカーのエキサイティングドラマ」を半分も観ていないことになる・・っちゅうメカニズムを、しっかりと理 解しているんですよ。

 今はもうハイビジョンの時代でしょ・・。そのアドバンテージの本質に逆行するようなカメラワークに閉口する。だから、「どうして彼らは・・」なんていう疑問が湧(わ)いてくる。

 そのまま引きっぱなしでもいいじゃありませんか。何せ、一方でボールがシンプルに動いていても(何か起きそうな感じがなくても!)、他方のボールがない ところでは、互いの「意志とイメージ」が交錯しつづけているわけだからね。ホント・・カメラ・・引きっぱなしでいいんじゃないの!?

 とはいっても、このゲーム「も」レポートしたい。だから、仕方なく観つづけた。それにしても、この、「半径10から20メートルの映像作り」は一体、何なんだ!? フ〜〜、アタマにくる・・

 どうも観戦モティベーションを殺がれ気味だったことで、何となく、気もそぞろになってしまったという体たらくだったんですよ。フ〜〜・・

 ということで試合の内容に入っていくわけだけれど、ゲームの(勝敗の行方を決めるゴールの!)展開からは、まだ「あまり」影響を受けていなかった「前半 のサッカー内容」を中心に分析するのがいいね。そこでは、チーム戦術コンセプトというニュアンスも含めて、互いの(かなり実態に近い!?)実力がぶつかり 合ったわけだから。

 要は、時間の経過とともに、両チームとも「ゲームの勝ち負け」を意識しはじめ、そのプレー内容も徐々に変容していったということです。

 ということで、(鈴木啓太のスーパーコンビネーションゴールが決まってからのゲーム展開も含めた!?)前半のサッカー。先制ゴールが決まってからは、もちろんセレッソも、より「前へ」行ったわけだからね。

 そこでは、ディフェンスでの組織的な機能性や個のチカラ(局面でのボールをめぐるせめぎ合いの内容)だけじゃなく、(攻撃での)仕掛けプロセスにおける様々な「変化」という視点でも、レッズに一日以上の長ありだった。

 攻守にわたる組織サッカー・・という基本はそのままに、ショート&ショート&ロングといったパスのリズムの変化や、大きなサイドチェンジや一発ロングスルーパスなども含め、ボールの動きに変化がある。それも、とても正確でタイミングもいい。

 いつも書いているけれど、ミハイロ・ペトロヴィッチは、良い仕事をしている。これで、もっと3人目や4人目の動きが、ボールの動きと「効果的に交錯」するようになれば鬼に金棒だね。

 特に、マルシオ・リシャルデスと柏木陽介のプレー内容が素晴らしい。

 ミハイロ・ペトロヴィッチは、彼らに、「自分たちが欲しい自由」を与えたんだよ。だからこそマルシオも柏木陽介も、より積極的に、そして効果的に、攻守にわたるハードワークにも取り組んでいる。

 この、自由を与えることによって「プレー内容を活性化するというマネージメント」は、難しい。

 人間は、基本的に怠惰なモノだからネ。だからコーチ(監督)は、その選手の「人となり」を正確に判断しなければならない。もちろん「この二人」は大人だ ろうから、監督からの全幅の信頼を「感じてもらえ」さえすれば、常に120パーセントの汗かきプレーも厭(いと)わないでしょ。

 まあ、その視点で言えば、チーム全体が(現在の主力プレイヤーたちは)ミハイロ・ペトロヴィッチを信頼していると思うよ。だからこそ、彼ら自身の(プロとしての)プライドという意味合いも含め、常に主体的に全力を傾注するんだ。

 もちろんそれは、彼らが「大人」である(本物のプロフェッショナルである)ということの証明でもあるわけだけれど、だからこそ、そんなポジティブな「ス ピリチュアル・エネルギー」が、まだまだ自分勝手な若手にとっての「この上ない刺激」として機能してくれることを願います。

 ところで、後半ロスタイムに飛び出した、セレッソ柿谷曜一朗の同点ゴール。

 後半は、「行く」しかなくなったセレッソがイニシアチブを握る時間帯も多くなり、何本もシュートを放ったわけだけれど、ただ本当の意味で「決定的」とい うチャンスは限られていたね。そこでも、どんどんと高みで安定するようになっているレッズ守備の「強さ」を体感できた。でも・・

 もちろんミハイロ・ペトロヴィッチが言うように、(前半も含めて)何度もあった追加ゴールへの決定的チャンスを決め切れなかったツケを支払わされた・・ということも言える。

 このシーンでは、キム・ボギョンのシュートを、レッズGK加藤順大がファンブルすることを予想してスタートを切り、そのこぼれ球を、まさに才能っちゅうトラップでコントロールした柿谷曜一朗の「忠実な反応」に拍手を送るしかないね。

 とにかく、成長をつづけるレッズの今後に「も」大いに期待しましょう。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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