湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第20節(2012年8月4日、土曜日)

 

(FC東京の)選手交代の妙・・また、進化を続けるレッズというテーマも・・(RvsFCT、 2-2)

 

レビュー
 
 この後、オリンピック男子サッカーも観なければならないので、とにかくポイントだけ、簡単にまとめさせてください。ということで・・

 ・・立ち上がりから、宇賀神友弥がブチかました「神がかりキャノンシュート」が決まるまでの10分間・・そのゲーム内容が興味深かった・・両チームともに、アクティブに仕掛け合ったからね・・

 ・・そこでは、もちろん感覚的な評価だけれど、スペースを攻略してチャンスを作り出すというプロセスの量と質で、レッズに一日の長があった・・と思う・・

 ・・だから、宇賀神友弥の「神がかりゴール」は、そんなゲームの流れからすれば、まあ、ロジックな帰結だったとも言えそうだね・・

 ・・その後は、もちろんFC東京が積極的に攻め上がっていく・・そして、ガンガン、シュートも打つ・・でも、どうも、そのシュートまでのプロセスが問 題・・要は、しっかりとスペースを攻略したチャンスではなく、どちらかといったら「ゴリ押し」のシュートばかりなんだよ・・

 ・・そんな「前掛かり」のFC東京に対し、前半35分には、レッズが得意のカウンターを決めちゃうんだ・・ポンポ〜ンと軽快にパスが回り、最後は、右サイドに張っていた梅崎司の前方スペースへ(!)パスが送りこまれたんだ・・

 ・・こうなったら、後は、梅崎司の才能プレーが光り輝くしかない・・ダイナミックなドリブル勝負から、最後は、マルシオ・リシャルデスへのグラウンダー クロスが、ピタリと決まった・・そんな理想的なラストパスだからね、マルシオが「ゴールへのパス」を決めるのも当然・・美しいゴールだった・・

 ・・そして、FC東京の前への勢いがもっと加速する・・でも、やっぱり、何か、うまくいかない・・

 ・・多分それは、彼らのボールの動きが、ショート&ショート&ショート・・ってな単調リズムになっていたからなんだろうね・・それに、そのパスにして も、決定的スペースへ抜け出していく(パスを呼び込むような決定的フリーランニングを敢行する!)選手がいないから、どうしても、レッズ選手たちの眼前で のボールの動きになっちゃう・・

 ・・これじゃ、レッズ守備にとっても怖くない・・ただFC東京は、何度失敗しても、めげることなく、人数を掛け、どんどんと攻め上がり、チャレンジしつづけるんだ・・その粘り強い積極的な攻撃姿勢にはシンパシーを感じたね・・

 ・・前半はそんな展開だったけれど、後半に入ると、俄然、エキサイティングにゲームが成長していくんだ・・そう、FC東京の選手交代・・

 ・・渡辺千真を下げ、右サイドバックの中村北斗をグラウンドへ送り出すランコ・ポポヴィッチ・・これで、それまでセンターバックに入っていた高橋秀人が 守備的ハーフに上がり、長谷川アーリアジャスールとルーカスが、それぞれ「一つずつ」基本ポジションを上げた・・フムフム・・

 ・・でも、後半の選手交代のハイライトは、何といっても、FC東京のエース梶山陽平の登場だったね・・

 ・・その選手交代によって、明らかに、FC東京の「仕掛けのプロセス」に一味加わったんだよ・・

 ・・そう、梶山陽平によって、タメやシンプルなボールの動き(鋭いワンツーからのコンビネーションなどもネ!)、はたまた相手のスキを突く一発スルーパス等など、FC東京の仕掛けに「明確な変化」が演出されるようになったんだ・・

 ・・そして梶山陽平が登場した2分後には、FC東京が、追いかけゴールを決めちゃうんだよ・・これで「2-1」・・そこからのFC東京は、もう、イケイケドンドン・・

 ・・積極的に攻め上がり、シュートをガンガン打つFC東京・・それも、あきらかに「それまで」よりも、その危険度は増幅しているんだよ・・スタジアムの誰もが、そんな雰囲気の変化に、手に汗握るようになったはず・・もちろん私もネ・・

 ・・後半27分にFC東京が奪った同点ゴールだけれど、それは、まさしく「自分たちで積極的に奪い取ったロジカルな果実」だったね・・わたしは、納得していた・・

 ・・そして「そこ」からの残り15分も、エキサイティングな展開になった・・

 ・・FC東京は、元レッズのエジミウソンを投入し、レッズのミハイロ・ペトロヴィッチは、田中達也を投入する・・そしてゲームは、両チームともに秘術を尽くしたギリギリのせめぎ合い・・ってなことになったわけだ・・

 ・・そして、全体的なゲームの流れからすれば、まあ、フェアな引き分け・・ということになった・・

 ・・その他に気付いたポイント・・

 ・・レッズが繰り出す、ショート&ショート&ロングというボールの動き・・それが、どんどん洗練されていると感じる・・

 ・・特に、ショートパスをつないでから繰り出す、逆サイドでオーバーラップを仕掛けたサイドバックへの「大きなダイアゴナル(斜めの)サイドチェンジパス」がとても効果的だった・・

 ・・何度、その一発ダイアゴナル・サイドチェンジパスで、宇賀神友弥や平川忠亮が、フリーでドリブル勝負を仕掛けていけたことか・・

 ・・このところ、そんな大きな勝負展開(ボールの動き)が、とても目立つレッズなのです・・それもまた、ミハイロ・ペトロヴィッチの功績ということだね・・

 ・・あと、柏木陽介の不在・・

 ・・たしかに梅崎司は、良いプレーをした・・ゴールもお膳立てしたし、その他にも何度もチャンスを演出した・・でも、攻守にわたって積極的にハードワークを探しつづけるという意志のポテンシャルという視点では、(梅崎司は)まだまだだと感じた・・

 ・・ということで、この試合でのレッズ最前線には、そんな、限界までハードワークを探しつづけるというプレー姿勢(イメージと意志のコラボレーション)に課題を抱える原口元気と梅崎司が、重なってしまったんだよ・・

 ・・誤解を避けるために繰り返すけれど、この2人は、それなりに、自分たちの特長と強みを前面に押し出す積極的なプレーは展開したよ・・でも、様々なタ イプのプレイヤーが相乗効果を発揮するような「ホンモノの組織サッカー」のポテンシャルをアップさせるという視点じゃ、最前線に「同じようなタイプの個の プレイヤー」が2人いたことで、やっぱり課題の方が先に立ってしまった・・

 ・・ちょっと微妙なテーマだね・・

 ・・まあ今日は、こんなところです・・これからオリンピック(日本U23代表vsエジプト戦)を観なければならないので・・悪しからず・・


===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]