湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2012年10月6日、土曜日)

 

今節も、2試合を簡単にレポートします・・(マリノスvsサンフレッチェ、0-0)(レッズvsコンサドーレ、1-2)

 

レビュー
 
 それにしても強いネ〜、サンフレッチェ。

 この試合でも、いかんなく、リーグトップに君臨するバックボーン(根拠)を魅せつけた。

 素晴らしく創造的で忠実、そしてダイナミックな守備。決して、全体的に下がって人数を掛けるなんていう低次元のディフェンスではなく、あくまでも、相手 の「次」を正確に予想して、そこで(高い位置で!?)潰しちゃうんだ。その強い守備は、インプレッシブなコトこの上なかった。

 そして、それを基盤に繰り出していく、危険きわまりない一発勝負。聞くところによると、サンフレッチェがブチかますピンポイント勝負のことを「The 広島」って呼ぶんだってさ。ナルホド〜・・

 そのスーパースターは、言わずと知れた、佐藤寿人。ホントに、ものすごく危険なヤツだよ。

 試合の全体的な流れだけれど、たしかにマリノスが(ボール保持という意味合いで)イニシアチブを握っているように見えてはいた。でも実は、そんなゲームの流れ(勘違いした相手が、攻撃により人数を掛けちゃうこと!?)こそがサンフレッチェの「十八番」だったりするんだ。

 守備に絶対的な自信をもっているサンフレッチェだからね、マリノスの攻撃を、まさに余裕綽々(しゃくしゃく)で受け止めちゃう。

 そして、素早い攻守の切り替えから、チャンスを見出したら誰でも、積極的に押し上げていくんだよ。だからサンフレッチェの攻撃には、いつも十分な人数がいる。

 「それでも」次の守備での、人数やポジショニングのバランスが崩れることがない。

 そのベースは、素早く効果的な攻守の切り替えと、危急状況でブチかまされる、まさに全力の「戻りアクション」。そう、強烈な闘う意志。

 もちろん、局面でのボール奪取勝負にも長けているし、そこでのボールをめぐる競り合いでも、とても力強くクレバーな闘いをブチかましつづける。彼らの失点数がリーグトップクラスなのも頷(うなづ)ける。

 ところで、前述した「The 広島」。

 前半には、青山敏弘から、「唐突な感じ」の一発ロングパスが、マリノス守備ブロックの背後に広がる決定的スペースへ送り込まれた。そして誰もが「アッ!」と叫んだ。そう、サンフレッチェ十八番のピンポイント最終勝負。

 もろちん「そこ」には、佐藤寿人が走り込んでいるってなわけさ。

 このシーンでは、最後の瞬間に、戻ってきた青山直晃(!?)がボールに触ったことで事なきを得たけれど、それまでの(マリノスがイニシアチブを握っていると思われていた!?)雰囲気からすれば、まさに「唐突な感じ」の一発勝負だった。

 そして後半。その「The 広島」の危険度がどんどんヒートアップしていくんだよ。

 後半7分あたりだったろうか、サンフレッチェ左サイドから、ピンポイントクロスが送り込まれた。狙ったのは、佐藤寿人をマークするマリノスディフェン ダーの眼前スペース(まあ、そのディフェンダー目掛けてボールが飛んできたっちゅうこと!)。一瞬、そのディフェンダーの動きが止まる。

 そして最後の瞬間、そのディフェンダーの目の前を、佐藤寿人が横切り、クロスボールを最初にヘディングシュートしちゃったんだ。

 まさに、The 広島。素晴らしい破壊力のピンポイント勝負だった。

 そんなピンポイント以外にも、スルーパス攻撃あり、ドリブル突破あり・・と、サンフレッチェは、バリエーション豊富な最終勝負を仕掛けていく。そして、そんな仕掛けのどれを取っても、危険この上ないんだよ。

 最後の時間帯のマリノスは、もう防戦一方。ホームなんだぜ・・。タイムアップのホイッスルを聞いた多くの選手が、守り切れてホッとした・・なんていう表情を浮かべていたっけ。

 ホント、サンフレッチェはとても強い・・

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 次は、レッズと、降格が決まったコンサドーレとの一戦。

 結果は、皆さんが観られたとおり、とても残念な敗戦ということになった。

 もちろん、ミハイロ・ペトロヴィッチが記者会見で言っていたように、前半に作り出した何本かの決定的チャンスをモノに出来ていたら、試合展開はまったく違ったモノになったはず。でも、まあ、それも「タラレバ」にしか過ぎないからね。

 それにしても、前半30分あたりのマルシオのチャンスは惜しかった。彼は、自分で(忠実なチェイス&チェックが功を奏して!)ボールを奪い返し、そのま ま持ち込んでシュートした(でも数センチ右ポストを外れていった)。本当に素晴らしい一連アクションだった。でも・・結局はタラレバ・・

 ゲームを支配するレッズ。それでも、あまりにも、ボールがないところでの動きの量と質が低レベル。あれじゃ、コンサドーレ守備は、まったく怖くなかったに違いない。何せ、全てのレッズの仕掛けアクションが、自分たちの眼前で繰り広げられるんだから・・。

 ・・左右ゾーンからカットインしていく突破ドリブル・・そして(足を止めてワンのパスを待つ!?)中央の味方とのワンツー・コンビネーション・・

 でも、まったくといっていいほど、スペースを攻略できない(コンサドーレ守備の裏を突いていけない!)。そりゃ、そうだ。何せ、ボールがないところでの動きが活性化しないから、そのコンビネーションにしても、まさに「単発」に終始しちゃうんだよ。

 前線の「動き」が活性化すれば、少なくとも、相手守備ブロックのバランスを崩すチャンスが生まれる。そうすれば、3人目、4人目の動きで、そのスペースを攻略できるチャンスも増える。でも・・

 後半・・

 コンサドーレは、続けざまに、カウンターからチャンスを掴んだ。そして先制ゴールまでブチ込んじゃう。

 それだけじゃなく、そこからの10分間には、二度も、まさに決定的なチャンスを作り出した。この時点で、レッズが「0-3」という劣勢に立たされてもおかしくない展開だった。フ〜〜・・

 わたしは、ラジオ文化放送で解説をしていた。その立ち上がり、この試合について、こんなニュアンスの内容を語ったと思う。曰く・・

 ・・何も失うモノがなくなったコンサドーレ・・主力の外国人選手も、全員がケガで出場していない・・それに、この試合では、リーグデビューの若手が2人 も出場している・・もう、これ以上の悪材料はない・・でも、だからこそコンサドーレは、フッ切れた闘いを展開するに違いない・・

 ・・レッズもそのコトを警戒しているという報道が為されていた・・

 ・・たしかに、個人のチカラを単純総計した「チーム総合力」では、明らかにレッズの方が上・・また、技術的、戦術的なチカラでもレッズが上回っている「はず」・・

 ・・でも、その「差」は、レッズ選手たちが、まさに全力でハードワークを積み重ねてはじめて明確になってくるという性格のモノだ・・もし、そのハード ワークの量と質が十分ではなかったら、すぐにでもコンサドーレに(ゲームの流れの!?)イニシアチブを握られ、彼らに自信を与えてしまうだろう・・

 そして実際に、鈍重なサッカーを展開する(それでも見掛けではゲームの流れのイニシアチブを握っている!?)レッズが、ドツボにはまっていった・・っちゅうわけです。フ〜〜・・

 たしかに、あれほど守備を固める相手を崩していくのは簡単じゃない。でも、同じような攻め方を繰り返すのはバカげているし、相手もまったく怖くない。

 だからこそ、攻撃の変化が必要なんだよ。中距離シュートを続けざまなブチかますとか、たまには放り込みのロビングクロスを放り込むとか・・

 ロビング攻撃だけれど、最後の時間帯は、ヘディングの強い永田充を最前線に送り込んで欲しかったね。そして、ロビングを放り込みつづける。また、ミドルシュートも続けざまにブチかます。

 そんな「攻撃の変化」があれば、たぶんコンサドーレ守備ブロックも「もっと開いた」はず。そして、3人目、4人目の「ボールがないところでの動き」をベースにしたコンビネーションでスペースを突いていく・・

 とにかく、この試合は、とても歯がゆかった。でも、まあ、仕方ない。とにかく、レッズにとっては、「これから」が正念場だぜ。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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