湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2013年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第5節(2013年4月6日、土曜日)
- 進化する徹底サッカーのアルディージャ・・後半は、本来のダイナミックサッカーが戻ってきたFC東京・・(FC東京vsアルディージャ、 0-1)
- レビュー
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- ・・基本に忠実なサッカーをやり通せれば、やっぱり強い・・個人的な能力(才能)が少し劣っていたとしても、そんなことは関係ない・・とにかく、強い・・
大宮アルディージャが展開した「忠実なサッカー」を観ながら、そんな普遍的コンセプトを反芻(はんすう)していたっけ。
それほど、大宮アルディージャがブチかました、徹底ディフェンスを基盤にした「勝負強いサッカー」が、インプレッシブだったんですよ。
彼らを観ていて、こんなことも思っていた・・
・・アルディージャの進化プロセスを観ていると、手倉森誠が率いるベガルタ仙台や、ユン・ジョンファンが手塩に掛けて育てているサガン鳥栖を連想させられる・・
彼らもまた、しっかりとしたハードワークを積み重ねる堅い守備ブロックを絶対的ベースに、チームを進化させてきた。
そして今では、攻撃でも、相手がどこであろうと、しっかりとボールを保持しながら、ゲームの流れのイニシアチブを掌握する時間帯だって、より長く演出しちゃう。
とても、とても、健全な発展プロセスだよね。シンパシーを感じる。
そんな「発展タイプ」のチームに、大宮アルディージャも参戦してきたっちゅう感じなんですよ。
スミマセン・・。わたしは、アルディージャを事細かにフォローしているわけじゃないから、ちょっと的外れな見方があるかもしれません。そのときは、ご容赦。
ということで、この試合でも、そんなアルディージャ守備が光を放ちつづけるんだよ。
前半は、セットプレー以外、まったくといっていいほどチャンスを作り出せないFC東京。とにかく、前線へタテパスを通そうものなら、パスレシーバーが、すぐにでも、何人ものアルディージャ選手に取り囲まれてボールを奪い返されちゃう・・なんていう感じ。
それだけじゃなく、ボールを奪い返してからの攻撃にしても、昨シーズンとは段違いの自信をみなぎらせた勢いをブチかましてくるんだ。
もちろん基本は組織パスコンビネーションだけれど、チャンスとなったら、チョ・ヨンチョルやズラタンといった個性あふれる外国人選手がドリブル勝負をブチかましていく。
人とボールが活発に動きつづける組織サッカー。だからこそ、そんな個人勝負プレーも、より有利なカタチで繰り出していける。要は、組織サッカーだからこそ、より効果的にスペースを活用できているっちゅうわけだ。
とても実の詰まった「発展」をつづけているアルディージャについて、監督のズデンコ・ベルデニックも、こんなニュアンスの言い回しで、充実感を表現していた。曰く・・
・・半年前のアルディージャは、こんな展開のゲームを勝ち切ることはできなかった・・ただ今は、勝ち切れるだけのチカラをつけてきたと実感できる・・と
にかく我々は、具体的な意図をもって(具体的なイメージをもって)相手ディフェンスを崩していけるまでに進化しているんだ・・もちろん、最終勝負プロセス
には、まだまだ課題が山積みだけれどネ・・
また守備についても、短く、こんなニュアンスの内容をコメントしていたっけね。曰く・・
・・我々は、とても効果的な組織ディフェンスを展開できた・・だからこそ、より効果的に(より高い位置で・・より有利なカタチで!)ボールを奪い返せるようになった・・
・・とにかく、監督として、もっとも嬉しいことは、日々のトレーニングでトライしていることを、選手自身が、実戦で(考えつづけながら!?)効果的に実行できるようになっていることだ・・
それは、よく分かる。コーチにとって、チームとして志向するサッカーを、選手自身の工夫と強い意志をもってグラウンド上に表現できたときほど充実感を味わえる瞬間はないからね。
と、ここまではアルディージャに対する賛辞でした。
ということで、ゲーム内容に戻りましょう。
ことほど左様に、ゲーム全体の流れを牛耳っていたアルディージャだったけれど、後半は、ガラリと流れが変容していくんだよ。
キッカケは、米本拓司の登場。
彼と高橋秀人がダブルボランチを組み、長谷川アーリアジャスール(以下アーリア)が攻撃的ハーフへ上がった。そして、そこからゲームの流れが、まさに風雲急を告げはじめるんだ。
米本拓司の攻守にわたる効果的なハードワーク。それだけじゃなく、彼は、仕掛けの流れにも積極的に絡み、シンプルにボールを動かすことで、人とボールの動きを加速させつづけるんだよ。
サッカーの基本メカニズム・・
人とボールの動きを活性化するためには、とにかく、まず誰かが、ボールがないところで動き回ることがイチバンの近道・・というセオリーがある。
「それ」が周りを刺激し、人とボールが、より活発に動くようになる。そう、「それ」を、米本拓司がコアになってリードしていったというわけです。
とにかく、守備でも攻撃でも、グラウンド全体で展開されるボール絡みの競り合いの全てに、米本拓司が絡みつづけている・・なんちゅう感じ。
そしてFC東京のサッカーに、本来の「勢い」が戻ってくるんだよ。人とボールが動きつづける、全員守備、全員攻撃のダイナミックサッカー。
わたしは、そんな急激な「ゲームの逆流現象」を観ながら、隣に座る、講談社の矢野透さんと、こんなことを話し合っていた。
・・もし、このままFC東京が勝ったら、一番のヒーローは、米本拓司とランコ・ポポヴィッチだよね・・
でも・・
そう、アルディージャが、押しこまれるなかからブチかました一発カウンターが決まりかけちゃうんだ。
それは、2本あったね。でも、東京ディフェンスの必死の守りに、ホントに、ギリギリのところで(まあ、奇跡的という表現もあてはまるですかね!?)守り切れたり、相手がフリーシュートを外してくれたりして命拾いするんだよ。
もちろん、アルディージャがブチかました危険なカウンター「も」また、彼らのチーム戦術的なイメージに組み込まれているんだよ。
決して相手の攻撃を「受けに入る」のではなく、積極的に「ボールを奪いにいく・・」というイメージが、チーム全体に浸透していると感じる。
だからこそ、組織的に連動したディフェンスによって、「追い込み」から「ボール奪取」へとスムーズにもっていける。そしてだからこそ、あれほど危険なカウンターをブチかませる。
記者会見の後に立ち話したランコ・ポポヴィッチも言っていた。
「たしかに、米本拓司の、攻守にわたるダイナミックなプレーで、東京のサッカーが活性化し、ゲームのイニシアチブを握ることができた・・でも、逆に
(チーム全体が前掛かりになったことで!?)あんな危険なカウンターを喰らうという羽目にも陥った・・本当に、サッカーには、常に光と影が付きまとうよ
な〜・・」
まあ、この試合については、こんなところです。
とにかく、わたしは、FC東京が(ランコ・ポポビッチが)志向する、ダイナミックサッカーを支持しますよ。彼らは、正しいベクトル上にある。
だから今は、ブレないことが一番大事。もちろん、ランコの辞書にゃ、ブレるなんていう表現は載っていないだろうしね。
とにかく彼が、いまのベクトルを「より強力に」推し進めていくことについては、まったく疑念の余地はないと思うわけです。そうすれば、すぐにでも、ツキにも恵まれるようになるさ・・。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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