湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第9節(2013年5月29日、水曜日)

 

「良いサッカー」を貫くレッズ・・でも相手は、常に対処(ゲーム)戦術で試合に臨んでくるからね・・(レッズvsベガルタ、 1-1)

 

レビュー
 
 ・・ このゲームで特に目立っていたのは、ベガルタの、巧みなゲーム戦術だったと思う・・それがツボにはまったから、レッズはとても苦しんだ・・それだけじゃな く、PKで先制ゴールを決めるまでには、少なくとも、2つ、3つと、決定的なピンチを迎えた・・そこで失点しなかったのは、ツキに恵まれていたからだと思 う・・

 ミハイロ・ペトロヴィッチに、またまた長〜い質問をしてしまった。

 ・・とはいっても、いまのリーグのなかでは、積極的なリスクチャレンジという視点も含め、レッズがもっとも良いサッカーを展開しているのは確かな事実だと思う・・いまリーグのトップに立っているアルディージャも含めてネ(笑)・・

 スミマセンね、杉浦大輔さん、長〜い質問で。でも杉浦大輔コーチは、とても丁寧に通訳してくれた。有難うございます。

 ・・そこで質問だが・・ミハイロさんの性格も含めて、あくまでもレッズは、自分たちが志向するサッカーを貫きとおすはずだ・・それに対して相手は、今日 のベガルタのように、対処(ゲーム)戦術を緻密に煉ってくる・・だから、これからの全てのゲームが、とても厳しいモノになると思う・・そこで勝ち切るため には、何がもっとも大事な要素になってくるだろうか?・・

 いや、ホント、今日のゲームでは、ベガルタの手倉森誠さんは、心底、悔しかったに違いない。まあ、大住良之さんの質問に対して、「とても悔しい・・」と本音を吐露していたっけ。

 そう、この試合は、手倉森誠さんが思い描いたゲーム展開を、まさにそのまま正確にトレースしたモノになったんだろうね。

 ・・レッズはカウンターが多い・・サイドゾーンから仕掛けてくる・・ウイングバックとスリーバックを分断すればチャンスになる・・相手が人数を掛けて仕 掛けてきたときのカウンターイメージ・・自分たちがイニシアチブを握るようなポゼッション状況のとき・・その両方を、いかに上手く使い分けるか・・などな ど・・

 それらのヒントは、彼がプランしたゲーム戦術の内容を「匂わせる」モノだったネ。

 ということで、ミハイロ・ペトロヴィッチさんは、私の質問に対して、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれたっけ。曰く・・

 ・・正直、この試合は、鳥栖や柏との対戦よりも、やりやすかったと思っている・・彼らとやるよりも、スペースが多かったと思うんだよ・・あと、疲労が ね・・ベガルタよりも丸1日、休息時間が短かったわけだが、そのことが、鈴木啓太のパスがうまく通らなかったり、原口元気のトラップや突破ドリブルが、う まくいかなかったことの背景にあったと思っているんだ・・

 ・・それと、自分のサッカーに、とことんこだわるというポイントだけれど、それは確かなコトだよな・・オレは、つねにコレクティブなサッカーを目指しているんだ・・チームが一丸となった組織サッカーだよな・・

 ・・だから、才能に恵まれた選手の個人プレーで勝とうなんていうやり方はしない・・ということで、私が目指すサッカーは、常に同じなわけだけれど、もち ろん相手は、効果的と考えられる対抗策を練ってくるよな・・だから、ゲームが難しくなることもあるさ・・まあ、それは宿命的なコトでもあるよな・・でも、 オレは、自分のやり方を変えない・・

 ・・オレは、もう55歳だからね、やり方を変えるのには歳を取りすぎていると思うよ・・まあ、こんな監督がいることは、悪いことじゃないとも思っている よ・・また日本サッカーにとっても、考える素材を与えるという意味でも、こんな(頑固な!?)監督が一人くらいいてもいいじゃないか・・

 いやいや、いつも書いているように、ミハイロは、とても正しいベクトル上にいるんだよ。それは、日本サッカーにとっての正しいベクトルでもあるよね。

 まあ、選手たちも、今日は思うようにプレー出来なかったことで消化不良だろうけれど、そんな「足りない感覚」こそが素晴らしい学習機会につながるんだよ。

 ハッピーなモノより、厳しい経験からの方が、何倍も、貴重な学習ができる(考えるための素材を獲得できる)ものなんだよ。皆さんもご存じのようにね。

 ところで、ベガルタの同点ゴール。

 私にとっちゃ、まさに信じられないグラウンド上の現象だった。

 手倉森誠さんは、もしレッズが、リスクを冒して(多くの人数を掛けて)攻め上がってくる状況では、そのスキをカウンターで突いていくというイメージ「も」選手たちに与えていた。

 でも、先制PKゴールを奪ったレッズが、守備ブロックを安定させるのは道理。それが、ものすごくカチッと決まっていたから、ベガルタの攻めは、完璧に抑え込まれていたんだよ。基本的には、とても強いレッズの守備ブロックだからね。でも・・

 まあ、この同点ゴールについては、手倉森誠さんの「采配の妙」というふうに評価するのがフェアだと思いますよ。

 そう、彼も会見で触れていたヘベルチのことです。

 手倉森誠さんは、レッズ先制ゴールの3分後に、迷わず、松下年宏に代えてヘベルチを送り込んだんだ。

 たぶんヘベルチは、手倉森誠さんの「組織サッカーイメージ」からしたら、まだ「ブレーキ要素」の方が多いんだろうね。だからベンチスタート。でも手倉森誠さんは、彼の積極的なシュート姿勢は、高く評価しているらしい。

 会見でも、「ヘベルチが、それまで決定的に足りなかったシュートを打ったことはとてもポジティブだったし、それによって同点ゴールが生まれたんだから・・」なんていうニュアンスのコメントをしていたっけ。

 要は、シュートを打たなきゃゴールが生まれるはずがない・・という事実のことだよ。

 ここが微妙なんだけれど、シュートは、無責任にガンガン打ちゃいいってモンではない。でも、少し無理な状況でも、積極的にシュートにトライする「姿勢(勇気)」ほど大事なプレー要素もない。

 とても眠くなった。明日は名古屋だしね。ということで、今日は、こんなところです。


===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]