湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2012年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第6節(2012年4月14日、土曜日)
- 今節も二試合をレポートしまっせ・・(FCTvsA、1-2)(RvsVI、2-0)
- レビュー
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- とても興味をそそられる内容の、ドラマチックなエキサイティングマッチだった。
実質的な内容では、まさに互角。でも最後は、勝負強い(チーム&ゲーム戦術を徹底的につらぬいた!?)アントラーズが勝ち切った。
わたしは、試合中から、そんな勝負展開(決着)になりそうな予感がしていた。だから、アントラーズが決勝ゴールを叩き込んだとき、鳥肌が立った。そう、その決勝ゴールは、もちろんカウンターから・・
「そんな決着に落ち着きそうな・・」っていうのは、両チームのサッカーに明確な差異があり、この試合では、機能性でアントラーズに一日の長あり・・と感じていたからです。
(ランコ・ポポヴィッチが高らかに宣言するように)たしかにFC東京は、攻守にわたって人とボールが動きづける、組織的で魅力的なダイナミック(攻撃)サッカーを展開している。だから彼らは、積極的に(前から!)ボールを奪いにいく。
それに対して、(ベンチ入り禁止になったジョルジーニョ監督に代わって指揮を執った)アイルトンコーチが言うように、あくまでもアントラーズは、しっかりとした(強固な!)守備組織を絶対的ベースに、チャンスを効果的に(大切に!?)活かすという強い意志を前面に押し出す、質実剛健な攻撃を仕掛けていく(ちょっと意味不明・・でもここでは、ゴメンで済ましちゃう筆者なのだ〜!)。
ということで、試合のイニシアチブは、FC東京が握っている。でも、実質的な「勝負要素」としての実効チャンスの量と質では、明らかにアントラーズに分があるのですよ。そう、アントラーズがブチかましつづけた必殺カウンター・・
・・それに対してFC東京は、たしかに「チャンスの流れ」は作り出すけれど、多くの場面で決定的なカタチを作り出すところまでいけない(まあ、石川直宏や羽生直剛が放ったミドルシュート場面はよかったけれど)・・彼らの決定機は、流れのなかからではなく、ほとんどがセットプレーから・・例えば、後半78分のフリーキックシーン・・大竹洋平が蹴ったボールを、例によって森重真人が、まさに爆発的なキャノンヘッド一閃・・誰もが息を呑むほどの絶対的な決定機・・でも無情にも、ボールは僅かに左に逸れた・・そんなニュアンス・・
ランコ・ポポヴィッチが自ら宣言しているように、FC東京のサッカーは、リスクに溢れている。ボールを奪い返せそうになったら、もう一人が、ボール奪取勝負に絡んでいくだけじゃなく、その回りでは、次の仕掛けをイメージして上がっていく者だっている。まだ、自軍がボールを奪いかえしたわけじゃないのに・・
そんな積極的な(強烈な意志をブチかます!)ダイナミックサッカーは魅力的だし、日本サッカーにとっても、とても大きな価値を提供してくれていると思う。だから、感謝しながらも、「ポポ・・もうちょっと、リスクマネージメントにもエネルギーを注がなきゃ、カウンターから何点でもブチ込まれちゃうゼ・・」なんて、心のなかで心配するのですよ。
でもサ、攻めているときから、次の守備(リスクマネージメント)をイメージし、前後左右の人数とポジショニングのバランスを取ろうとするのでは、「落ち着き」とか「安定」なんていう(特に日本人にとっては!?)心惹かれる(!?)キーワードに代表されるような『後ろ向きの消極サッカー』というワナ(心理的な悪魔のサイクル!?)にはまっちゃう。フム〜〜・・難しいネ、サッカーは・・
ということでゲームは、FC東京のやり方を(ランコ・ポポヴィッチのパーソナリティーを!?)正確に把握し、注意深くゲーム戦術を練ったアントラーズが、「それ」を徹底的にやり抜くことで、まさに自分たちがイメージしたとおりのカウンターを二つも決めて勝ち切った。
試合後の記者会見でランコ・ポポヴィッチが、こんなニュアンスの内容をコメントしていた。
・・アントラーズは強いチーム・・彼らのサッカー内容からすれば、いまの成績は信じられない・・そのこともあって、とても注意深くゲームに臨んだのだが・・ただ我々は、自分たちのサッカーを決して曲げないし、これからも「それ」をとことん追求していくつもりだ・・
いいね、ランコ・ポポヴィッチ。
とはいっても、ランコ・ポポヴィッチにとっては、自分たちのサッカーを突き詰めていこうとする積極的な意志が「減退」しないような、クレバーで効果的な「リスクマネージメント」も、これからの課題ということになるね。
アジア・チャンピオンズリーグという「ハードな日程」だけではなく、これからはじまる「日本の夏」という厳しい環境も含めて、ランコ・ポポヴィッチの手腕に注目しましょう。
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はい・・ということで、レッズ対ヴィッセル戦です。
実はこの試合、もしテレビの映像作りがヒドかったら、書くのを止めちゃおうと思っていました。中継元は、鬼門のスカパーだしね。とにかく、フラストレーションが溜まった状態では、コラムなど楽しく書けるはずがない。
でも、そんな心配は杞憂に終わった。このゲームの映像作り、部分的には不満なところもあったけれど、全体的には、とても良かったと思うのです。テレビ映像作りの全体的な傾向として、このまま良い方向へいってくれると嬉しいのですが・・。
ということで私は、ボールがないところでの「せめぎ合いドラマ」まで、しっかりと楽しんでいましたよ。ボールがないところでの、攻守にわたる創造性のせめぎ合い・・
・・そう、ディフェンダーによるマークと、そのマークを外してスペースでパスを受けるアクションのぶつかり合い・・もちろん、カバーリングアクションや、次のパスを読んだ、美しいインターセプトアクションなど・・とにかく、ボールがないところでの「予想アクション」までも視認できるのが心地よいことこの上ない・・
特にレッズ。
最前線のポポや両サイドバックだけじゃなく、マルシオ・リシャルデスや柏木陽介、交替で押し上げてくる鈴木啓太や、素晴らしい後方ゲームメイカーとして機能する阿部勇樹、はたまた最終ラインからオーバーラップしてくる(!)槙野智章といった面々がブチかましつづける、ボールがないところでのフリーランニング(相手マーカーの視線を盗む爆発スタート!)が魅惑的なんだよ。
彼らのボールがないところでの動きだけれど、それがあってはじめて創造的なボールの動きも出てくる。そう、ボール(パス)を呼び込む動き。要は、3人目、4人目の動きが、しっかりと、実効あるボールの動きとリンクしつづけるっちゅうことです(=フリーでボールを持つ選手の演出!)。
両者(人とボール)の動きが、どんどんと連鎖し、重なり合う。それがあるからこそ、素晴らしいコンビネーションに舌鼓を打てる。
とにかくレッズの場合、互いに「使い・使われる」という「汗かきのメカニズム」に対する共通理解が深く浸透していると感じる。だからこそ、本物のコンビネーションを機能させ、「それ」で決定的スペースを攻略していける。観ていて胸がすく。
また、余裕のあるカタチで決定的スペースを攻略できるからこそ、両サイドバック、ポポ、マルシオ・リシャルデス等の才能ドリブルも、最高のカタチで活かすことが出来る。
まあ・・、ミハイロ・ペトロヴィッチのストロング・ハンドが見えてくる・・っちゅうことでしょ。
とにかく、鈴木啓太と阿部勇樹で構成する「絶対的な重心」をチームプレーの機能性コアとして、その周りで繰り広げられる、縦横無尽にポジションチェンジを繰り返す(変化のオンパレードの!)組織サッカーは、見所満点だよ。
たしかに、守備の組織的な機能性にしても、ボールを動かす「リズム」にしても、まだ課題は山積みだけれど、それでも、正しい方向へ、とても実効あるカタチで進化&深化している今のレッズを観るたびに、とても楽しい思いにかられるよね。
とにかく、進歩している個人やグループを見ることほどハッピーな体感はないということです。もちろん、自分自身の学習機会としても・・ね。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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