湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2015年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第28節(2015年9月19日、土曜日)
- 決勝ゴールシーンの深いコノテーション・・また、本格的に「セカンドウェーブ」に乗りはじめたレッズ・・(マリノスvsFC東京、1-0),(エスパルスvsレッズ、1-4)
- レビュー
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- あっ!!
そのとき、意識が「一点」に集中し、頓狂な声が出た。
そう、マリノスが後半43分にブチ込んだ決勝ゴールシーン。
でもまずゲームの全体像から。
この試合は、ディフェンスがとても強いチーム同士の対戦だったから、両チームともに、まったくといっていいほど、スペースを突くような「高質チャンスメイク」を作り出せなかった。
まあ、たしかに前半には、FC東京では東慶悟、マリノスでは突貫小僧(齋藤学)が、惜しいミドルシュートをぶちかましはしたけれど、それも、まさに単発だったからね。
ゲームのイニシアチブ。
皆さんも観られた通り、それは、マリノスが握っていたし、モンバエルツ監督も、「ゲームは我々が支配したっ!」と、胸を張っていた。でも・・ね。
そう、いくらボールを支配したって、相手ディフェンスの「裏スペース」を攻略できなければ、まさに本末転倒ってなコトになるわけだ。
もちろん、マリノスには、中村俊輔というスーパー(天才)リーダーがいる。
その彼を中心にしたスルーパス攻撃やサイドチェンジの仕掛け、はたまたセットプレーなど、たしかに、シュートチャンスを作り出せるような「キッカケの流れ」までは、マリノスに分があった。
でも、そんな「流れ」を、実際のチャンスにつなげられないんだよ。
FC東京の「守備でのイメージング能力」は、それほどハイレベルだった。
このテーマについては、前節コラムでも書いたから、「それ」もご参照アレ。
とにかく彼らの、ボールがないところでの守備プレーの「量と質」は群を抜いている。彼らは、忠実な連動ディフェンスを最高に機能させるため、抜群の集中力で「仕事を探し」つづけるんだ。
だから、次にマリノスが(中村俊輔が!?)狙いそうなスペースをクレバーに見つけ出し、早いタイミングで「潰し」ちゃったりする。
それだけじゃなく、危急状況に陥りそうになったら、まったく後ろ髪など引かれることなく、自分のマークを放り出してまでも危急カバーリングへ急行したりするんだ。
マリノスが、簡単にチャンスを作り出せないのも道理だった。
そして、「このまま引き分けちゃうんだろうな・・」ってなコトを誰もがイメージしていた後半43分に、まさに唐突に、冒頭の決勝ゴールが決まっちゃったってワケだ。
その決勝ゴールシーンでの決定的ファクター。
それは、まず何といっても、中村俊輔に、「ある程度フリーで」ボールを持たせてしまったという現象から入っていかざるを得ない。
そこでの東京ディフェンスは、何がなんでも中村俊輔の「余裕」を奪わなければいけなかったんだ。でも・・
そう、誰もが「様子見」になってしまい、中村俊輔への間合いを詰める「チェック動作」で十分ではなかったんだ。それが、勝負を決めた決定的ファクターだった。
次の瞬間。
中央ゾーンで待ち構える「富樫敬真」が、「ウェーブ」の動きをしながら手を挙げた。そんなチャンスを、中村俊輔が見逃すはずないじゃないか。
そして、「ここしかないっ!!」っちゅう、最終守備ラインと東京GKの間にある「猫の額のような間隙スペース」へ、まさに「ピンポイント」の、鋭いラストクロスを送り込んだっちゅうわけだ。
それは、まさに世界レベルの「イメージシンクロ最終勝負プレー」ではあった。
・・そのシーン・・
富樫敬真は、日本代表の丸山祐市と太田宏介がポジショニングする「中間ゾーン」から、ベストタイミングで飛び出した。
そう、それまで、最高の集中力で抜群のディフェンスを展開していた二人の日本代表が、置き去りにされてしまったんだよ。
それは、ちょっとショッキングなシーンでもあったね。
その現象について、マッシモ・フィッカデンティ監督の考えを聞いたけれど、彼は、「ビデオを観て、状況を正確に把握したい・・」というコメントに留めていた。
私は、両チームによる、最高レベルの「組織ディフェンス」が主役を張った緊迫ゲームだったからこそ、そのシーンが、このゲームでの「唯一のエキサイティングドラマ」だったと思っていた。
そのとき「だけ」、フッ・・と、世界とも互角に対峙できる強者どもの集中が切れた!?
そして、やっぱりサッカーは、とても深く、怖いスポーツだ・・という事実を反芻していたのだった。
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さて、エスパルス対レッズ。
この試合でもレッズは、素晴らしい「意志のサッカー」をブチかました。
立ち上がりから、ホームのエスパルスを相手に、「大きな流れ」という意味合いのイニシアチブを握り、何度もチャンスを作り出す。
とにかく、いまのレッズは(もちろんメンバー=意志の内実!!=にもよるけれど・・)、攻守にわたって、最高の集中力で仕事(ハードワーク)を探しつづけていると感じる。
もちろん、まずは守備と、その入り方。
要は、攻守の切り替えに対する積極的なイメージング姿勢とでも表現しますかね。その描写能力(≒集中力)が素晴らしいんだ。
彼らは、ボールを失う「かもしれない」という段階で既に、次の守備アクション(チェイス&チェック!!)をスタートさせる準備を整えている(イメージング!!)と感じる。
もちろん、蛮勇エネルギーを放散するような無駄な(多くは危険な!!)ボール奪取勝負アクションではなく、常にチームメイトと「勝負イメージ」をシンクロさせるんだよ。
だから、チェイス&チェックで追いかけ「過ぎる」ことなく、マークをチームメイトに任せたかと思ったら、次の瞬間には「スッ」っと、戻り気味のマーキング作業に入っちゃう。
そんな、守備での「スマート」なコンビネーションも上手く回せているんだ。
チーム全体が、そんなふうに常に、仕事(ハードワーク)を探しつづけているからこそ、スマートで美しい「インターセプト」や、相手トラップの瞬間を狙ったアタックといったボール奪取プロセスも、効果的に機能させられるっちゅうわけだ。
繰り返しになるかもしれないけれど、いまのレッズでは、そんなハードワークを、チーム全員が積極的に「探しつづけて」いると感じる。
だからこそ、「互いに使い・使われる」という、相互信頼ベースの創造的な協力メカニズムが、理想的なカタチで機能しつづけているというわけだ。
そして・・
そう、だからこそ、次の攻撃での組織コンビネーションも、うまく回りつづける。
・・後方での組み立て・・サイドチェンジ・・タテパス・・サイドゾーンへの「開き」・・その逆サイドからの決定的フリーランニング・・またバックパスからのミドル弾や、詰まったときの「放り込み」まで・・バリエーション豊富だから「仕掛けの変化」にも事欠かない・・
そして、どんな「仕掛けプロセス」を経ようとも、そこには、常に十分な人数が揃っている。そう、そこには深い信頼関係があるというわけだ。
そして、だからこそ、ボールがないところでの動きの量と質も、格段にアップしつづける。
観ていて、楽しいこと、この上ないじゃないか。
そんな仕掛けプロセスでは、特に、後半10分の勝ち越しゴールシーンが、絵に描いたようなスーパーコンビネーションだった。
梅崎司の、鋭いサイドチェンジ。
そして、そのパスを、ダイレクトで、逆サイドからフリーで走り込んでくる興梠慎三へラスト(トラバース)パスを通してしまった関根貴大。
このシーンでは、梅崎司の鋭いサイドチェンジが、同時にアクションを起こしていた逆サイドの関根貴大と美しくシンクロしたこと以外に、興梠慎三のフリーランニングも特筆だった。
彼は、自分をマークしている(はず)のエスパルス選手が、完璧にボールウォッチャーになってしまっていることを鋭く察知し、そのまま、そのマーカーや、周りのカバーリング要員の「視線を盗んで」決定的フリーランニングをつづけた。
その走りだけれど、興梠慎三は、パスを受ける関根貴大が、(ボールと!)自分のコトを、しっかりと視野のなかに収めていると確信していたんだ。
それがキーポイントだった。
それにしても美しい勝ち越しゴールではあった。
そしてレッズは、その後も追加ゴールを狙いつづけ、実際に(カウンター気味の攻めから!?)二つのゴールを奪っちゃう。
まあ、この「追加ゴール」というのはレッズの課題の一つだったわけだから、その意味でも、とてもポジティブな現象ではあったけれど、私は、敢えて、「2-1」と勝ち越してからのディフェンスに注目したい。
そこでの守備が、とても「粘り強い」モノだったんだよ。身体と「意志」を張って、しっかりとボールを追い詰めつづけた。だからこそ、効果的な組織ディフェンスを展開できた。
最後に、青木拓矢。
もう何度か、「もしかしたら青木拓矢は、意志のブレイクスルーを果たしたかも・・」なんて書いたことがある。
でも「その後」は、いつもの「落胆」が待っていたものだった。だから、この試合でも、チト「引き気味」で彼のプレー姿勢を観察していた。そして・・
ホントに、フムフム・・これならば・・なんて感じたんだよ。
彼のディフェンスアクションに、これまで以上の「意志」を感じたんだ。
要は、これまでの「トンコ・トンコ」っちゅう覇気のないアクションではなく、メリハリの効いた、爆発的なスタート&フルスプリントのシーンが、とても多くなったっちゅうことだ。
だからこそ、実際のボール奪取シーンに、実効あるカタチで絡めている。
そしてだからこそ(!!)、次の攻撃での組み立てパスの「効果レベル」も格段にアップした。
この「意志の再生&進化」というポイントに関しては、この試合で先発した高木俊幸もまた、徐々にブレイクスルーを魅せはじめたと感じる。
たぶん、槙野智章からガンガン言われたり、武藤雄樹のプレーを「体感」しつづけたことで、彼の「なか」でも、何らかの化学反応が起きはじめているということなんだろうね。
そうそう、次週のアントラーズ戦だけれど、この試合で出場停止だった槙野智章は復帰するけれど、今度は森脇良太が出場停止になっちゃった。
まあ、この試合での先発メンバーで、森脇良太の代わりに槙野智章が復帰するっちゅう感じですかネ。
槙野智章がいれば、高木俊幸も、より元気にプレーするだろうし、相手のアントラーズは調子が良く強いチームだから、その意味でも、レッズの実力を、より「引き出して」くれるはず。
いまから、来週の勝負マッチが楽しみで仕方なくなっている筆者でした〜。
では、また・・
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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ・・という「興行」について。
メディアは、「1.ステージ優勝」なんていうテーマで盛り上がっている。
でも・・ね・・
皆さんもご存じのように、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。
以前の「2ステージ制」とは違い、今シーズンからの「それ」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになるはずだからね。
その後のトーナメントは、まさに「興行」。
そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうからね。
だから、「J」に関わっているサッカー人は、そして読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむっちゅうわけだ。
この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。そこじゃ、いかに2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。
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最後に「告知」です。
実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。
でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。
そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。
だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。
でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。
ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。
一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」。
そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」。
とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。
もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。
まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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