湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2012年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第30節(2012年10月27日、土曜日)
- とても内容が良かったレッズだったけれど・・(レッズvsセレッソ、0-0)
- レビュー
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- ・・もしスギモトが、あの絶対的チャンスを決めて我々が勝利を収めたとしたら、それは妥当な結末とは言えないだろうな・・我々は、勝ち点1を持ち帰れたことを喜ぶべきだ・・
試合終了直前に、セレッソのストライカー杉本健勇がドリブルで抜け出し、レッズGK加藤順大と1対1という状況で、右足を思い切り振り抜いたんですよ。まあ、レッズファンの誰もが失点を覚悟したことでしょう。でもそのシュートが、加藤順大の正面に飛んでしまって・・
そのチャンスについて、セレッソのレヴィー・クルピ監督が、冒頭のようなニュアンスの「フェア」なコメントを残したというわけです。
まあ・・その通り・・
全体的なゲームの流れや、そこで作り出されたチャンスの量と質を比べれば、(試合を優位に進めていた)レッズがツキに恵まれなかったというのがフェアな評価だろうからね。
とにかく、ミハイロ・ペトロヴィッチも胸を張っていたように、この試合でのレッズは、とても、とても優れた(強く魅力的な)サッカーを展開したんだよ。
まあ、とはいっても、前半は、本当に拮抗した内容だった・・というか、セレッソ守備の強さが、とても目に付いた内容だった・・けれどね。
たしかに(その前半の)レッズは、全体的にゲームをコントロールし、イニシアチブを握った。でも、本物のチャンスの流れは、まったくといっていいほど作り出せなかった。
たまに、槙野智章や阿部勇樹がオーバーラップし、前線の味方とタテにポジションをチェンジしたときは、それなりの「チャンスの流れ」は見えてきたけれど・・
そう、やっぱり変化なんだよ、変化。攻撃のコンセプトでもっとも重要な発想が・・相手ディフェンスが予想できないような(相手の予想を超越するような)変化・・だからね。
でも前半は、そんな変化の兆しさえも、うまく芽生えさせられなかった。たしかに、前半終了直前には、前半唯一といっていい(内容からすれば、とても唐突な!?)マルシオ・リシャルデスのバー直撃シュートが飛び出したけれど・・。
レッズは、両サイドバック(ウイング・ハーフ)を高く保ち、前線トリオとの絡みで、サイドゾーンを起点に仕掛けていくというのが基本イメージ。
もちろん、素早く正確な「サイドチェンジ」を活用することで、そのサイドゾーンからの「仕掛けの実効レベル」を大きくアップさせるというチーム戦術も含めてネ。
この試合でも、タイミングのよい正確なサイドチェンジによって、サイドゾーンで1対1の状況を作り出し、何度も、梅崎司と宇賀神友弥が危険なドリブル勝負(シュート&ラストパス)をブチかませるチャンスを獲得していた。
そして、そんな危険な仕掛けの流れが、後半には、より危険度を増していったっちゅうわけです。
ガラリとゲームの様相が変わっていった後半。そう、お互いに、より積極的に仕掛け合うようになったんだよ。だからこそ、本当の実力の差が見えてきた・・というか、このゲームでのレッズの調子の良さが「より」目立つようになっていった・・!?
特にレッズが繰り出すカウンターからは危険な香りがプンプン匂っていたっけね。
そんなカウンターの流れには、チャンスを見出した誰でも・・本当に誰でも、参加していく(それもミハイロ・ペトロヴィッチの指示だよ!)。
前線トリオやサイドバックだけじゃなく、阿部勇樹、槙野智章や鈴木啓太、はたまた坪井慶介だって顔を出していく。そりゃ、迫力満点なハズだ。
そんな効果的カウンターを繰り出していけるようになったのは、セレッソが、より積極的に攻め上がっていったことで、彼らの守備ブロックが、(前半と比べて)ちょっと「開き気味」になったからに他ならない。
やっぱり、お互いに仕掛け合うエキサイティングサッカーは、見ていて楽しい。前半はアクビが出そうになっていた筆者も、後半は目が覚めた。
そんな優れたサッカーを展開したレッズだったけれど、結局はツキに見放された。とはいっても、今節は、上位3チームがすべて引き分けということになったから勝ち点差は変わらなかった(でも下からの突き上げは厳しくなってきた!?)。
まあ、残り4試合が勝負ということだね。とにかく、まだまだエキサイティングな日々は続く・・
ところで原口元気。全体としては、良かったと思いますよ。
たしかに前半は、茂庭照幸に抑えられてしまったけれど、より広いスペースを使えるようになった後半は、見違えるほどプレーが積極的に、そして効果的になった。コンビネーションの仕掛け人や駒としても、ドリブル勝負(相手へ突っ掛けていく仕掛けアクション!)でも・・
まあ、抑えられ気味だった前半でも、止まってパスを待つことの方が多かった以前から比べれば、格段に積極的に「タテパスを呼び込む上下動」を繰り返すようになったよね。
でも、まだまだ攻守にわたる「ハードワーク」が足りない。
チェイス&チェックにしても、柏木陽介がブチかますように、勢いに「メリハリ」を付けるんだよ。緩く「間合い」を詰めていったり、たまには全力パワーで相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に襲いかかったり。
また攻撃でも、もっともっと、味方に「使われるプレー」を繰り出していかなくちゃ。
そんな「使われるプレー」が出来るようになれば、自分が「使うプレー」の実効レベルは、もっとアップするはずだよ。そう、原口元気を「使った」チームメイトたちが、今度は、より積極的に「使われるプレー」を繰り出すハズだからね。
この、互いに使い、使われる(物理的&心理・精神的な)メカニズムに対する理解が深まれば、原口元気の才能は、確実に「本物のブレイクスルーのベクトル」に乗っていくはずなんだけれど・・
この日の彼のプレーぶりを見て、ちょっと楽しみになった筆者でした。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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