湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第24節(2013年8月31日、土曜日)

 

変化に富んだエキサイティングマッチ・・そして、とてもバランスの取れたレッズのメンバー構成(選手タイプの分布)・・(レッズvsアルビレックス、 1-0)

 

レビュー
 
 ・・最後の瞬間まで、勝負がどちらに転ぶのか、誰にも分からなかった・・それほど拮抗した(優れた)勝負マッチだったと思う・・

 ・・この気候、このハードな日程・・それでも、両チームは、最後の最後までダイナミックに全力を出し切った・・

 ・・両チーム選手の諸君に感謝し、祝福したい・・

 最後の文章は、私の創作・・というか、全体的な発言ニュアンスからは、ミハイロ(ペトロヴィッチ)は、そのこと「も」語っていたと思うわけなのです。あははっ・・

 ということで、このゲームは、またまた「起伏」の大きいゲームになったですね。

 例によって・・というか、(全体的なサッカー内容が大きく向上しつづけている・・ホントに強くなっている=柳下正明が良い仕事をつづけている!)アルビレックスは、最初から、レッズのボールの動きを封じようと、前からプレスを掛けてきた。

 もちろんレッズは、アルビレックスが、「例にもれない」ゲーム戦術サッカーを仕掛けてくることは先刻ご承知。だから立ち上がりは、前節マリノス戦のように、術中にはまるようなことはなかった。

 要は、レッズも、ダイナミックな中盤守備をベースに、しっかりと人数を掛けて押し上げていったということです。

 そうそう・・ゲーム立ち上がりから「その」サッカーをやればいいんだよ・・相手との総合力(実力)の差は、相手以上に「攻守ハードワーク」をこなさなければ、見せつけられないからね・・

 でも・・

 そう、前半7分に田中達也が放った「惜しいミドルシュート」を境に、徐々に、アルビレックスの勢いが、レッズを押し込みはじめたのです。

 これは、とても微妙なニュアンスだけれど、まあ、アルビレックスの守備の方が、その実効レベルでレッズを上回りはじめたっちゅうことですね。

 そしてレッズ選手は、その「流れの変化」を体感し、これは、ちょっと守備を安定させなければいけないゾ・・なんていう心境になって、今度は「受け身プレーに過ぎて」しまう。

 本当に強いチームだったら、守備を安定させながらでも、しっかりと次の攻撃に人数を掛けていけるモノだよね。でもレッズは、そんな「主体的なゲームコントロール」という視点でも、まだまだ課題を抱えているんだよ。

 要は、素早い攻守の切り替えと、攻守のハードワークの量と質・・というテーマ。

 ボールを奪い返したら「全員」で攻め上がり、ボールを奪われたら、間髪入れずにディフェンスに入って、誰もが厳しいチェイス&チェックをブチかますんだよ。

 そんな、強烈な意志に支えられた、素早い切り替えと、主体的にコントロールする「走りの量と質」が十分だったら、相手にペースを握られ「つづける」なんてことは考えられないよね。

 そう、優れたサッカーでは、全員守備、全員攻撃プレーを忠実に実行するなかで、攻守にわたって、できる限りたくさん「数的に優位な状況」をつくり出しつづけるのさ。

 あっと・・試合・・

 ということで、徐々にゲームのイニシアチブを握っていったアルビレックスが、決定的チャンスも含め、シュート数でレッズを上回るようになっていった前半なのでした。

 ところで、前半39分の、アルビレックス田中達也の交代。

 私は、怪我か何か、身体に問題を抱えていたに違いないと思っていた。でも、そのことについて聞かれた柳下正明監督は、キッパリと、こんなニュアンスの内容をコメントしたんだよ。曰く・・

 ・・彼は、狙われ過ぎていた・・パスを受けるたびに、アタックされてボールを失っていたんですよ・・たしかに前節は、とても良いプレーを展開した・・でも今日は、キレがなかった・・だから、簡単に狙われ、ボールを失っていた・・それが交替させた理由です・・

 ちょっと、ビックリ。でも、そんな強烈なコメントには、柳下正明のプロコーチとしての「確固たるウデ」が如実に表現されていたと思う。

 アルビレックスが、ここまで進化&深化しているのも、頷(うなづ)ける・・っちゅうものじゃありませんか。

 あっと・・またまた脱線・・ということで試合・・

 そんな前半だったけれど、後半の立ち上がりは、流れがレッズに傾いていく・・というか、前半立ち上がりのような、動的に均衡したゲーム展開にもどった・・といったほうが正確な表現かもネ。

 要は、前述したように、中盤での攻守にわたるハードワークがもどってきたことで、レッズが、本来の「実力の差」を感じさせられるようになった・・という表現もできそうだね。

 そして、互いに攻め合いながらも、その内実では、レッズが、チャンスの量と質という視点でゲームのイニシアチブを握りはじめるんだよ。

 もちろん、ハーフタイムでのミハイロの檄が効いたという側面もあるよね。要は、選手たちの、潜在意識のなかに(本音に)突っ込んでいき、彼らの闘争心を活性化したということです(恐怖心を取り除くことで彼らの心理・精神を解放したというニュアンスも含めて・・!?)。

 そしてミハイロは、どんどんと次の手を打っていく。

 後半10分には、鈴木啓太に代えて、原口元気を投入するんだ。もちろん、柏木陽介が、阿部勇樹のパートナーになる。

 この采配は秀逸だったネ。

 もちろん私は、鈴木啓太が抜けたことは、とても残念に思っていた。でも、この交替によって柏木陽介は、後方から、アタマを上げた状態でパスを受けられる状態が多くなるはず。

 そのことは、こんな厳しい「せめぎ合いゲーム」のなかでは、とても効果的だと感じたんだよ。

 それまでの柏木陽介は、後方からタテパスを受けることで(相手ゴールを背にした状態でパスを受けることで!)背後からのハードチャージを受けつづけていたからね。

 そして・・

 そう、この采配が、ズバリッ、決勝ゴールとなって実をむすぶんだ。後半16分。

 その、ルックアップしながらボールを持ち込む柏木陽介と、最前線で待ち構える興梠慎三の「目」がピタリと合ったんだよ。そして興梠慎三が、スッと、マークする相手の背後に回り込むんだ。

 この、オフサイドラインを正確にイメージした決定的フリーランニングも、ホントに秀逸だった。そして、言わずもがなの柏木陽介の素晴らしいスルーパスが決まった・・っちゅう次第。

 あっと・・興梠慎三のループシュートも素晴らしかった。ということで、この決勝ゴールは、柏木陽介と興梠慎三で、半分ずつに分け合いましょう。あははっ・・

 そして、ここから、レッズの強力ディフェンスブロックの仕事がクライマックスを迎えるっちゅうわけだ。

 レッズ守備ブロックは、とても、とても安定したディフェンスを魅せつづけた。

 人数があまっていても、決して「アナタ任せ」にすることなく、まずオレが、オレが・・っちゅう主体的な(強い意志に支えられた)ディフェンスを魅せつづける。

 忠実なチェイス&チェック・・カバーリング・・協力プレス・・ボールがないところでの相手の動きに対する忠実マーク・・などなど。

 ここでは、変な「アナタ任せプレー」が目立たなかったことが特筆だね。

 要は、「ボールに絡めない」選手たちが、常に、次、その次をイメージしながら、主体的に、そして忠実にディフェンスをつづけたっちゅうことです。

 よく、いるじゃない。ボールに絡めない選手が、ボールウォッチャーになって、まさに「そこにいるだけ」のプレイヤーに成り下がっているシーンが。

 それって、周りのチームメイトにとっちゃ、ホントに、いるだけで迷惑なヤツなんだよね。

 でも、オレが、オレが・・という積極的なプレーが重なって(味方同士で!)ぶつかり合うような雰囲気になれば、まず相手が萎縮しちゃうんだよね。「あっ・・こりゃダメだ・・」なんてネ。

 そんな、とても主体的で(強烈な意志に支えられた)積極的な雰囲気があった・・この時間帯のレッズ守備ブロックには・・。

 それの方が、勝ったことよりも大きな収穫だったかも・・あははっ・・

 ところで、レッズのメンバー。

 私にとっては、最後尾のスリーバックと阿部勇樹(鈴木啓太)、最前線の興梠慎三と2列目の柏木陽介は、代替が効かないメンバーなんですよ。まあ、今のところだけれど・・

 そして、その「代替の効かないポジション」も含めて、チームにはライバルがひしめいている。

 最終ラインには、永田充、坪井慶介もいるし山田暢久もいる。両サイドには、いまは固定されている先発の二人以外に、もちろん梅崎司(今日は、素晴らしい戦う意志と効果的なハードワークを魅せつづけていた!)や関口訓充もいる。

 また中盤には、鈴木啓太(彼は実質的に代替が効かない選手・・でも今日のように、展開によっては柔軟に使われるケースもある・・)、マルシオ、原口元気、山田直輝がいるし、山田暢久だって、まだまだ中盤として活躍できるだけの実力を備えている。

 このコラムの締めとして、チーム総合力を増幅させる健全なライバル関係(エネルギーのぶつかり合い)を高みで安定させる上で、とても効果的なメンバー構成(選手タイプの分布)だと思っていることを強調したかった筆者なのでした〜・・

 では、また。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

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