湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第33節(2012年11月24日、土曜日)

 

チト簡単ではありますが、今節も二試合のハシゴコラムです・・(鳥栖vsレッズ、3-1)(フロンターレvsレエスパルス、2-1)

 

レビュー
 
 まず、テレビ観戦した、鳥栖vsレッズ戦から簡単に・・

 このゲームについては、まず何といっても、鳥栖が展開した、攻守にわたる完璧な「徹底サッカー」を称賛するしかありません。彼らは、まさに勝つべくして勝利を収めた。

 もちろん、相手に応じて様々なバリエーションはあるんだろうけれど、この試合での鳥栖は、決して下がりすぎることなく、積極的な(アグレッシブな)意志を内包する守備ブロックを組織した。

 その機能性は、チェイス&チェックや創造的なインターセプトから、ボールがないところでのマークまで、とにかく素晴らしく忠実であり、一つひとつの勝負アクションに「強烈な意志」が込められているなど、とても高質だった。

 そして、レッズの単調な攻撃を余裕をもって受け止め、次の瞬間には、まさに「爆発!」といった表現がピタリと当てはまる、危険な、そして「徹底した」攻撃をブチかましていくんだ。

 例えば、最前線への一発ロングを放り込み、それに合わせて、できる限り多くのチームメイトがサポートに押し上げる。もちろん、一発で、レッズ守備ブロック背後の決定的スペースを突く(ラスト)ロビング(スルー)パスを送り込んだりもする。

 ただ、鳥栖が展開する「徹底サッカー」の真骨頂は、何といっても、チャンスを感じたチームメイトたちが繰り出す、忠実を絵に描いたような押し上げ(サポートの動き=攻撃でのハードワーク!!)だよね。

 そう、彼らは、攻守にわたる「ボールがないところでの仕事の量と質」が半端じゃないんだ。

 そんな彼らの仕掛けの主役は、何といっても、ワントップに君臨するゴールゲッター、豊田陽平。

 強力なヘディングでの「ロングパスの散らしプレー」良し、ボールを確実にキープして味方を待つポストプレー良し、等など。とにかく、鳥栖トップゾーンで抜群の存在感を発揮する。

 そして、そのゴールゲッター感覚。

 この試合でも、「ココゾッ!」の瞬間に、レッズのマーカーを振り切り、「ここしかないっ!」っちゅう、ニアポストゾーンのスペースへ飛び込んでいくんだよ。

 この試合では、先制ゴールと3点目は、まったく同じカタチで豊田陽平がゲットした。グラウンダーの(トラバース)クロスに、ピタリと、ニアポストゾーン へ飛び込んで決めたんだよ。その「シュートスポット感覚とゴールを決める感覚」に舌を巻いた。豊田陽平だけれど、試合後に、こんな興味深いコメントを残し た・・曰く・・相手マーカーは「タイトに付いてくるタイプだったから、逆にやりやすかった・・フムフム・・

 とにかく私は、攻守にわたる徹底したチーム戦術と、実効あるプレーを観ながら、ユン・ジョンファン監督の優れたウデを感じていた。

 そんな鳥栖に対し、この試合でのレッズは、例によって、強力な相手守備ブロックを崩し切れない・・という弱点が露(あら)わになった。

 要は、変化を演出できないから、どうしても相手ディフェンスの「組織バランス」を崩せない・・だから、スペースを攻略できないしシュートも打てない。

 そんなレッズ攻撃に、鳥栖ディフェンスブロックは、前を向き、余裕をもって対処していたよね。

 もちろん、たまに繰り出されるマルシオ・リシャルデスや原口元気、はたまた梅崎司といった個の才能連中のドリブル勝負には、それなりの危険なニオイは感 じた。でも、その仕掛けにしても、決定的パスやクロス、はたまた直接シュートといった選択肢が足りないから、どうしても鳥栖ディフェンスに簡単に潰されて しまうんだよ。

 レッズの攻撃が危険なニオイを発するのは、やはり、後方からの勝負サポートが効果的に絡んだとき。

 例えば前節では鈴木啓太が爆発した。また、普通だったら、一試合に2度か3度は、槙野智章が危険な「個の勝負」をブチかますことでチャンスを作り出すよ ね。もちろん、柏木陽介が絡む(彼の大きなフリーランニングやパス&ムーブによって引っ張られる)コンビネーションが炸裂したりする。でも・・

 この試合では、「決まった選手」しか、リスキーな勝負プレーを仕掛けていかなかった。そう、鳥栖ディフェンスが正確に予測していた通りにね・・

 これでは、チャンスの流れさえ作り出せないのも道理だと思った。残念だけれど・・

 とはいっても、他力本願になったとはいえ、まだまだ「ACL」のチャンスは残されている。

 それも今回は、「守りのマインド」など入り込むスキもないという追い込まれた状況。そう、もう次節のグランパス戦は、勝つしかないんだよ。もうダメモトで、やるっきゃないんだ。

 それは、今のレッズにとっては、とてもポジティブな環境だと思う。まあ、前節のサンフレッチェ戦と同じような「やるっきゃない心理環境」ということなのかな〜・・

 ということで最終節は、極限の勝負マッチが展開されるよね。三位争いでも・・降格リーグでも・・

 その両方で、4チーム(!?)が、サバイバルマッチを闘わなければならないんだよ(三位争いでは、マリノスにも理論的なチャンスはある!?)。もちろん なかには、数字的に、「守りのマインド」という心理的なワナが待ち構えているチームもいるし、フッ切れてやるっきゃない・・という(ある意味で楽な!?) チームもいる。

 そのテーマについては、ご自分で情報を収集し、考察してくださいね。とにかく、お互い、手に汗握る最終勝負をとことん楽しみましょう。

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 さて次は、極限のダイナミズム(力強さ・・活力・・)が支配したガチンコ勝負、フロンターレ対エスパルス。ホント、最初から最後まで、手に汗にぎったぜ。

 要は、お互いに、抜群のパワーと意志で、フッ切れた仕掛け合いをブチかましつづけたっちゅう表現に落ち着くわけだけれど、実際にスタジアムで観戦された方々は、たぶん、そんな表現じゃ追い付かない・・なんて思うに違いない。

 それほど、極限のダイナミズムに支配された仕掛け合いだった。

 ハーフタイムに、エスパルスの、アフシン・ゴトビさんが、こんなコトを選手たちに語りかけたとか・・曰く・・

 ・・いい流れだった・・コンビネーションフットボール・・スペースを作る動き・・素晴らしかった・・ただもっと危険な所へとび込んでいけ・・我々のサッカーをこのまま続ければ、追いつき、そして勝てる・・勝ちたい気持ちを見せろ・・

 そう、前半は、内容では完璧にエスパルスが凌駕したんだよ。

 パワフルで、しかもハーモニーあふれる連動ディフェンスが炸裂する。それを絶対的ベースに、エスパルスがゲームを支配するなかで、何度も決定的チャンスを作り出すんだ。そして、2度も、ポスト直撃のシュートをブチかます。

 でも、そんなゲームの流れからすれば、まさに唐突に、フロンターレが先制ゴールを挙げちゃうんだよ。それは、前半27分のこと・・

 一瞬のスキを突いた牛若丸と登里享平による、素早く正確な単純ワンツー。それによって、エスパルスの右サイドをブチ抜いて(登里享平が)送り込んだグラウンダークロスを、ベストタイミングで飛び込んだレナトが、ダイレクトで合わせちゃったという次第。

 とはいってもサ、「あんな」ゲームの流れだったから、その先制ゴールには(ちと、ナイーブに過ぎるかも知れないけれど・・)アンフェアな印象をもった筆 者なのでした。でも・・まあ・・それもサッカー(神様のいたずら=偶然と必然が錯綜するサッカー!?)っちゅうことか・・

 そんな前半だったから、ハーフタイムのゴトビさんの檄は、とても的を射ていたと思った。私も、まさに同感だったから・・

 ただ、後半がはじまって8分。エスパルスが、まさにフェアに勝ち取った同点ゴールをブチ込むんだよ。ショートカウンター気味の流れからドリブルで持ち込んだ高木俊幸が、フッ切れたシュートを放ち、それが相手に当たってフワッとフロンターレゴールに吸い込まれていった。

 同点・・

 そして、そこから、ゲームが、まさにサバイバルのガチンコ勝負・・っちゅう様相を呈していくんだ。それは、一進一退・・なんていう表現じゃ追い付かない。観ている誰もが手に汗握ってグラウンド上の現象を見つめていたことでしょう・・ね。

 でも、最後は、ちょっと判断が難しい決勝ゴールが決まってしまう。フロンターレ・・

 それは、牛若丸のフリーキックから。たぶん、ニアポストゾーンで、フロンターレの田中裕介が(エスパルスの金賢聖とともに!?)アタマで触っていたんだろうネ。

 そして、流れたボールが、ファーサイド側から走り込んでいた矢島卓郎の足許へピタリと飛んでいった・・っちゅう具合。

 ビデオで確認してみた。

 金賢聖と田中裕介がアタマで触ったのは確かだね。でも、矢島卓郎が、その触った瞬間にオフサイドの位置にいたかどうかは、定かではない。映像では、エス パルス守備と「同じ高さ」にいたように見える。そう、だからノーオフサイド・・!? まあ、皆さんも、ビデオで確かめてください。

 とにかく、試合を見終わったときの爽快感は、本当に素晴らしいモノがあった。だから、ゴトビさんに聞いた。

 ・・本当に素晴らしい内容のゲームだった・・これほどのフッ切れた仕掛け合いが展開されたゲームは希だと思う・・それも、ノーガードの打ち合いなんてい う低次元のゲームじゃなく、お互いに、しっかりと人数を掛けて攻め、そして守った・・そんなダイナミズムが最後の最後まで途切れなかった・・それは、涼し かったからですか??・・

 ちょっと最後はふざけた感じになってしまったかもしれない・・スミマセン、ゴトビさん・・

 でも、ゴトビさんは、表情を崩すことなく、あくまでも真摯に応えてくれた。曰く・・

 ・・それは、エスパルスの選手が成長したからだと思います・・ただ試合のなかでは、我々が「組織」を失った時間帯もありました・・そして、相手にスペー スを与えすぎてしまった・・もちろん多くの時間帯では、しっかりと守備をオーガナイズし、効果的なプレスを掛けつづけられていたと思っていますよ・・

 ・・シーズンを通して考えた場合、我々に足りなかったのは、ゴール前での効率の良さ(ゴール決定力!?)という要素かもしれません・・とにかく我々は、パスでも、ポゼッションでも、そしてチャンスメイクという視点でも、大きく進化したと思っているのですよ・・

 優秀なアフシン・ゴトビさん。わたしは、彼が、来年も日本サッカーにポジティブな風を吹き込んでくれることを願って止みません。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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