湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2013年9月28日、土曜日)

 

とても、とても立派なサッカーを展開したベルマーレ・・リードを守り切ろうとしてドツボにはまったレッズ・・(ベルマーレvsレッズ、 2-2)

 

レビュー
 
 ちょっとビックリ・・

 何せ、「レッズリードのままタイムアップへ・・」ってな雰囲気が濃くなっている・・と感じていたからね。誰も、そこから、こんなシーソーゲームになるなんて想像していなかった!?

 面目ないです。プロコーチともあろう者が、そんな、イージーな観戦態度になってしまって・・。そして、ハタと思い出した。私は、もう数え切れないほど、「信じられない神様ドラマ」の証人になったハズなのに・・ってね。

 ホント、穴があったら入りたい・・ってな心境でした。

 でもサ、私が、そんな「雰囲気」に包み込まれてしまった背景には、ベルマーレのチャンスメイクに限界を感じていたこともあったんだ。

 たしかに、両サイドゾーンから、ダイナミックな人とボールの動きをベースに、危険な流れは創りだすよ。でも「それ」が、実際の決定的チャンスにつながるという確信が出てこない。フム〜・・

 スミマセンね、チョウさん。でも、面目ないけれど、ホントに、そんな感覚があったんですよ。後半20分あたりまではネ。でも、その後は・・

 そしてゲームが終わってから、内容を反芻し、反省していたっちゅう体たらくだったんです。

 ・・たしかにベルマーレの攻めには、それ相応の「勢い」があった・・ただ、最後のところで、強い「個」を基盤にした強力なレッズの組織ディフェンスに、ギリギリのところで抑えられていた・・

 ・・でも、ベルマーレがブチかます前への勢いは、何度「止められて」も、ダウンすることがない・・そのことは、ボールがないところでの動きの量と質からも確認できる・・

 ・・たしかに、そうだ・・そして徐々に、レッズのゴールが近づいていき、レベルを超えた勝負ドラマがはじまった・・っちゅう次第・・

 ここでは、そのドラマの経緯は追いかけない。それよりも、ベルマーレの、今シーズンの軌跡を追う方が、何倍も、興味深い。

 たしかにシーズン当初は、「J1」の雰囲気に呑まれて(!?)寸詰まりのプレーに終始し、結果も散々だった。そのことが、とても悪い「得失点差」となって、今でも苦しめられている。

 でも、チョウ・キジェさんが言うように、シーズン当初の失点の「内容」と、今の失点の「内容」は、たしかに違うよね。

 守備ブロックが振り回され、ウラを突かれでブチ込まれた失点と、戦術的にも高度な「せめぎ合い」のなかで、ギリギリのところで喰らう失点とは、そのコノテーション(言外に含蓄される意味)が、まったく違う。

 要は、チョウ・キジェがチームを受け持ってからというもの、ベルマーレは、とても素敵な発展を遂げている・・ということです。そして、今でも、その発展プロセスが、まさに「質実剛健」に継続しているんだよね。

 チョウ・キジェは、とても優秀なプロコーチだと思うよ。

 試合後の会見で交わされた、後藤健生さんとか、私との「やり取り」を全て網羅するのは大変だから、ここでは、チョウ・キジェのコメントを、ニュアンス的に「まとめる」だけでご容赦くださいネ。

 ということで、チョウ・キジェ、曰く・・

 ・・試合を決めるファクターは、メンタル、フィジカル、テクニック、タクティックなど、たくさんある・・でも私は、メンタルほど重要なファクターはない と思っている・・わたしは、監督として選手に接するというよりも、人間として、しっかりとした(大人の)関係を構築している・・

 ・・この試合では、選手たちは、本当によく闘った・・心から敬意を払う・・私がチームを受けもった2年間では、多分ベストマッチだと思う・・

 ・・(強いレッズを相手に!?)点が取れた・・逆転もできた・・選手は、本当に大きく成長している・・たぶん自分の方が、選手たちの成長についていけてないかもしれない・・

 ・・彼らは、自分の判断と決断でプレーしたのです・・

 その最後の言葉に、後藤健生さんも、私も、特に反応したんだよ。でも、我々からの質問は、省きます。あははっ・・

 ・・とにかく、「J1」で闘えていることが、選手たちに、一言では表現できないほどの貴重な学習機会を与えている・・だからこそ選手たちは、ものすごい勢いで伸びている・・

 ・・例えば、相手との間合いにしても・・(ここでチョウさんは立ち上がり、その間合いをジェスチャーでデモンストレートするんだよ・・いいネ)・・ 「J1」と「J2」では、雲泥の差なんですよ・・ピンチにしても、「J1」だったら、ほんの些細なミスでも失点を喰らってしまうでしょ・・

 ・・そんな体感を積み重ねることで、選手たちは、格段とも言えるほどのスピードで、そして大幅に進化しているんです・・

 ・・そして、そんな進化をベースに、徐々に、成功までも体感できるようになってきた・・

 ・・それもまた、次のステップアップへのプロセスを助長するんです・・そう、まさに善循環サイクルが、すごいスピードで回りつづけているっちゅうことなんです・・

 ・・そして、考えられないほど力強く、選手たちのレベルを引き上げていく・・とにかく、「J1」での体感は、(後藤さんが言われるように!)筆舌に尽くしがたいほどの効果をもたらしているんです・・

 ・・また、悪い結果になってしまったからといって、そのリスキープレーをやらないようにするなど「守り」に入ったら、選手は絶対に伸びない・・リスクチャレンジこそが進化のリソースという発想も、とても重要です・・

 ・・とはいっても、リスクの内容は、しっかりと理解しておく必要もありますよね・・責任転嫁のリスクチャレンジとか、無謀なリスクチャレンジでは、マイナス面の方が大きくなってしまいますから・・

 ・・エッ!?・・求めることと、指示することは本質的に違うかですって?・・

 ・・たしかに違うと思います・・求めることは、目標イメージを与えることと同義に近いでしょうからね・・それに対して、指示をしすぎたら、それは考え方のステレオタイプに陥らせてしまう危険が増してしまいますよね・・

 ・・要は、臨機応変の(心理)マネージメントということですが、そこで大事になってくるのは、求めるならば、最初から最後まで「同じ内容」を求めつづけなければいけないということだと思います・・

 ・・また、言っていること(その実質的なニュアンス・意味合い)を変えないということも、とても大事な要素だと思います・・

 ・・私は、選手が、勝負に拘(こだわ)ることで、自分の判断と決断で、勇気と責任感をもって、リスキーなプレーに「も」チャレンジしていくプロセスこそが大事だと思っているわけです・・

 いいネ、チョウ・キジェ。

-------------------

 スミマセン・・ここから、レッズに関するコメントを短くまとめます。

 冒頭でも書いたとおり、レッズは、とても「イージーなマインド」で、リードしたままゲームを「終わらせ」ようとしていた・・と思う。

 要は、プレーしている選手たちが、ベルマーレの攻撃を、「そんなに怖くはない・・」と感じ、「これだったら守り切れる」と確信したことで、積極的に攻め上がらず、守備ブロックを安定させる方向へと舵を切った・・ということです。

 とにかく、プレーしている選手たちが、もっとも「相手の実力」を、正確に把握できるわけだからね。

 そして、ドツボにはまった。

 たしかに前半は、先制ゴールの後も、しっかりと攻め上がった。

 まあ、確かに、ベルマーレが全体的に押し上げ「つづけた」ことで、レッズは、カウンター気味の攻めが多くなったわけだけれど、それでも、周りのサポートの動きも、後半に比べれば、とても活発だった。だから、追加ゴールのチャンスも、効果的に作り出せた。

 でも、「イージーなマインド」がチームに蔓延しはじめた後半になってからは、押し上げ(後方からのサポートの意志!)も、とても限定的なモノへとダウンしていった。

 そして、「ここ」が大事な視点なんだけれど・・

 そう、劇的な逆転劇をブチかまされた後のゲーム展開で、レッズの攻め上がりパワーが、まさに、何倍にも膨れ上がったという事実のことですよ。そう、何倍にも・・

 そんなダイナミックな攻め上がりを観ながら、誰もが、やれば出来るじゃん・・と思ったはず。

 では、どうして、(特に後半にはいってから!)2点目を奪いにいこうとする「意志」がアップしていかなかったんだろう。

 もちろんミハイロ・ペトロヴィッチは、ハーフタイムに、「2点目を奪いに行けっ!」と、檄を飛ばしたはず。

 でも結局は、笛吹けど踊らず・・ってなことになってしまい、「大逆転劇」という、これ以上ないほどの刺激をブチかまされる(ハンマーでアタマをブッ叩かれる)まで意志がアップしていかなかった。

 こんなゲーム展開は、以前に何度も目にしたよね。

 その都度、仲間のジャーナリスト連中が、「こんな詰まらないゲームを展開しやがって・・」と、舌打ちをしていた。

 でもこれまでは、そんな展開でも、しっかりと逃げ切ったケースがほとんどだったよね。

 でも、前節のヴァンフォーレ戦と、このベルマーレ戦は、とても刺激的な(!?)例外になってしまった。

 潮目が変わった?

 いや、そんなことはないと思うし、しっかりと「リードを守り切る」というマインドを醸成していくことも、リーグ優勝へのプロセスを考えれば、とても大事な要素だと思う。でも・・

 そう、「それしかない・・」というか、選手たち自身が「入り込んでしまう」、リードを維持するためにディフェンスを固める(そして一発カウンターを狙う!?)という雰囲気が、強くなり過ぎたら、そりゃ危険だよね。

 だからこそ、基本的には「逃げ切り」の流れに入ってからも、「行くところは行く」という雰囲気を活性化させられるだけの「リーダーシップ」が必要なんですよ。

 そう、全体的な雰囲気が「凝り固まる」のではなく、あくまでも柔軟に対応することで、人とボールの動きを活性化させられるだけのリーダーシップがね。

 まあ、でも、まず最初は、これからの優勝争いを考え、「行くとき」でも、前後左右の、人数とポジショニングバランスを、うまく維持するような、チーム内の「イメージ」を醸成しなければいけません。

 例えば、後方からのサポートを「前へ送り出したり」、次の守備を考えた「バランス要員」を残らせたりするような、コーディネーター(バランサー)とかね。

 まあ、とはいっても、「あの雰囲気のなか」で、本当によく「再」同点まで追いついた。

 そのときに魅せた、「フッ切れた前への勢い」という感覚は、ビデオを見直すことで、しっかりと脳裏に焼き付けておくのが肝要でっせ。それは、とても、とても貴重な「イメージ資産」だからね。

 ということで、今日は、こんなところでした。

==============

 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]