湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第13節(2013年5月25日、土曜日)

 

フロンターレは、やっと本調子に戻ってきたね・・これからが楽しみです・・(フロンターレvsアルビレックス、 2-1)

 

レビュー
 
 いや、ホント、変化とテーマにあふれた面白いゲームだった。

 前半は、例によって、攻守にわたって忠実なプレーを展開するアルビレックスが、ゲームのイニシアチブを握った。わたしは、三門雄大とレオ・シルバのプレーが、とても気に入っていた。

 この2人は、チームの「重心」として、とても高い実効レベルで機能しつづけたんだよ。もちろん、前線カルテット、成岡翔、田中「兄弟」(アッ・・スミマセン・・達也と亜土夢のことです)、はたまた川又堅碁も、高い意志でチャレンジをつづけていた。

 まあ、そんな前線カルテットの忠実なダイナミックプレーがあったからこそ、中盤の底コンビ(三門とレオ)の機能性もアップしたっちゅうことだね。

 とはいっても、「それ」でアルビレックスが、流れのなかからチャンスを作り出せたかと言ったら、まあ「ノー」だったね。

 とにかく、ジェシを中心にしたフロンターレ守備ブロックが、とても効果的にアルビレックスの仕掛けの流れを断ち切っていたんだ。

 とはいっても、セットプレーでのアルビレックスは、ものすごく危険なニオイを発散していた。彼らは、194センチの金根煥を中心にしたカタチを持っている。

 金根煥に合わせるのもよし、そこで競り合ったセカンドボールを狙うのもよし。はたまた、彼が「オトリ」になって、周りの味方が決めるのもよし。また「高さ」もある川又堅碁もいるわけだからね。でも流れのなかからのチャンスメイクという視点では・・

 というわけで、アルビレックス新潟がペースを握った前半だったけれど、後半は、ガラリと様相が変わる。そう、フロンターレが、実力を発揮してゲームを支配しはじめたんだ。

 ということで、最初のテーマは、何といっても、前半と後半の「ゲーム展開の変化」っちゅう視点にならざるを得ない。

 アルビレックスの柳下正明さんは、その現象を、こんな風に分析する。曰く・・

 ・・前半は、ウチにもチャンスがあった・・アレが決まっていればゲームの流れが変わったかも・・まあ、でも、タラレバ・・そんな前半に対して後半は、フ ロンターレが、前への勢いを加速してきた・・それを、うまくかわすことができなかった・・また、相手のボールを奪った後のプレーの精度をアップさせること もテーマだ・・

 だから聞いた。

 ・・後半のゲームの流れの変容ですが・・私は、フロンターレの前への勢いがアップしただけじゃなく、アルビレックスのサッカーが減退したというふうに「も」観ていたのですが・・

 ・・(微笑みながら)もちろん両チームの(プラスとマイナスの)要素が絡み合っていたということですよね・・

 ・・と、柳下正明さん。

 まあ、当たり前の見方だけれど、コトは、そう簡単じゃない・・と思っているんですよ。要は、もう何度も書いているように、サッカーが、激烈な「心理戦争」であるという視点のことです。

 以前、ドイツサッカーの伝説的なスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーの金言を紹介した。要は・・相手を「勘違いさせた方」が勝つ・・っちゅう視点のことです。

 もちろん、フロンターレがガンガン前へきたことで、アルビレックスの意志が殺がれて心理的な悪魔のサイクルにはまり込んだ・・なんてことは思っていないけどサ・・。

 まあ、ニワトリが先かタマゴが先か・・なんていう因果性のジレンマ(Wikipedia)ってなことなんだろうね・・。

 あっと・・ということで、ここからは、フロンターレに絞り込んだテーマが主体になります。

 まず、何といっても、牛若丸。えっ・・!? 誰のことか分からない!? 

 スミマセン・・以前から、中村憲剛のことを、そのプレーぶりの印象から、牛若丸って呼ぶことにしているんですよ。

 この試合でも、中盤のリーダーとして抜群の存在感を発揮した。

 まあ、チームメイトにしても、彼が中盤でゲームを「仕切っている」ことこそが、自分たちの成功の最大のリソースだと思っている!?

 そんなだから、誰だって、積極的に彼を探してボールをわたすでしょ。そしてケンゴは、抜群の展開力を魅せつづけるというわけさ。

 あんなにイニシアチブを握られていた前半でも、牛若丸からの(アルビレックス最終ラインのウラに広がる決定的スペースを一挙に攻略しちゃうような!!)一発勝負ロングパスで、最初はレナト、次が矢島卓郎と、次々と「唐突」なチャンスが作りだされたよね。

 ボールを持ったとき(パスを受ける直前の段階で既に!)、「まず」決定的スペースを突くチャンスを探るという「プレー姿勢」自体が、牛若丸が一流であることの証明・・っちゅうわけです。

 そして、その危険な一発ロングによって、アルビレックス最終ラインのラインコントロールが、より注意深くなっていくんだな・・これが・・

 そう、牛若丸から放たれた一発ロングには、そんな心理的な効果もあったっちゅうことです。

 それ以外でも、とにかく牛若丸のゲームメイク&チャンスメイクは、見事の一言だった。

 そして後半25分。アルビレックスが、一発カウンターから同点ゴールを叩き込んでしまったことで、風間八宏監督が、勝負へと動くんだ。

 牛若丸の能力を最大限に活用するため、中盤の底に稲本潤一を入れることで、それまでボランチの位置からゲームを組み立てていた彼を、一列上げるんだよ。

 風間八宏による素晴らしい采配。そして、まさに、その交替によって、大久保嘉人の決勝ゴールが生またという次第。

 中盤で巧みにボールをキープすることで、相手の複数選手を引きつけた牛若丸。もちろん最前線の大久保嘉人は、同時に、決定的スペースへ抜け出している。そして、目の覚めるようなスルーパスが、牛若丸の右足から放たれたというわけさ。

 素晴らしい決勝ゴールだった。鳥肌が立った。

 さて、次のテーマだけれど、やっぱりレナトでしょ。

 何せ、これまで、彼の組織プレークオリティーに苦言を呈しつづけていた筆者だからね。やはり、良くなっていることは、素直に評価しなくちゃいけない。

 「彼とは、合宿中から色々と話し合っていた・・そして、最近になって、特に守備がよくなっていると思っているんだ・・守備に入ったとき、彼は、自分の背 後スペースをしっかりとケアーできるようになったしね・・そのことで、もちろん後方の守備ブロックは、大変助かるというわけさ・・」

 レナトに関する「組織プレーが良くなったのでは・・?」という私の質問に、風間八宏監督が、そんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。

 もちろん私は、つづけて、自分の主張をするわけです。

 ・・レナトは、ものすごく効果的にドリブル勝負を仕掛けていけるようになった・・この試合でも、後半の立ち上がりに、何度か、素晴らしいドリブル突破から決定的チャンスを作りだしたわけだが、それが、後半のフロンターレの勢いを倍加させたと思う・・

 ・・わたしは、彼が、1対1の状況でパスを受けられるようになったからこそ、ドリブル突破の威力が倍加したと思っている(以前は、複数の相手に対しても ゴリ押しのドリブル突破を仕掛けていったからネ・・)・・それは、もちろん、フロンターレが、自分たちの組織サッカーを効果的に表現できているからに他な らないと思うのだが・・

 そんな私の主張に対し、風間八宏さんは、「チームの全体的な距離感がよくなったからこそ、しっかりとボールを動かせるようになった」とか、「フリーの定義」といった内容の、難しいコメントをするのですよ。

 もちろん分かるよ。チームの全体的な距離感がよくなったからこそ(ハーフタイムの指示では、特に、パス&ムーブの意識を強調していたらしい・・)、しっかりとボールを動かせるようになったし、組織パスのリズムも高みで安定するようになった。

 また、フリーの定義については、相手との「間合いイメージに対する確信」さえあれば、(現象的に)タイトにマークされていたとしても、スペースでプレーしているのと基本的に同じ効果がある・・だからこそ、落ち着いてボールを動かせる・・とかね。

 まあ、とにかく、フロンターレの調子が上がってきていることは嬉しい限りです。これで、「Jのドラマ」が、より多角化するじゃありませんか。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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