湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2013年3月2日、土曜日)

 

マリノス対ベルマーレには興味深いテーマが山盛りだった・・レッズは、とても良いサッカーを展開し順当勝ちを収めた・・(マリノスvsベルマーレ、4-2)(サンフレッチェvsレッズ、1-2)

 

レビュー
 
 よ〜しっ!・・2013シーズンが開幕したぜ・・なんて、とてもウキウキした気分でゲーム観戦に入っていった筆者でした。マリノス対ベルマーレ。

 このゲームは、様々な視点で、とても興味深いポイントが満載という展開になりました。まず、何といっても、ゲーム立ち上がりからベルマーレがブチかましつづけた、究極の「闘う意志」。

 とにかく、彼らが仕掛けつづけたプレッシング守備が、えも言われぬほどに素晴らしかったんです。それも、最前線のキリノやエジバウドといった外国人選手が、率先してボールを追いかけ回す(チェイス&チェックを仕掛ける)んだからね。

 もちろん、彼らだけじゃなく、梶川諒太(ヴェルディ当時は、何度も彼のことを取りあげたっけ!)や守備的ハーフコンビと両サイドバックも含めて、とにかく、その高い位置からのプレッシングの「力強さと忠実さ」には度肝を抜かれた。

 度肝を抜かれたのは、マリノスも同様だったね。

 たしかにボール保持(ポゼッション)という視点じゃ、彼らの方がちょっと上だったかもしれないけれど、決定的スペースを突いたチャンスメイクという視点では、まさに圧倒されていたんだよ。

 そんな前半の印象については、両監督も完璧にシェアしていたよね。

 ベルマーレのチョウ・キジェ監督などは、ハーフタイムに、「よ〜しっ・・前半は、市民クラブらしく闘えているぞっ!!」なんていう檄まで飛ばしちゃったらしい。彼らしい・・

 まあ、謙虚な姿勢で全力の誠実プレーを展開できているぞっ!!・・ってな意味なんだろうけれど、市民クラブっていう表現には、もっと別な意味合いも含まれていたりして・・こんど聞いてみよう・・

 とにかく、前半のベルマーレが展開した「強烈な意志をブチかます」積極サッカーを観ながら、相変わらずチョウ・キジェは素晴らしい仕事をしている・・なんて、心から拍手をおくっていた。

 そんなベルマーレ主導のゲーム展開は、後半もつづく。

 たしかに後半の立ち上がりは、(樋口靖洋監督のゲキが効いたのか!?)マリノス選手たちの動きのダイナミズムは、少しアップしたという印象だった。で も、ボールがないところでの勝負の動きが足りないから、ベルマーレ守備ブロックのウラに広がる決定的スペースを効果的に攻略するというところまで行けな い。フムフム・・

 そして後半16分、そんな、ベルマーレがゲームの実質的な流れを押さえるという展開に大きな転換点が訪れるんだよ。

 そのキッカケになったのは、やっぱり、ゴールだった。ベルマーレのキリノが、この試合2点目となる逆転ゴールを決めたんだ。

 右サイドで、素晴らしいアタックでボールを奪い返したハン・グギョンが、そのままタテパスを送り込んだ。そのタテパスをキリノが受け、マリノス守備を振り切ってゴールへ流し込んだっちゅう次第。これで、ベルマーレが「1-2」のリードを奪ったのです。

 そして、やっと、眠れる獅子が目を醒ました。そう、マリノス選手たちの目の色が、本当の意味で(!)変わったんだよ。

 彼らの目が覚めたことを如実に感じさせた現象は、もちろん、守備。要は、彼らの闘う「意志」が何倍にもレベルアップしたっちゅうことです。

 樋口靖洋監督も、記者会見で言っていたっけね、「前半は、ボールをしっかりと奪い返せなかった」。そして・・

 そう、やっとマリノスの守備でのハードワークが「かみ合い」はじめたんだ。忠実に仕掛けられるチェイス&チェック。そしてそれが、ボールのないところでの守備(ボール奪取)アクションとうまく連動しはじめたんだよ。

 そんな覚醒のアクティブサッカーを観ながら、「そう・・それだよ・・!」なんて、口をついていた。

 そして、そんなダイナミックな連動ディフェンスが機能しはじめたことで、次のマリノス攻撃の流れまで大きく改善する。そう、守備こそが全てのスタートラインなんだ・・

 そこで樋口靖洋監督に聞いた。

 ・・個のチカラじゃ、やはりマリノスに一日以上の長がある・・でも、その個のチカラを効果的に発揮するためには、ハードワークが欠かせない・・それがあってはじめて、個のチカラを(個人勝負プレーでも組織コンビネーションでも!)存分に機能させることができる・・

 ・・さきほど樋口さんは、このゲーム内容は、確実に次につながると言った・・わたしは、その意味合いを、このように捉えていた・・選手たちは、ハード ワークしたからこそ、自分たちの方が優っているはずの個のチカラを最大限に発揮させられたのだという事実を体感した・・その体感こそが、次につながる重要 なバックボーンだと思うのだが・・

 そんな長〜い質問に対し、樋口さんは、例によって誠実に、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれたっけ。曰く・・

 ・・前半は、ハードワークが足りなかった・・それは、冒頭で述べた、ボールをうまく奪い返せなかったということに通じる・・そこでは、互いの距離感が、 うまくシェアできていなかったという背景もあっただろう・・要は、昨年できていたことが、前半はうまく表現できていなかったということ・・ただ、後半は大 きく改善した・・たしかに、その変化の体感は、次につながると思う・・

 そう、マリノス選手たちは、「こうやれば、うまくいく!・・それがなかったから、ジリ貧の展開に落ちこんでいた!」・・という原因を体感したのですよ。

 それは、大きい。まあ、マリノスにとっちゃ、ラッキーこの上ない試合展開だったということですね。

 それに対してベルマーレ。

 彼らにとっても、とても重要な「自信と確信」につながるゲーム内容だったと思いますよ。

 たしかに、マリノスのサッカーが好転してからは、本当の意味で「押しこまれる」展開がつづいた。それでも彼らは、チャンスとなったら、勇気をもって押し上げ、そしてチャンスも作り出した。

 彼らは、勇気をもって(攻守にわたる)リスクにチャレンジしつづければ、必ず良い結果につながる・・という普遍的な事実を体感しつづけた。そのことは、とても、とても大きい。

 チョウ・キジェ監督の記者会見だけれど、彼が席を立ったとき、記者の方から自然と拍手が沸き起こった。まあ、彼らが魅せつづけた素晴らしいサッカーから すれば当然の成りゆきなんだけれど、チョウさんは、「いや・・負けたのに・・」と、ちょっと恥ずかしそうな表情を見せていた。いいね・・

 あっと・・、それとマリノスの齋藤学。ホントに、すごかったね。

 樋口靖洋監督は、「齋藤学については、ケガの状態を見きわめられなかった・・昨日の段階では、ダメかもしれないということだったけれど、今日になってベ ンチスタートを決断した・・そこまで回復させてくれたメディカルスタッフの方々には感謝します・・」と言っていた。こちらも、いいね・・

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 さて、これからサンフレッチェ対レッズをビデオ観戦します。後で、コラムを書き足すことにします。

 このテレビ中継については、スカパーとNHKの両方をビデオに録った。どうしてかって!? そりゃ、この二つのテレビ局の「画面作りポリシー」を見比べるためですよ。

 このテーマについては、先日アップした「このコラム」を参照してくださいネ。では、後で〜〜・・

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 はい・・ということで、簡単にサンフレッチェ対レッズ戦をレポートします。

 結局、ビデオで観たのは、NHK。

 素晴らしいカメラワークでしたよ。カメラを「引く」状況とタイミングがいいから、しっかりと、ボールがないところでの「せめぎ合いドラマ」も観察できた。

 そのせめぎ合いは、「意図のぶつかり合い」でもあるからね、とても、とても興味深いんですよ。

 もちろん、実際にパスが来なかったとしても、ボールから遠いゾーンにいる選手が、どのような意図をもち、どのように意志を表現しようとしているか(いたか)などを感じることができる。それもまた、サッカー観戦の醍醐味だからね。

 そんな醍醐味が、スカパーのカメラワークでは、部分的にしか楽しめない。

 もちろん、ボールがどちらかのチームの陣内へ入っていけば、カメラのアングルが「斜め」になるから、全体を見わたせる。でも、ボールが後方にあるときの最前線の意図と意志の「動き」を、まったくといっていいほど確認できない。

 ということで、フラストレーションが溜まらないNHKのテレビ中継を観ることにした次第です。

 ところで、先週の水曜日におこなわれたACL。そう、広州vsレッズ。

 たしかにレッズは大敗したけれど、その「レポート」でも書いたように、決して内容が悪かったわけじゃない。でも、広州の(まあ、マルチェロ・リッピ の!)やり方は、事前に予想できていたわけだからね、ヤツらのカウンターを、もっと分厚くイメージしていなければならなかったのかもしれないね。

 でも選手たちは、そのゲームによって、良いイメージを蓄積できたに違いない。そして、「それ」が、この試合で大いに活かされることになる。そうさ、人は、失敗からしか学べないモノなんだよ。その試合のコラムは「こちら」・・

 ということでレッズは、とても上手くバランスしたサッカーを展開した。バランス・・!?

 それは、選手同士の「人数&ポジショニング」のバランスだけじゃなく、全体的な守備と攻撃のイメージ的なバランスというニュアンスも含む。

 要は、先日の広州とのACL戦で、『次の展開を明確にイメージし、対処アクションを用意しておく』ことの重要性を体感し、そのことが、何らかのカタチで活かされているっちゅうことです。

 だから、サンフレッチェも、おいそれと「The ヒロシマ」を繰り出していけない。

 そうそう、この「The ヒロシマ」だけれど、スカパーのカメラワークじゃ、確認するのが難しかったよね。実際に「The ヒロシマ」の、一発ロングが来なくても、それに備える佐藤寿人のイメージと意志(アクションの準備)だって、とても興味深いわけだからね。

 あっと・・The ヒロシマ・・。レッズ守備ブロックは、最前線の佐藤寿人だけではなく、2人目、3人目として、後方から追い越していくオーバーラッパーもまた、しっかりと視野に捉えているっちゅうことです。良いね・・

 ということで、アウェーであるにもかかわらず、完璧にゲームを支配してしまうレッズなのです。それだけじゃなく、実際にゴールまで挙げ、0-2というリードまで奪っちゃう。

 たしかに、1-2になってからは、サンフレッチェが、人数やポジショニングのバランスを大きく崩してでも押し上げてくるような流れになったことで、うまくゲームをコントロール出来なくなった面は否めない。

 まあ、そんなケースで、どのようにゲームをコントロールしていくべきかというテーマについては、選手のなかでディスカッションする必要がありそうだね。

 そのような展開になったら、中盤でのディフェンス圧力をアップさせ、相手の前への勢い(意志)を抑制する必要があるんだよ。その抑制プロセスが、うまく機能すれば、相手の人とボールの動きも、徐々にダウンさせられる。

 でも、(失うモノがなくなった!?)相手の押し上げの意志を「減退させる」までには、とても大きなエネルギーが必要なんだ。何せ相手は、まったく後ろ髪を引かれずに(バランスなどそっちのけで!?)押し上げてくるんだからね。

 だから、ゲームをコントロールしたいチームは、相手の意志エネルギーを抑制するようにゲームをコントロールすることを意識しなければならない。要は、積極的に仕掛けてこようとする相手が、より多く「落胆する」ようにゲームをコントロールするっちゅうわけだ。

 そう、落胆させる・・

 そのためには、もちろん、守備での圧力をアップさせなきゃいけない。この試合では、そんな「忍耐力」が足りなかった部分もあったというわけです。

 まあ、とはいっても、全体的には、レッズの完勝に近い内容だった。それは、フェアな評価だと思いますよ。

 最後に、レッズの興梠慎三について。

 本当に、楽しそうにプレーしていた。彼の、攻守にわたるハードワークが繰り返しツボにはまり、周りのチームメイトのアクションを加速させていたよね。

 ということで、彼が最前線に入ることで、レッズ前線の「動きのダイナミズム」が何倍にもアップすると感じられた。

 そう、動きのダイナミズム。サッカーは、組織的なスポーツだからね。その「動き」は、1人じゃ加速させられない。だから、何人かの「動きの連鎖」が必要になる。

 でも、1人でも、止まってしまったり、周りの動きの「邪魔」になったりしたり、その動きの連鎖が、簡単に断ち切られちゃうんだよ。

 でも逆に、1人のダイナミックな「動き」が、周りのチームメイトたちのアクションを誘発、加速し、全体としての動きのダイナミズムが大きくアップするケースだってある。そう、興梠慎三・・

 そんな、「心理・精神的な動き」や「物理的な動き」の、さまざまに錯綜する「動きの連鎖」にこそ、サッカーの醍醐味があるっちゅうわけです。

 ということで、今日は、こんなところでした〜〜・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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