湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2013年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第7節(2013年4月20日、土曜日)
- アルディージャのゲーム戦術が、まさにツボにはまった・・まあ、こんな日もあるさ・・(アルディージャvsレッズ、 1-0)
- レビュー
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- フム〜〜・・、ホントに興味深いダービーマッチになった。
今日はプライベートマター(スミマセン・・個人的な用事という意味合いです・・)が重なったため、帰宅してからのテレビ観戦ということになりました。残念だったけれど、この用事は、どうしても抜けられませんでした。
ところで、この試合のカメラワーク。
もう、抜群。寄るところと、引くところを、要は、ゲームにおける「本当の見所」について、本格的に「わきまえて」いる・・と感じました。
ちょっと高慢な言い回しかもしれないけれど、とにかく、ボールがないところでの、スペースを巡るせめぎ合いまで、存分に楽しめた。本当に、素晴らしい・・
そのカメラワークのレベルは、まさにUEFAチャンピオンズリーグ。感謝します。
そして、だからこそ、アルディージャがブチかましつづけた、(特に守備での)忠実なハードワークの積み重ねを、明確に認識できた。ホントに素晴らしかったね。
前線からの、相手ボールホルダー(≒次のパスレシーバー)に対する忠実なチェイス&チェックをスタートラインに、その周りでは、どんどんと押し上げてくる守備グループが、次のパスを狙いつづける。
アルディージャは、チーム全体が、一つの「ユニット」になって上下している・・なんて感じる。
そこには、押し上げてくる相手攻撃を「受けに入る」なんていう雰囲気は、まったくない。あくまでも、攻撃的に、前から仕掛けていくアルディージャなんだよ。
それは、まさに絵に描いたように忠実でダイナミックなハードワーク(守備)を積み重ねる、積極プレッシングサッカーと表現できそうだね。
その忠実なディフェンスだけれど、周りとの「連動性」は当然として、とにかく創造性が素晴らしいんだ。
要は、レッズが仕掛けてくる、スペース攻略アクションを、ことごとく読み、そして自分主体で(!?)忠実に「人」を抑えてしまうんだよ。
スマートなポジショニングバランスを基盤に、レッズのボールの動きに合わせ、チェイス&チェックと、周りの囲い込みアクションが、素晴らしく美しく連鎖しつづける。
まあ「見え方」は、マン・オリエンテッドな守備ということになるかね。
要は、ポジショニングバランスよりも、より早いタイミングで「人を見る」ようなディフェンスのやり方・・っちゅうわけだ。
そして、高い位置でボールを奪い返しては、最前線ズラタンの効果的なポストプレーをベースに、鋭く、危険なカウンターをブチかましていく。
ズラタンに対する信頼は、もう抜群。だから、周りの味方も、後方から、全力で押し上げていける。強いはずだ。
もちろん「それ」が、ここまでのアルディージャ快進撃の絶対的ベースであることは言うまでもない。
とにかく、アルディージャ守備の「組織的な囲い込みプロセス」が、本当に忠実で効果的なんだ。
もちろん、絶対にマーク相手(パスレシーバー)をフリーにしない(≒決して相手フリーランニングに遅れない!)。そして、最後まで良い体勢でマークしつづけるんだよ。
言うまでもないけれど、そんなマーキングの競り合いに入っていく以前の、忠実で効果的なポジショニングの修正や、(ボールウォッチャーにならないため
の!)ボールと相手を見るタイミング等といった「小さなトコロ」でのプレー内容も、とてもハイレベルだと感じる(優れたカメラワークのお陰で「そこ」まで
観察できる!!)。
そんなアルディージャのサッカーについては、もちろん、ベルデニック監督の手腕という他ないね。
彼は、日常トレーニングにおいて(たまにはビデオを用いて!?)、「小さなコト」を、口を酸っぱくして指摘しつづけているんだろうね。
それも、選手たちが(考えなくても!)自動的にアクションを起こせるようになるまで、ある特定の「刺激」をともなうカタチで、とにかくしつこく繰り返す。そう、イメージ描写とアクションのオートマティゼーション・・
ちょっと冗長になりはじめていると感じるけれど、この、「小さなトコロ」に対する、ある特定の刺激をともなった「しつこい修正」こそが、良いコーチングのキモなんだよ。
そう、優れたプロコーチの「観察眼」と「忍耐力」と「表現力」と「浸透力」などなど。そのことが、言いたかった。
そして後半。
たしかにアルディージャ守備ブロックは、前半よりも押し下げられた。
そりゃ、そうだ。基本的にチカラのあるレッズが、フッ切れて(より人数を掛けて!)押し上げていったんだからね。
でもアルディージャ守備の(前述した)コンセプトには、一点の曇りも出てこなかった。彼らは、最後の最後まで忠実なサッカーを貫いたんだ。
ところでレッズのチャンスだけれど、それは、やはり、サイドゾーンにおいて、後方からのオーバーラップが「はまった」ときに生まれるよね。
梅崎司・・槙野智章・・宇賀神友弥・・。そこからのラストクロスが上手くハマれば、決定機を作り出せるのですよ。より高い確率でね・・
アルディージャ守備ブロックは、「小さなトコロの集中」など、たしかに、とても強い。でも、サイドから、コンビネーションや勝負ドリブルで、ウラのスペースを突ければ、彼らの「守備イメージ」だって万能じゃなくなる。
そう、サイドから仕掛けられたときに、ボールとマーク相手を、うまくイメージのなかで「捉える」のは、簡単じゃないからね。
後半には、槙野智章のオーバーラップ&ドリブル突破からのグラウンダークロスが、とても惜しいチャンスを演出した。そう・・そんな感じ・・
そのためには、もちろん人数を掛けて押し上げていかなければならない。それがあって初めて、サイドゾーンのスペースを突いていける。
もちろん、高い位置でボールを奪い返してブチかます「ショート・カウンター」は言うまでもないけれど(後半29分の興梠慎三の決定的フリーシュー
ト!)、でも、やっぱりレッズは、人数を掛け(次の守備への戻りというニュアンスも含めて、全体的な運動量をアップさせ!)組織コンビネーションをブチか
ましていくのがいい。
そんな組織サッカーが機能すれば、サイドゾーンのスペースを攻略していくプロセスも、より効果的に機能させられるっちゅうわけさ。でも・・
まあ、この試合については、ベルデニックのゲーム戦術(イメージ作り)が、とてもうまく機能したっちゅうことです。
自分たちのサッカーを貫きとおそうとするレッズ・・対するアルディージャは、徹底したゲーム戦術サッカーを仕掛けていった・・
そしてアルディージャは、後方からゲームを組み立てようとするレッズの「やり方イメージ」を、かなりの混乱に陥れた。そのことで、レッズの組織サッカーが、うまく機能しなくなり、修正もままならなかった。
後半は良くなったけれど、「そんな自分たちのチーム戦術イメージ」を見出すまでに時間が掛かり過ぎたっちゅうことだね。まあ、こんなこともあるさ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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