湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第20節(2013年8月10日、土曜日)

 

グランパスが魅せた、粘りの勝負強さ・・でもレッズも、正しい発展ベクトル上を前進しつづけている・・(グランパスvsレッズ、 2-0)

 

レビュー
 
 どうも皆さん、今日「も」、緊急事態が発生したことで、スタジアム観戦はかないませんでした。

 ホントは、等々力でフロンターレ対FC東京の勝負マッチを観戦し、その後、グランパス対レッズをビデオ観戦するつもりだったのですよ。でも・・

 まあ仕方ない。

 ということで、まずグランパス対レッズをテレビ観戦し、明日、アルディージャ対セレッソ、そしてフロンターレ対FC東京をビデオ観戦してレポートすることにします。悪しからず・・

 そのグランパスとレッズの対戦だけれど、ゲーム全体を通した「まとめ」」としては、グランパスが「粘り」の勝負強さを発揮した・・というニュアンスになるでしょうかネ。

 というのも、全体的なサッカー内容では、明らかにレッズに一日以上の長があったからです。

 特に前半。

 両チームともに慎重に立ち上がった序盤は五分五分の展開だったけれど、徐々にレッズの展開力・・というか、ボールがないところでの動きの量と質が(そして、だからこそボールの動きの量と質も!)グランパスを凌駕しはじめるようになっていきました。

 その「凌駕」の意味合いは、もちろん、スペースを攻略していくプロセスの「内容と成果」で、明らかにレッズが優位に立ちはじめたということです。

 とにかく、誰が見ても、グランパスの守備ブロックが「揺さぶられている」のは一目瞭然だったのですよ。

 レッズの攻撃は、やはり多彩。

 もちろん組織コンビネーションが絶対的なベースではあるけれど、その「組織的な流れ」に、組織ハードワークでも発展しつづけている原口元気に代表される「個の勝負」が、効果的にミックスされていくのです。

 この「効果的ミックス」という表現がミソ。

 組み立てプロセスでは、あくまでも組織プレーに徹し、そして(相手守備の薄いゾーンでパスを受けるなど!)チャンスを見出した瞬間には、勇気をもって、ドリブル勝負をブチかましていく。

 もちろん原口元気だけじゃなく、両サイドバックも、とてもタイミングよくドリブル勝負を繰り出していくんだよ。

 だからこそ、基本的にはとても強いグランパス守備ブロックにも、「不安定な雰囲気」が、漂いはじめるんだ。

 守備ブロックは、自分たちが「振り回されている」と感じたとき、より受け身になってしまう。要は、ブロック全体の「足が止まり気味」になっていくことで、読みのインターセプトや協力プレスが掛かりにくくなるっちゅうわけです。

 そして、そんな流れに乗ったレッズが、前半のロスタイムには、2つの決定的シーンを作りだすのですよ。でも、その2つの決定機でゴールを割ることが出来なかった。そして「そのこと」が、後々まで尾を引くことになる。

 後半も、前半と同様に、レッズがイニシアチブを握るという展開でゲームがスタートした。

 レッズ選手たちも、忍耐づよく「このリズム」を維持していれば、前半と同様に、かならず「ワンチャンス」に恵まれる・・と確信している。その感性(自信と確信)こそが、勝者のメンタリティーの本質的な意味合いなんだろうね。

 でも後半のグランパスは、前半とは違った。彼らは、見違えるほどに思い切りのよい最終勝負を仕掛けていくようになったんだ。

 立ち上がりの4分あたりだったろうか。左サイドバックの阿部祥平が、シンプルなタイミングで、ニアポストスペースへ向けてラストクロスを入れたんだよ。

 この「シンプルなタイミング」と、ニアポストスペースへの飛び込みというのが、その勝負プレーの「ミソ」だったね。

 それは、明らかに、ベンチの指示だったはず。

 ・・よりシンプルなタイミングで(もっと積極的に!)、サイドからクロスを入れていこう・・そんなチャンスになったら(チャンスを感じたら!!)、必ず前線の一人は、ニアポストのスペースへ飛び込んでいくぞ・・

 そう、後半のグランパスの仕掛けでは、明らかに、意志(イメージ)が、より明確に「統一」されたと感じた。

 その阿部祥平のクロスは、「ニア」に飛び込んだ小川佳純のアタマにピタリと合った。そして、そのピンポイントで「フリック(流しヘッド)」されたボールは、ファーサイドゾーンで待ち構えていたケネディーの足に、ピタリと合うんだ。

 でも、ケネディーの左足のフリーシュートは、バーを越えてしまう。呆然とするケネディー。

 しかし、グランパスの全員が、その決定的チャンスによって奮い立ったことは言うまでもない。そうだ〜っ!!・・いけるぞっ!!・・ってね。

 そこから、グランバスのサッカーが勢いづいたことは言うまでもありません。そう、ホンモノの心理ゲームであるサッカーの面目躍如。

 そして、確信レベルをアップさせたグランパスは、その後も、例によっての「粘りディフェンス」を絶対的な基盤に、チャンスを狙いつづけるんだよ。組み立てでも、カウンターでも。

 後半13分。今度は、右サイドバック田中隼磨が、先ほどの阿部祥平と同じような、早めのシンプルタイミングで、クロスボールを放り込み、それが、ピタリと、藤本淳吾のアタマに合う。

 ただ、藤本淳吾のフリーヘディングシュートは、バーを越えてしまう。でも、その決定機もまた、グランパス選手たちの確信レベルを押し上げたでしょ。ヨシッ・・これでいいんだ〜っ!!・・ってね。

 そして、そんな確信プレーの積み重ねが、後半15分のグランパス先制ゴールを生み出すんだ。それは、まさに、完璧なカウンター。

 最後は、80メートル近くフルスプリントで押し上げ、ラストパスを玉田圭司へ通した小川佳純のスーパー汗かきプレーが光り輝いていた。

 でも、後半19分のグランパス追加ゴールは、完全にレッズ守備陣のミスが原因だった(レッズ守備陣の集中切れ=その集中切れを誘ったグランパスのスーパー集中プレー!)。

 この追加ゴールシーンでは、まず槙野智章が、藤本淳吾の「後方からのオーバーラップ」に、完全にウラを取られてしまった。

 また同時に、ワンツースリーというコンビネーションで抜け出した(そして最後にシュートを決めた)ケネディーの動きを、那須大亮はしっかりとイメージできていなかった(ケネディーのパス&ムーブをイメージて最後までマークすべきだった!)。

 もちろんサッカーには失敗はつきもの。だからこそ彼らは、そんな一回の「イメージ描写ミス」が致命傷になる・・という事実を、再認識しなければなりません。

 そう、そのミスを、クリエイティブな学習機会だと考えるべきなんだよ。そんな学習プロセスを忠実に踏まえる選手だけが、脅威と機会は表裏一体・・と言えるわけです。

 最後に、久々にグラウンド上で躍動した山田直輝についても・・

 正直、嬉しかったネ。一つひとつのボールがないところでの動きの質・・そして、ボールをもった時のプレーの質・・

 楽しみが・・それも極上の楽しみが、増えたじゃありませんか。ガンバレ〜、直輝〜〜・・

 ということで、この試合では、グランパスの粘りの勝負強さ「も」フェアにレポートした次第です。

 もちろんレッズが、正しい発展ベクトル上にいること、そして着実に前進していることは言うまでもないよね。まあ、次だ、次だ。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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