湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第34節(2012年12月1日、土曜日)

 

ACL、おめでとう!・・(レッズvsグランパス、2-0)・・(2012年12月1日、土曜日)

 

レビュー
 
 レッズは、とても良いサッカーで、AFCチャンピオンズリーグへのキップをもぎ取った。それは、年間を通したサッカー内容からすれば、とてもフェアな結果だったと思う。

 それにしても、この試合でのレッズは、活き活きとプレーしていたよね。もちろん「それ」は、相手のグランパスもまた積極的に攻め上がってきたからに他ならなかった。

 例えば前節の鳥栖戦。

 レッズは、カチッと守備ブロックを組織した相手に、とても、とても攻めあぐんでしまった。もう何度も書いているように、それは、攻撃に変化を生み出せなかったから。

 鳥栖の守備ブロックにしても、単調なレッズの仕掛けからは、自分たちの背後にある決定的スペースを突くような明確な意図が感じられない(危険なニオイがない)ことで、安定して「眼前の現象」に集中していればよかった。

 レッズが、攻めあぐんだ状況でチャンスの流れを作り出すとしたら、両サイドバックのオーバーラップ(サイドハーフとサイドバックのタテのポジションチェ ンジ!)は言うに及ばず、槙野智章とか、鈴木啓太といったディフェンダーが最終勝負シーンに顔を出したケースが多いよね。

 要は、相手守備ブロックにとって「見慣れない顔」が突如として出現し、ウラの決定的スペースを突いていく勝負プレーをブチかましてくるようなケース。多くの場合、相手守備の組織プレーとポジショニングバランスに乱れが生じてしまう。

 それだけじゃなく、一度でも「そんなピンチ」に陥ったら、次からは、レッズの仕掛けコンテンツに対する警戒心が深まることで(相手攻撃の可能性に対するより広いイメージを持たなければならないから!)、ボール奪取プロセスも不安定になっていくものなんだよ。

 そう、守備のクオリティーは、アタマの中に、いかに素早く、相手攻撃(その意図)をイメージ描写し、「それ」を味方と共有できるかに掛かっているんだ。 でもサ、相手の攻撃(仕掛け)プロセスが変化に富んでいたら、そりゃ、組織的な対処が難しくなってくるのも道理っちゅうわけだ。

 そう、鳥栖戦でレッズが繰り出した攻撃は、相手ディフェンスの罠にはまり、とても単調でワンパターンなモノに成り下がってしまったんだよ。

 そんなレッズだったけれど、この日のグランパス戦では、その仕掛けは、とても多彩なものへと変身していた。だから、チャンスの量と質でも、明らかにレッズに一日以上の長があった(決定機の量と質でも凌駕した!)。

 その第一の要因は、(前述したように!)リーグ3位を奪い取りたいグランパス「も」積極的に攻め上がってきたことだぜ(守備ブロックをより開いた!)。

 次の要因は、鳥栖戦では出場停止だった槙野智章が復帰し、勇気のある(効果的)オーバーラップを、何度もブチかましたことだね。そのことについては、も ちろん、槙野智章を前線へ送り出した阿部勇樹の、安定したカバーリング(タテのポジションチェンジの仕掛けワーク)が光っていた。

 そして、もう一つが、この試合でのレッズが、「ゼロトップ」を選択したことだった。

 要は、原口元気をベンチに置き、これまたケガから復帰した(様々なニュアンスで、レッズの組織的な攻撃イメージをリードする!)柏木陽介、マルシオ・リ シャルデス、そして「切れ切れの勝負プレー」を魅せた梅崎司で構成される最前線トライアングルを採用したということです。

 そのゼロトップは、とても上手く機能した。

 そりゃ、そうだ。このトライアングルは、まさに縦横無尽のポジションチェンジを繰り返しながら、後方から押し上げてくるサイドバックや槙野智章(もちろん、阿部勇樹や鈴木啓太も!)と、危険なコンビネーションを繰り広げたんだよ。

 その「変化に富んだ仕掛け」に、「あの」強力なグランパス守備ブロックが引っかき回されるシーンを何度も目撃したっけね。とにかく、この試合でレッズが魅せた活き活きとした組織サッカー(仕掛け)は、なかなかのモノだった。

 このテーマでのミソは、原口元気という、ともすると、安易に「最前線のフタに成り下がってしまうワナ」にはまる傾向の強い「才能あるストライカー」をベンチに置いたことだよ。

 原口元気が最前線のセンターゾーンに陣取ると、どうしても「最前線のフタ」になってしまうケースの方が目に付いちゃうからね。それじゃ、後方のチームメイトたちが、簡単には最前線のスペースを活用できない(そこへ飛び出して行けない)のも道理。

 ただ、ミハイロ・ペトロヴィッチは、そのように、とても高質に機能していた「ゼロトップ」を、後半から、以前のやり方に戻してしまったんだよ。そう、梅崎司と原口元気を交代させた。だから、ミハイロに聞いた。

 ・・とても効果的な勝負プレーを魅せていた梅崎司の交代だけれど、その背景には、何か、戦術的な発想があったのだろうか?・・例えば、1点リードされ、 捨て身で攻め上がっていかなければならないグランパスだから、その守備ブロックがより開くだろう(より薄くなるだろう)・・だから、例えばカウンターシー ンなどで、原口元気の爆発的なドリブル突破が、より活きてくるはずだとかね・・それとも、梅崎司の身体に何か異変があったのか?・・

 ミハイロ・ペトロヴィッチは、梅崎司の交替について、彼が抱えていた「古傷的なケガ」を要因に挙げていた。だから、梅崎司は、万全な状態ではなかったってね。フムフム・・

 まあ、後半から登場した原口元気が、(ベンチスターという刺激を糧に!?)これまでよりも、「持てる才能」をより効果的に光り輝かせたことも確かな事実だったから、その交替は、成功裏に効果を発揮したわけだけれど・・

 最後に、やっぱり、鈴木啓太を取りあげないわけにゃ、いかない。

 とにかく、彼の進化には、大きく目を見張らせられるモノがある。

 もちろん私は、皆さんもご存じのように、彼の汗かきハードワークを、高く、高く評価していた。それこそが、イビツァ・オシムが、彼を当時の日本代表に定着させたバックボーンだった。

 でも、いまの鈴木啓太のプレーコンテンツは、当時よりも、一皮も、二皮も剥けた。そう、汗かきハードワークや、(カバーリングやインターセプトといっ た)守備での忠実&創造性ワークだけじゃなく、攻撃でも、ゲームメイカーやチャンスメイカーとして、ハイクオリティーなプレーを展開できるようになったん だよ。

 以前にも何度か取りあげたけれど、それは、ホント、まさに目を疑うような大きな進化だったんだ(鈴木選手・・スミマセン・・)。

 彼の、中盤での安定したボールコントロールを基盤にしたゲームメイキング(ボールプロヴァイダー≒効果的な展開パスの供給プレイヤー)だけじゃなく、リ スキーな「仕掛けのタテパス」を供給するチャンスメイカーとしてのクオリティーもまた、ホントに素晴らしいレベルに達している。

 だからチームメイトも、詰まったら鈴木啓太を探すようになっている。もちろん「その背景」には、鈴木啓太が、例によって忠実に動きつづけることで、常に前線をサポートできるポジションに素早く着いていることもある。

 攻守にわたる忠実でダイナミックな汗かきハードワークは「今までのまま」に、プラスして、ゲームメイク&チャンスメイクのクオリティーを大幅にアップさせた鈴木啓太。脱帽です・・

 ある人が、こんなことを言っていた。曰く・・

 ・・湯浅さん、そこには、ペトロヴィッチ監督の、チャレンジしたときのミスを、決してネガティブに捉えないというコーチング姿勢もあると思いますよ・・だから啓太もミスを怖がらなくなったし、解放され、どんどん進化していったと思うんです・・

 ナルホド、ナルホド。

 その方のハナシも含め、ミハイロに質問した。

 ・・その方の言うとおりだとしたら、それは、コーチとしての優れた腕の証明ということだけれど、そのことについて、たまには自画自賛してくださいな・・

 ミハイロ、曰く・・

 ・・サッカーは本物のチームゲームだ・・良い結果が出たら、そのときは選手とチームを讃えるんだ・・逆に、試合に負けたり内容が良くなかったりといったネガティブな現象については、オレが責任を取るし、そのことを受けたメディアの攻撃も、オレが受けて立つ・・

 ・・オレは、優れたコーチの下で(もちろん、イビツァ・オシムも含むよ!!)、有意義に学ぶ機会に恵まれたんだ・・試合に負けたときは監督がチームを守 り、勝ったときは、後ろに下がって(目立たずに!?)タバコを吸う・・とにかく監督は、常に選手の側に立っていなければならないんだよ・・

 あっ、そうそう。ミハイロは、こんなニュアンスの興味深い内容もコメントしていたっけね。曰く・・

 ・・我々が志向するサッカーは、リスキーなものだ・・誰もが、勇気をもって(積極的に)攻撃へ参加していくんだ・・我々が目指す組織(コンビネーション)サッカーでは、人数を掛けなければ実効レベルを高められない・・

 ・・例えば、ワシントンとか、そんなタイプの選手がいれば、攻撃プロセス(仕掛けのイメージ)は固まってくるから、より、攻守にわたる(人数やポジショニングの!)バランスをマネージしやすくなる・・要は、リスクを回避することができるというわけだ・・

 ・・でも、我々が目指しているのは、よりハイレベルな組織サッカーだ・・そこでは、出来る限り多くの人数を掛けて攻め上がっていくし、相手にボールを奪 われたら、効果的な攻守の切り替えをベースに、出来る限り素早くディフェンスの組織を作り、対処することに努めるんだよ・・

 ・・そう、リスクチャレンジのないところに進歩もないんだ・・

 そういえば、ハーフタイムのミハイロ・ペトロヴィッチの指示に、こんなモノがあったね。曰く・・

 ・・運動量が大事なんだ・・とにかく相手よりも走ること・・

 来シーズンのレッズの発展が楽しみじゃありませんか。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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