湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第4節(2013年3月30日、土曜日)

 

どうだろう、フロンターレは、本当に正しいベクトル上にいるのだろうか?・・(フロンターレvsヴァンフォーレ、 1-1)

 

レビュー
 
 それでは、全体的な印象から・・

 まず、何といっても、ヴァンフォーレが魅せつづけた素晴らしい組織サッカーをピックアップしなけりゃいけない。

 もちろん、その多くは、忠実なチェイス&チェックと、ボールがないところでの高質な連動アクションなど、ディフェンスにおいて表現される。

 だから、特に前半のフロンターレは、まったくといっていいほどスペースを攻略できなかった(チャンスらしいチャンスを作り出せなかった!)。

 まあ、とはいっても、素晴らしい守備を魅せつづけたヴァンフォーレがチャンスを作りだしたかと問われたら、先制ゴールのシーン以外じゃ、目立ったものはなかったと言うしかないけれど・・

 それでも、全体的なゲームの流れと勝負の流れは、完璧にヴァンフォーレ側にあった。

 そんなゲームを観ながら、「このままフロンターレが、後半もペースアップできなかったら・・まあ、ヴァンフォーレの順当勝ちってことになるよな・・」なんて思っていた。でも・・

 そう、後半のフロンターレは、徐々に良くなっていったんだよ。

 ハーフタイムに、風間八宏監督が、「もっと互いの距離を自分たちのイメージ通りにしよう・・それをベースに、もっとしっかりとボールを動かしていこう・・」という指示を出したとか。

 また、前半は完璧に「孤立」していた牛若丸(中村憲剛)に、ゲームメイクをサポートする味方を配置したことも功を奏したらしい・・(風間監督の弁・・)。

 それでも私は、フロンターレのサッカー内容に、かなり不満だった。だから聞いた。

 「わたしは、風間さんが志向するサッカーのキーワードは、ボールの動き(そのリズムと正確さ等など)だと思っている・・その視点では、パトリック、レナト、そして大久保嘉人で組む前線のトリオは、どうもミスキャストに思えてならないのだが・・」

 要は、わたしのフラストレーションの中心は、この3人が、ボールを持つたびに、自分のところで「こねくり回す=ボールの動きが停滞する」ことだったんだよ。また彼らは、タテの決定的スペースにも抜け出していかないしね。

 もちろん、ボールをもってから、爆発ドリブル勝負でヴァンフォーレのディフェンダーを何人もブッちぎって決定的チャンスを作りだすんだったら、私も含めて、誰も文句は言えないし、こちらも心から楽しめていたに違いない。

 でも実際は、個の勝負をイメージしながら「足許パス」を要求するばかり。たしかに、トラップ&コントロールは見事だけれど、多くのケースで、ボールを失ったり、無為な横パスやバックパスで「逃げ」たりする。

 守るヴァンフォーレにしても、「そこ」にボールが入ったら、必ず「こねくり回す」から、ボール奪取のイメージをシンクロさせやすい(連動するクリエイティブ守備)。

 そんなフロンターレの前線トリオだけれど、何度、ボールをもつ彼らに、忠実に「寄っていく」牛若丸を目撃したことか。

 もしそこで、素早いタイミングのシンプルパスが回ったら、そこから、どんどんとボールの動きが加速し、ヴァンフォーレ守備ブロックを振り回すことでスペースを作り出せただろうし、それを効果的に攻略することも可能だったでしょ。でも・・

 ということで、そんな私の質問に対して、風間さんは、ちょっとスマイルを浮かべながら、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。曰く・・

 ・・前の3人は(そのプレー内容は)、後半はよくなっていったと思う・・この3人は、タイプが違うけれど、それぞれにチームコンセプトにフィットしてい くはずだ・・フロンターレのサッカーに対する理解も、徐々に深まっているし・・とにかく、彼らは、とても優れた能力の選手たちだから、これから、どんどん 良くなっていく・・

 フムフム・・。もちろん、そうあってくれなきゃ困るけれど・・どうなんだろうね・・彼らのやりたいサッカーイメージが、そう簡単に変わるとは思えないんだけれど・・

 それに対し、後半から登場し、同点ゴールを叩き込んだ矢島卓郎は、とても良い「動き」を繰り出していた。

 とにかく彼は、パスを受けても、あくまでも素早いタイミングで「次」へとシンプルに展開していたし、パス&ムーブで次のスペースへ動きつづけていた。

 また、彼の真骨頂である、決定的スペースへのタイミングよい抜け出しによって、前線でのボールの動きが加速した。とにかく、彼によって、最前線ゾーンでの「動き」が活性化したし、そのことが同点ゴールのキッカケになったことだけは確かだったね。

 最後に・・。城福浩監督に、こんな質問をしてみたんですよ。

 「この試合でも、ヴァンフォーレは、素晴らしいチームプレーを披露した・・わたしは、サスガに城福さんだと思っていた・・ところで先ほどのコメントです が、そこで、組織だけではなく、個のチカラもアップさせていく・・そのために、トレーニングの質だけは、日本一にする・・と、おっしゃっていました・・た しかに組織プレーは進化させられるでしょうが、個のチカラは、どうでしょうか・・そんなに簡単に高められるとは思えないのですが・・?」

 それに対し、例によって城福浩さんは、とても誠実に応えてくれた。曰く・・

 ・・もちろん、トレーニングによって直ぐにドリブルで抜けるようになるとか、ダッシュのスピードが大幅にアップするとか、そんなことは無理ですよね・・

 ・・私が言った、トレーニングによる個のチカラのアップですが、その骨子は、判断の早さとか、正確さといった、考え、決断し、実行していく能力のことです・・

 ・・それが改善していけば、もちろん、周りとのコミュニケーションも上手くいくようになるだろうし、組織コンビネーションの量と質もアップしていくはず・・その意味で、トレーニングによって「個」のチカラをアップさせるという表現をつかったのです・・

 いいネ・・城福浩。

 とても優れた「ストロング・ハンド」だと思いますよ。まあ・・今さら言う必要などないことだろうけれど・・ね。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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