湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第19節(2013年8月4日、日曜日の早朝)

 

組織的に拮抗している(互いに良さをつぶし合っている状況の)ときこそ「個」だ〜っ!!・・(レッズvsサンフレッチェ、 3-1)

 

レビュー
 
 どうも皆さん、本当にご無沙汰してしまいました。フライト手配に手違いがあり、先ほど(土曜日の夜)帰国することになってしまった。

 ということで、この試合はビデオ観戦っちゅう体たらくになってしまったんですよ。フ〜〜・・

 でも、レッズの情報は、刻々と入ってきていましたよ。

 2日前には、浦和レッズマガジン編集長、島崎英純さんの司会で、スカイプを通して大住良之さんと対談したんですが、そこでも、お二人から、さまざまな視点の情報をもらった。

 でもサ、やっぱり自分の目で確かめなけりゃね。ということで、この試合を楽しみにしていたのですよ。でも、手違いが・・。フ〜〜・・

 あっと・・、大住良之さんとの対談ですが、テーマは、Jリーグを前期と後期に分割し、それぞれのチャンピオンが「一発勝負」で雌雄を決するっちゅうリーグシステム(要は以前のシステムの復活!)です。まあ、浦和レッズマガジンを楽しみにしていてください。

 この件については、ブレーメンでの国際会議でも各国サッカーの重鎮連中と話した。当然、全員が、「そんなことはやっちゃいけない・・アジアの名主たるべ き日本だからこそ、特にやっちゃいけない・・そんなことをしたら、これまで培ってきたJリーグの伝統を支えるルーツが消滅しちゃうし、伝統だって根を張っ ていかない・・等など」っちゅう反対意見のオンパレードだった。

 わたしは、経営的に厳しい状況だからこそ、安易な手練手管じゃなく、サッカーの質の向上という現場の努力と平行して、「オラが村のクラブ」という意識を 高揚させ、生活者の「参加意識・当事者意識」をアップさせるという、マネージメントの『地道な努力』が重要だと主張した。

 このまま「前後期分断システム」が強行されたら、マスメディアによって「バブル」が再現されちゃうに違いない。

 それで、バブル・ファンが本物のサッカーファンになってくれりゃ、いいけれど、本物のサッカーファンにとっては、Jリーグの「ホンモノ感(本物の文化価 値と伝統)」は、別格に大事だからネ。それを傷つけるようなコトをしたら、本物のサッカーファンだって拡大していかない。

 それが、「興行の色」が濃くなることで、失われてしまう。もちろん一時的には、マスメディアと「にわかファン」は踊るだろうけれどサ・・

 要は、スポーツ(文化)と経済行為(興行)のバランスをどのように取っていくのか・・というテーマだよね。

 あっ・・またまた脱線しちゃった。スミマセン・・

 まあ、そんなこんなで、ゲームを観はじめたわけだけれど、そこで、もっともストレートに脳裏に飛び込んできたポジティブイメージが、鈴木啓太だった。

 聞くところによると、鈴木啓太は、しばらく怪我で戦線離脱していたそうな。

 そのときは、柏木陽介とか那須大亮が「代役」を務めていたらしいけれど、そのこともあって、レッズの調子が思ったほど上がっていかなかったと聞きました。

 まあ、その真偽がどうかは分からないけれど、この試合での(怪我明けの!)鈴木啓太のパフォーマンスも、いつものように素晴らしかったね。

 ディフェンスでの、守備の起点作り(チェイス&チェック)は当たり前として、穴埋めや協力プレスなどなど大車輪だ。

 そして攻撃では、例によって、「そこ」から、とてもクリエイティブで効果的な展開が生まれる。

 とにかく、「自信」を格段にアップさせた鈴木啓太は、阿部勇樹とともに、攻撃の起点として素晴らしいプレーを魅せるんだよ。

 もちろん、個人勝負(ドリブルなど)で状況を打開するわけじゃなく、あくまでも、シンプルなパスを供給するんだよ。(とはいっても目の覚めるようなスキルを魅せながら・・ネ!)

 周りの味方も、そんな鈴木啓太の「プレーイメージ」を明確にシェアしているから、いつ、どこで、どんなパスが啓太の足から供給されるか、しっかりとシー ンを脳裏に描けている。周りのチームメイト連中が、啓太を探してパスを「付けよう」としているのが手に取るように分かる。

 また彼は、何度も、最前線まで飛び出すような積極性も魅せるんだ。そりゃ、目立つはずだよ。

 たしかにゲームは、両チームともに守備ブロックが強いことで、中盤では「動的に均衡」していたけれど、どうしても「うまく」相手守備ブロックのウラを突いていけないんだよね。

 たしかに両チームともに攻め上がりはするけれど、相手のショートカウンターを警戒しているのか、どうも、攻め上がりに「一人足りない」と感じていた。

 もちろん、一人足りない・・というのは組織サッカーベースの発想だよね。

 そして、そんな「動的な膠着状態」を突き破ったのが、個の才能だった・・っちゅうわけだ。

 そう、原口元気。素晴らしい勢いの勝負ドリブルで相手三人を引きつけ、右サイドを全くフリーで駆け上がった柏木陽介に、最高のコースと種類の決定的スルーパスを通しちゃったんだよ。

 そのレッズの2ゴール目で、ある程度はゲームの行方は見えてきた感じがしたよね。

 今回のドイツでの国際会議でも、「・・あくまでも組織サッカーが絶対的なベース・・ただ、そのなかで、しっかりと攻守のハードワークもこなすドリブラーの存在が、とても重要になってくる・・」なんていうテーマが話し合われた。

 当たり前のことのように聞こえるだろうけれど、ディベートされた状況は、「動的な拮抗状況」を打破するための、もっとも効果的な手段・・という「副題」が付くわけなのです。

 そう、この試合での、守備が安定している両チームの「組織的なせめぎ合い」という拮抗した状況を、原口元気という天才ドリブラーが、ブチ破ったんだよ。

 そう、仕掛けの変化。ホントに素晴らしいゴールだった。最終勝負のキッカケだけじゃなく、フィニッシャーまでこなしてしまった原口元気に乾杯!

 そしてもう1人。興梠慎三。

 彼が2つのゴールを決めたから言うんじゃないよ。とにかく、彼がいるからこそ、レッズの、最前線へのタテパスに「意志が宿るように」なったと思っている筆者なのですよ。

 この試合でも、何度も、何度も、最前線の「起点」として、相手に潰されながらも、しっかりと粘ってレッズのボールにしちゃった。とても、とても素晴らしい存在だと思いますよ。

 もちろん、戻って、タテパスを「呼び込む」だけじゃなく、タテの決定的スペースへ飛び出したりもする。そんな興梠慎三の「変幻自在なボールがないところでのプレー」にも、乾杯!!

 まあ、組織サッカー的には、攻守にわたって甲乙つけがたい両者ではあるけれど、そんなときにこそ「個のチカラ」が発揮されなきゃいけないんだよね。

 この試合じゃ、原口元気の勝負ドリブルと、興梠慎三のボールがないところでのプレーが、光に光っていた。

 アッ・・彼らが光り輝けるのも、その周りで忠実なサポートをつづけている柏木陽介、ダブルボランチ、両サイドバックがいるからこそなんだけれど・・ネ。

 だからサ・・サッカーは、究極のチームゲームだっちゅうわけなのです。

 何か、意識がもうろうとしてきた。もう寝る・・ではまた〜・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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